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人間6号 3  作者: 腹田 貝
伝輝とタカシ
5/16

僕達の将来 ④ 対戦

ドリスの提案で、トラのボルハ率いる肉食獣メインクラス対、ドリス達中・大型クラスのサッカー試合が始まった・・・

青ビブス【ドリスチーム(☆はキャプテン)】


〇ゴールキーパー(GK)

マグロ(アジア象)1番


〇ディフェンダー(DF)

スイーパー:五郎(ツキノワグマ)2番

サイドバック:タツヤ(ヤギ)3番


〇ミッドフィルダー(MF)

ボランチ:☆ドリス(ヒト)4番

トップ下:茶介(ヤギ)5番


〇フォワード(FW)

ウィング:晴(ラブラドールレトリバー)6番

センターフォワード:伝輝(人間)7番



赤ビブス【ボルハチーム(☆はキャプテン)】


〇ゴールキーパー

(ホッキョクグマ)1番


〇ディフェンダー

スイーパー:☆ボルハ(トラ)2番

サイドバック:(ゴリラ)3番


〇ミッドフィルダー

ボランチ:ヴァラン(ヨーロッパオオカミ)4番

トップ下:(コヨーテ)5番


〇フォワード

ウィング:(ジャガー)6番

センターフォワード:キコ(ヒグマ)7番


※ボルハチームの1、3、5、6番の氏名は省略しています。

※両チームとも全員雄です。


     ◇◆◇


 ポジションの名前だけは立派だな。

 七人制即席サッカーのフィールドに立ちながら、伝輝はそう思った。


 スタートを知らせる電子音が鳴り響き、フィールド中央でボールと動物達が動き出した。


 動く岩のような敵チームの足と足の間を縫うように、茶介はボールと一緒にゴールに向かって走る。

 小柄な茶介は、敵の体当たりにも近い接近も難なくかわしていった。

 まるでボールと足が紐でつながっているかのように、ボールは茶介の動きについてきていた。


 ゴリラが攻撃を阻止しようと茶介の正面に立ちふさがる。

 そこで茶介は素早くボールを自分の右斜め方向に蹴った。

 その先には晴が予め決めていたかのように、ボールを受け取った。


「ボルハ!」

 ゴリラが叫ぶよりも前に、既にボルハは晴とゴールの延長線上に移動していた。


 晴は一瞬躊躇し、斜め横にいる伝輝にパスをした。

 的確なパスのおかげで、伝輝の足元にボールが到着する。


 伝輝はゴールを見る。

 その先にホッキョクグマが腰を下げて構えている。


 咄嗟に伝輝は右足を振り、つま先で思いっきりボールを蹴った。

「いってぇ!」


 伝輝の叫びと共に、ボールは真っ直ぐゴールに向かって飛んだ。

 晴やMF達も思わず動きを止めて、そのシュートを見た。


 バシッ!


 しかしボールはあっさりホッキョクグマの腕の中に納まった。

 そこそこの勢いがあっても、単純な直線シュートでは決まるはずがない。


「ああ・・・」期待外れという声がどんより漏れた。


(何だ、大したことないな)ボルハはニンマリと笑った。


「行くぜ!」

 ホッキョクグマはボールをポンと手放し、反対側のゴール向けてロングシュートを放った。

 ボールの方へ、動物達もザッと走り始める。


「大丈夫?」晴が伝輝に近付き、心配そうに声をかけた。


「だ、大丈夫だよ」

 つま先がジンジン痛むことよりも、周囲の反応に伝輝は軽く落ち込んでいた。


「サッカー用のスパイクも靴下も履いてないだろ?

 あんまり無理してトーキックすると、爪が剥がれちゃうよ。

 なるべく、靴先の固いところで蹴るか、人間なんだし、足の甲で蹴れば良いよ」


 足の甲??


 足先で蹴り転がす位しかしたことがない伝輝にとって、それは理解に悩むアドバイスだった。


 ホッキョクグマが蹴ったボールを、敵MFのコヨーテが胸で受け止め、自分の足元に落とす。

 ボランチのドリスがスライディングしたが、コヨーテはボールと一緒に跳ね、ジャガーに繋いだ。


 慌てた五郎がジャガーの方に走るが、タツヤはオドオドしたまま動かなかった。

 ボールはジャガーからキコに渡った。


「うぉらぁ! くらえ!」

 ドスの効いた声と共に、ボールは弾丸のようにキコの足元から飛び出した。


「ひゃあ!」タツヤはその場にうずくまった。


 ボールはゴール左斜め部分を捉えていた。


 バチィン!


