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人間6号 3  作者: 腹田 貝
伝輝とタカシ
14/16

ありさの冒険 ⑥ エミリー合流

初めての人間界に、ありさは戸惑いながらも、伝輝とタカシと共に、人間界にあるテーマーパークNHP(日本歴史遊園)に向かう・・・

 伝輝とタカシが男性用トイレから出てくると、ありさが既に待っていた。

 マスクとニット帽から唯一見える目元を見ると、体調がすっかり戻ったことがうかがえる。


 三人は、新幹線乗車駅に向かう為、ここから地下鉄に乗る。

 先程より、人間は乗っておらず、三人ばらければ、座ることもできた。

 ありさはもう平気な様子で一人電車に揺られていた。


 目的の駅に到着した。

 新幹線乗車駅なだけあり、トランクなど大きな荷物を持った乗客達が、小走りで去っていく。

 ありさは沢山の人間が行き交う広い駅構内を、興味深そうに見ていた。

 移動中、お土産屋や飲食店、雑貨売り場等が並ぶ通路を歩いたが、どれも開店前だったのが救いだった。

 シャッターが閉じていなかったら、きっとありさは走って見に行ってしまっていただろう。


 三人は、あちこちに表示された道案内や看板を頼りに、何とか新幹線乗り場までたどり着いた。

 タカシが黒いバッグから、半透明のナイロンケースを取り出し、二人に新幹線乗車券を渡した。

 ケースをバッグにしまおうとした時、ドサッと何かがバッグに入り込んだ。


「あ!」

 タカシは慌てて口を塞ぐ。

「エミリーちゃん・・・」


 伝輝とありさも、バッグの中を覗くと、白い毛並みのエミリーが丸まっていた。

 こちらに顔を上げ、フンッと鼻息を鳴らす。


「ゴンザレスが選んだ雄猫がイマイチだったから、選ぶのに時間がかかったわ」


「今日はよろしくお願いします、エミリーちゃん(・・・)

 ありさがペコリと挨拶した。


「フンッ、お姫様。

 騎士ナイトを携えて、随分と素敵なご身分ですこと」

 エミリーはプイッと顔をバッグの中へうずめた。


「さ、メンバー全員揃ったし、新幹線に乗るよ。

 車内に猫アレルギーの人間がいないことを願うね」

 タカシがバッグのジッパーを閉めながら言った。


「新幹線! いよいよね!」ありさの声が高くなる。


「俺も初めてだからワクワクするよ」タカシも嬉しそうに話す。


 伝輝は黙ったままだが、自分も初めてなので、実は内心とても喜んでいた。


     ◇◆◇


 三人は自由席に乗る為、長いホームを端から端まで歩いた。

 やがて、白を基調とした細長い車両がホームに流れるように現れた。

 扉が無駄の無い動きでスーッと開く。


 三人は自由席の三列シートを一ヶ所独占することができた。

 迷いなくありさが窓側に座り、真ん中にタカシが座った。

 ありさはともかく、髭ヅラのおじさん姿のタカシが目をキラキラさせて窓の景色を見るのは、少々違和感があった。


「わわ、動き出した」

「すげー、速いな」


 二人が楽しそうに窓を眺める姿を見ながら、伝輝は通路側に座った。

 自分も初めて新幹線に乗るのに、唯一の人間という立場が、浮かれたい気分を邪魔した。


「ねぇ、フジサンっていつ頃見えるのかな?」


「あ、そうだな。

 新幹線に乗ったら、富士山が見えるんだっけ?」


「フジサンはこっちの窓から見えるの? 反対側かな?」


「どっちなんだ、伝輝?」


 気持ちが上がっている二人の声は大きく、伝輝は困惑した。

 サッと周囲を見ると、チラリとこちらを見ている人間の大人達もいるようだ。


「二人共静かにしろって・・・。

 富士山なんか、見れないよ」


「えー、教えてくれても良いじゃない?」

「そうだよ。富士山なんて、滅多に見られないんだし」


「いや、だから、名古屋で降りるんだから、富士山見れる訳ないだろ!

 まーはともかく、タカシさんがその話するのは、何か変だから黙って!」


     ◇◆◇


 二人が落ち着いた頃、車内販売のワゴンを押した女性が通ったので、タカシが声をかけた。


 人間界に動物界の痕跡を少しでも残さないよう、皆、弁当等持参していなかった。


 伝輝とありさはサンドイッチを、タカシは牛肉弁当を選び、ペットボトルのお茶も購入した。


「NHPに着くまで、ゆっくり飯を食う時間はとれないだろうから、ここでしっかり食べとくんだぞ」


 タカシはご飯に乗っていた牛肉一切れを割り箸でつまみ、こっそり膝の上の黒いバッグの中へ入れた。


「タカシさん、気持ちは嬉しいけど、そんな強い味と匂いは苦手だわ。

 鼻が麻痺しちゃいそう」


 バッグから聞こえる小さな声を、伝輝は聞きとった。


 ありさはマスクを外し、ちびちびとサンドイッチを口に入れていた。

 暖房が効いた車内では、三人共既にコートと帽子を外している。

(タカシは案の上、いつもの白いチェックシャツとジーパンだった)


