不定冠詞の拡大用法について考えよう
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輪郭をなぞる。
この首元から肩にかけての華奢な曲線が好きだ。
閉じた瞼を少しだけ、くすぐったそうに動かしている。
探り続ける指先。
官能を貪るよりも、ゆっくりと一歩ずつ確かめ合うのが最優先。野性よりも聖性。これがあくまで理想だった。
私たちは、生きようとしていた。
この世界の誰よりも自由に。
「……恥ずかしい。なんか、いつもより……ねえ、なんで?」
柔らかな唇から離れたあと、その美しい顔の造形に見惚れていた私を呼び止めた声。
無言で腰の辺りに右手を回す。
確かな感触が腕に伸し掛かる。
生き物の温もり。シーツが波打つ。微かな音。
私たちの心と身体が、ひとつに重なり合う。
肌と肌が擦れる。
どこからか滲み出す、小さな汗の粒。日々の泡。泡沫の夢。光の結晶。美しさ。敬虔さ。愚直さ。醜さ。
私たちはそれらの全てを包み込んで──
今、ひとつの円環を閉じようとしている。
その時ふと、込み上げてきた倦怠感と微睡み。
私は自由にしていた左手で、目を薄めながら口元を隠した。
「……え? 今、欠伸した? 嘘だろ? おい、''ぼ''っちゃん……」
「……ごめんごめん。何か、急に眠くなって……あとちょっと頭痛い。そんで何より……あちい。クーラー付けよ……」
「駄目! 風邪引くから! あと、やっぱ電気消して! そんで、''こんな時''に頭痛くなるな!」
「やだ。ねえ、お願い。クーラー付けてくれマジで。28℃でいいから……最悪、明日の朝、またシャワー浴びるのめんどい、無理……頭痛くなるのは気圧が関係してるからしょうがない。私、''低気圧弱者''だからさ……」
「だーめ。節約も兼ねてるから。あと何でもっかいシャワー使う前提なんだ……色々始めて聞いたぞそれ。気圧と頭痛って関係あんのか?」
「……家、金持ちなんだろー? いいだろーが……関係あるよ。明日はきっと、世界に憂鬱な雨が降るだろうさ……」
「……金持ちは、それまでセコセコと節約してきたから金持ちになれたんだよ。んで! 電気! 消して! 早く! もう……便利な言い訳カード手に入れやがって……予言者にでもなれよ」
「……なんだよ。自分で消せばいいじゃん」
「こっからだと微妙に手が届かないんだよ! ねえ? 門倉さーん? おねがーい」
「……やだ」
「なんでよー」
「……それは、いちいち恥ずかしそうな顔してるからでしょ。恥ずかしそうな顔すんなよ。もうこれまで、何度もしてんだからさあ……恥ずかしそうな顔したら、恥ずかしくなっちゃうよ」
「……だから今日は! 何でか知んないけど特別恥ずかしいって言ってんの! 何でか分かんないけど!」
「……んなこと言ったらさー。ずっと恥ずかしい思いしてんのは、私なんだけど、どう考えても……役割的には」
「おい! 『役割』とか言うなこら! ねーわ、マジで……萎えたわー。雰囲気ブチ壊し……『役割』って、公務員かお前は……」
「……ごめ、じゃなくて! 私だって恥ずかしいし、そもそも私らは今、『恥ずかしい』行為に及んでる『恥ずかしい』存在なんだっての! だから、『恥ずかしい』気持ちになるのは当たり前なの!」
すると愛子は、私の前髪──ゴワついた前髪に手を伸ばして、そのまま何度も嬉しそうに撫でつけた。
「おー。偉い偉い。また謝るの我慢出来たねー」
私は溜め息を吐いた。
そして、少しだけ笑った。
少し左側に転がって、愛子が乗せていた枕の半分に頭を乗せ、仰向けになった。
サイドテーブルに置かれたスタンドライトの小さな灯りが目にチラついた。足元にサーキュレーターが運んでくる微風が当たる。
少しだけ上がっていた呼吸音を沈めるため、何回か深呼吸を繰り返した。
愛子の声がする、やや右上の方向を見上げる。
いつものサイドテール、あの造花のように繊細な美術をほどいた彼女は、今や艷やかな濡羽色のマントをまとった魔女のようだった。
射干玉の色。
どこまでも深い、黒色の束が織りなす幾何学。その深淵。
そして対照的な肌の雪。その白く透き通った頬に手を宛ててみる。
私は、愛子の髪の毛に顔を埋めながら呟いた。