 にゅっとマグロの鼻が伸び、鼻先がボールに当たり、ゴールは阻まれた。

 弾き返されたボールを、五郎が拾い、近くにいたドリスへパスした。


「畜生・・・」キコは歯切りしながらマグロを睨んだ。


 マグロは鼻先をブンブン揺らしていた。

 普段の生活から、両手以上に使っている鼻だ。

(物を取ったり、食事したりする時は鼻を使うことが多い。

 特に食事は、手を口に近づけようとすると鼻が邪魔になるので、鼻で食べ物を口に運ぶ)

 マグロにとって、鼻が使えるルールは有利過ぎたのだった。


 ボールはしばらくフィールド中央で、両チームを行き交っていた。

 やがてそれをゴールへと動かしたのは、茶介だった。

 茶介は再びボールと共に走った。

 ヴァランやゴリラがそれを止めようと足を絡ませようとするが、茶介は細かいステップで逃れた。


 ボルハが力任せに突進してきた。

 それに対し、茶介はパッとボールを晴にパスし、ボルハの周囲を迂回しゴールへと走った。


 再び晴は茶介にボールを渡す。

 茶介はグッとその場で踏ん張り、ボールをつま先で蹴った。


 その小柄な体からは想像も出来ない、鋭いカーブシュートだった。

 ホッキョクグマの読みは外れ、彼が飛び出した側と反対にボールは飛んでいく。


 ゴールネットは揺れ、ドリスチームは1点を獲得した。


「やったぁー!」

 茶介はピョンピョン跳ねながら、ドリスや晴とハイタッチした。


 一方、ボルハチームの表情が一気に険しくなった。

「お遊びはこれで終わりだぜ」

 ボルハはグルルと唸り、メンバーの顔を見た。

 皆、黙ったまま頷き、それぞれのポジションに戻った。


「すげーな、茶介。

 めっちゃ、キック力あるじゃん」

 伝輝は驚きながら、晴に話しかけた。


「ヤギは有蹄類ゆうているいだもん。

 ひづめがある分、トーキックは強いよ」


 晴の説明に伝輝はなる程と思った。


     ◇◆◇


 1点先制され、ボルハチームの動きが段違いに変わった。

 相手チームよりも身体が大きいことを武器に、とことん相手の動きを遮った。


「どけどけー!」

 キコはタツヤに向かってボールと一緒に走った。

 タツヤは自分がDFであることを忘れて、フィールド隅に逃げた。


「うぉーりゃー!」

 再びキコの弾丸シュートが放たれた。


 それをマグロの鼻が弾き返した。

 しかし、流れを読んでいたかのように、ジャガーがボールを足で拾い、シュートした。

 マグロは一連の動きについていけず、ゴールネットが静かに揺れた。


 野太い少年達の声が、砂埃の中で響いた。


 存外悔しそうにしているマグロに、ドリスが近付く。

「惜しかったな、マグロ」

「ごめん、俺もフォローしきれなかった」

 ツキノワグマの五郎も申し訳なさそうに言った。


「1点取り返せて、向こうのテンションも上がっているはずだ。

 ちょっと守りを強化しよう。

 俺がディフェンダーに回るから、タツヤはフォワードに行ってくれ。

 それから、伝輝がボランチで、晴と一緒に茶介のフォローに入れ。

 敵から点を奪えるのは、茶介しかいないからな。

 頼んだぜ」


 ドリスはパパッとメンバーに指示し、最後に茶介の肩をポンと叩いた。

 茶介は力強く頷いた。


     ◇◆◇


 ゲームは後半戦に突入した。


 ドリスのポジション調整が功を奏し、1点奪われたものの、取り返すことができた。

 2対2のまま、両チーム攻防を繰り返していた。


 ボルハはその中で、苛立ちを募らせていた。

 細かく動く小柄な茶介に、自分のパワーも体格も通用しない。

 どんなに威圧的に接近しても、茶介は冷静に避け、パスをつなぎシュートしていく。


 更に、徐々に厄介になってきたのが、人間の伝輝だった。

 ボールの動かし方こそ、下手くそだったが、とにかくこちらの動きの先を行く。

 まるで考えが読まれているかのように、蹴ったり走ったりしようとする方向に姿を見せる。

 結果、ボールを奪われるのだが、伝輝はパスができないので、ボールは勝手な方向に飛ぶ。