 ありさの顔が出てしまっているのだが、一番窓際に座っているので、目立たないだろうと伝輝は思った。

 それでも、正面側から通路を歩いていく乗客を見ると、少し緊張した。


 伝輝とタカシがとっくに食事を済ませ、しばらくしたところで、ようやくありさが食事を終えた。


「トイレと歯磨きしたいわ」

 ありさはそう言って、タカシと伝輝の前を通り、通路に出た。

 マスクはつけていなかった。


「あり・・・、まー、マスクは?」


「歯磨きしてからつけるわ」

 ありさはポーチを手にして、トイレのある方へ向かった。


「俺も行ってくる」

 伝輝もありさの後ろについて行く形で、通路を歩いた。


 伝輝はトイレを済ませた後、歯磨きをしているありさを待った。

 車両に入ると、帰りは進行方向と逆向きに歩くので、乗客が自分の方を向いている。


「まー、マスクは?」

「置いてきちゃった」

 ありさはケロリと答えた。

 ゴンザレスに注意されているからといって、本人はさほど気にしていないようだ。

 伝輝は緊張するのが、馬鹿らしくなった。


 軽くため息をつき、伝輝は先頭を歩いた。

 なるべく違和感を与えないよう、自分は他の乗客の顔を見ない様に心がけた。

 それでも、フッと顔をあげたり、こちらを二度見しているような視線を感じる。


 カシャリ


「!?」


 ありさが座席に戻る直前、カメラのシャッター音のようなものが、伝輝の耳に入った。

 一気に心臓がバクバク動き始め、伝輝は周りを見ながら座った。


「タカシさん、まー・・・」


 伝輝が何かを言おうとした時、タカシが「シッ」と静かにさせた。


「シャッター音がしたわね。

 まぁ、それが本当にカメラ撮影かどうかは判断できないわ。

 念のため、調べとくけど」

 バッグの中から、エミリーちゃんの落ち着いた声が聞こえる。


「そういうことだ。

 変に気にし過ぎると、かえって目立つぞ。

 名古屋までまだ時間はあるから、お前は少し寝ておけ」

 タカシが優しく言い、その後それとなくありさにニット帽までつけるよう促した。


     ◇◆◇


 新幹線を降りて、そこから更に電車やバスを乗り継いでいく。

 慣れない遠出に三人共フラフラになったが、何とか日本歴史遊園入口にたどり着いた。


 二月とはいえ、土日にも関わらず、今日は一部休園だった。


 日本歴史遊園(N H P)の特徴の一つは、撮影ロケがある場合、来園客を制限することだった。


 それが映画やドラマの制作会社に重宝され、かつ開園時には旬な映画の撮影秘話が客に提供されるので、年中無休でなくとも、来場者数が全国上位になるのだ。


 たくさんの入場ゲートが並ぶ中、今稼働しているのは、ほんの一ヶ所だった。

 そこに人間が集中し、列をなしている。


「俺達もチケットを買って並ぼう」

 三人は、ゲートの列よりも短いチケット売り場の列に並んだ。


 ようやく売り場にたどり着き、タカシは「大人一枚、子ども二枚」と言う。


「エキストラ参加ですか?」売り場の女性は尋ねた。


「はい」すかさずタカシは嘘をつく。


「では、エキストラ参加証を三名分提示してください」


「え?」


「印刷したものでも、携帯電話の画面でも構いませんが」


「あ・・・いや、持っていません」


 伝輝とありさも、心配そうにタカシのやりとりを見る。


「では、一般来園となり、本日は資料館のみとなりますが、よろしいでしょうか?」


「どうしても、駄目ですか・・・?」


「申し訳ありません。

 参加証をお忘れのようでしたら、一度エキストラ募集スタッフにご相談をお願いいたします」


 ざわざわと背後から声がする。

 寒空の下、待つ許容範囲の時間を越えてしまったようだ。


「一般来園のチケットをお願いします・・・」



 資料館のみのチケット代金は、通常よりも安かった。

 しかし、これでは長倉澄華がいるであろう、ロケ地までは行けないはずだ。


 チケット購入後、三人は一旦列から離れ、人間が近くにいないことを確認した。

 タカシは焦りながら、カバンを開き、覗き込む。

「どういうことだよ、エミリーちゃん?」


「当たり前じゃない。

 こんな大型撮影ロケのエキストラを、たった数週間前で募集してると思ってんの?!」


「でも、このままじゃあ、俺達エキストラとして、中に入れないよ」


「そうよ!

 これじゃあ、来た意味ないわよ!」

 ありさがやや強い口調で言った。


「知らないわよ!

 NHPに長倉澄華がいることは、ちゃんと確認したし。

 ここまで来れたんだから、後は自分達で考えなさいよ!」


 エミリーはピョンっとカバンから、飛び出した。


「まぁ、お姫様は誰かが用意してくれないと、なーんにもできないんでしょうね。

 だから、連中にもお姫様って言われて、だーいじに育ててもらっているんだろうけど」


「何ですって!?」

 

 ありさはカッとなり、大きな声を上げたが、タカシが「止めろ」と言った。

 パッと見野良猫のエミリーに向かって怒るのは、不思議な光景になってしまう。


「フンッ! 私の仕事は一通り終わったんだから、後は好きにさせてもらうわ」

 そう言うと、エミリーは近くの茂みへとジャンプし、そのまま姿を消した。


明記しませんが、彼らは出発駅から名古屋間では富士山が見られない場所から、新幹線に乗っています。

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