 それをボルハチームが受け取り、仕切り直すが、何度もやられていると、嫌でも苛々してくるのだった。


 ゴリラの足元から、伝輝はボールを別の方向へ蹴った。

 運よくそれは茶介の足元に届き、茶介はシュートする。

 ボールはゴールの上を越えていった。


「ナイスシュート! 良い調子だぞ!」

 ゴールにはならなかったものの、晴は茶介に声をかける。


 嬉しそうな表情を浮かべる茶介の視界に、チラリとボルハが入った。


「どうしたんだよ、スイーパー?

 動きがトロくなってるぞ」


 茶介の言葉に、ボルハはカチンときた。


(舐めやがって。昨日の晩飯と、同じ種のくせに!)


 残り時間もわずかになり、皆、最後の力を振り絞って走った。

 ドリスが何とかヴァランからボールを奪い、晴へ繋いだ。


 伝輝と茶介はゴールへ向かう。

 両チームのメンバーほとんども、同じくゴールへ近付く。


 ボールは茶介に渡り、彼の独擅場どくせんじょうが始まった。

 コヨーテもゴリラも止められず、ボルハがゴール前に立ちはだかった。


「ふざけんなよ、この野郎!」

 ボルハは反則に近い動きで、茶介に接近した。

 ボールではなく、茶介を蹴ろうとする動きも見れた。


 その様子を見た伝輝は二人の元へ近付く。


 茶介はボルハの攻撃をかわしたが、ボールを取られてしまった。

 だが、諦めずに茶介はボルハの足元からボールを奪おうとスライディングした。


「邪魔だ!」

 ボルハは勢いのままに、右腕を振り上げた。

 興奮している彼の手から、爪が出ていた。


 ザリッ!


「!?」


 一瞬だった。

 その一瞬で、場の空気は凍りついた。


 皆、それを見てしまった。


 砂埃が舞う中、仰向けの茶介の上に覆いかぶさるように伝輝が四つん這いになっていた。

 少しして、伝輝はゴロンと寝転がった。

 左肩をギュッともう片方の手で握っている。


 すぐ傍に立つボルハの右手の爪の先に、白い毛糸が絡みついていた。


「あ・・・あ・・・」

 ボルハは自分がやったことを認識すると、ブルブル震えだした。


ー・・・」

 伝輝は隣で寝ころんでいる茶介の方を見た。

 良かった怪我はないようだ。


 安心したのも束の間、茶介の身体が不自然に動き始めた。


「マグロ! すぐに茶介を保健室に連れて行け!

 過呼吸かもしれない!」

 ドリスが大声で言った。


 マグロはバッと茶介を抱え、走って行った。

 タツヤと晴もついて行った。


「あ・・・、あ・・・」


 ボルハは震えたままその場に立ち尽くしていた。

 自分の右手を見ながら、毛を逆立て始めた。


「おめーら! 早く、ボルハを落ち着かせろよ!」

 ドリスは伝輝の身体を起こしながら言った。


 ハッと気付いたホッキョクグマやゴリラがボルハに近付く。


 グルォオオオオー!


 ボルハは唸り声を上げた。

 動物達が彼を押さえつける為に取り囲む。


「落ち着け、ボルハ!

 そうだ、一回元の姿に戻ろう。大きさも戻すんだ」

 ヴァランが必死で声を掛ける。

 キコも加わり、ボルハの身体を押さえた。


 動物達の隙間から見えたボルハの姿は、テレビで見る野生のトラそのものだった。


     ◇◆◇


 伝輝はドリスに支えられながら、保健室に向かって歩いた。

 セーターは破れたが、目立った出血はしていない。


「ドリス、大丈夫だよ。

 一人で歩けるよ」

 伝輝は言った。

 しかし、ドリスの顔はとても暗かった。


「そうか」伝輝から離れ、ドリスは呟いた。


「なぁ、伝輝、頼みがある」

 珍しく重い声でドリスは言った。

「さっきのことは、無かったことにしてくれ。

 お前と茶介がぶつかって転んだってことにしてくれ。

 今から俺、マグロ達のところに行って、話つけてくるから」


 ドリスの意外な発言に、伝輝は目を見開いた。

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