シャンプーとコンディショナー、何らかのオイル、何らかの香水……何らかの化学薬品が微量に溶け込んだ漆黒の羽根から放たれた爽やかな鱗粉が、私の鼻腔を快くくすぐった。
「……これ、色とか入れないの? 私、入れたいんだよね、そのうち。それか縮毛矯正。それか思い切って、ちゃんとしたパーマあてる」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、均整のとれた美しい顔が私を見下ろした。
そして私の頬に両手を宛てて、自らの元へと軽く引き寄せる。
「……お前、''ぼ''っちゃんじゃないだろ?」
そしてその如何にも手入れの行き届いた、艶のある唇を私のそれへと運んだ。
何秒間か、時間が止まる。
呼吸の心地良い息苦しさ。
顔を離した彼女はゆっくりと、さも真面目な表情で呟いた。
「あっ。確かに牡丹ちゃんでしたわ、失敬失敬」
「……何そのダルいノリ」
小さな風が、私たちの間を静かに潜り抜ける。
さらけ出していた四肢が一瞬、微かな冷たさを覚えた瞬間に、私は足の爪先でベッドの端へと落ちかけていた薄手の掛け布団を持ち上げた。
「……器用だな、ほんと」
私たちの上にそっと覆い被さるヴェール。
緩やかな温もりが肌に乗っかる。
私は愛子の元へと身を寄せる。
両脚を絡ませる。
これで、更に熱が溜まる。
二人分の──
「それで両手両足を自在に動かして、今まであたしを守ってきてくれたんだもんね。人間離れした力で」
私はどこまでも続く美しい漆黒を抜けて、愛子の肩へと辿り着く。
何かを、思い起こしたような気がするが、その正体までは思い至らない。
「……なんかさー。もう、無理だと思う。前みたいに、スーパーガールみたいにやるのは」
「……そうなの?」
「うん。何か言葉に出来ないけど、そういう予感、というか実感がある。そんな力はもう、私にはない」
「……ワンダーウーマンみたいには?」
「……ないかも、ごめんね。あと、意外と毛量がすげーな。意外と長いし。無茶苦茶丁寧に巻かれた形跡もあるし。無茶苦茶ツルツルしてるし。無茶苦茶手入れしまくってるし。無茶苦茶──人前に出る仕事ってのは、むっちゃ努力してんだなって──」
「うん。だからもっと見ておくれ。知っておくれ。最低限度の敬意で以て。そんでそんで──」
愛子の両手が、私の粗野で野蛮な毛質をした頭を鷲掴みにする。
「しっかしな、やっと君も色気付いてきたか! 遅すぎるぐらいだけどね。いいぞ! 何から何まで、もう頭の旋毛から足の爪先まで、全部あたし色に染めちゃうぞー!」
私は少しだけ、厶ッとなって反論する。
「いや、これでも少しは頑張ってましたから。主にあなたのお古を駆使して、休みの日とか……珠妃の助言のおかげで」
両手で自ら濡羽色の髪を玉飾りのように持ち上げては、愛子は呟いた。
「昔々……君と出会うよりももっと前に、一度だけ脱色というものをしたことがある。まあ黒歴史ですわ。学校で速攻問題になって、親呼ばれてぶっ叩かれたけど」
「へー。そないお金持ちでも、親からぶっ叩かれまんのか?」
「うちは、ある程度教養があって''マシな方''の金持ちでんねん……何言わせてんねん」
「画像ないの?」
「ない」
先程からずっと、微かに汗ばんだ腰の下に敷かれている、私の右腕。
私はこれを、一体何のために差し込んだのだろう?
もう忘れてしまった。
小さく開けられた遠い窓から、夜風が吹き込んでくる。
心地良い夏の夜の夢。
目を閉じればすぐ、夜の向こう側に飛んでいけるような感覚。
私たちは今確かに、この宇宙を泳いでいた。
私は、この時間がいつまでも続けばいいと思った。
「……てか不思議なんだけど、さっきから、この腕があんま痺れてこない」
私は愛子の首筋から頬にかけて唇を徐々に這わせていった。
彼女は少しだけ身体を震わせながら応えた。
「まあね、モデルとかタレントってのはね。選ばれし骨格と代謝を持つ者にしか、務まらないってのも事実だから。勿論、今は多様性の時代で、それだけが一律の価値基準ではないのだけれど……全体の割合で言えば、やっぱりね……」
私は起き上がった。
その瞬間、掛け布団から離れた上半身に寒気が走る。
再びそれを羽織り、愛子の上に覆い被さった。
両手でその血色の良い頬を摘むと、彼女の口の端から小さな音が漏れた。
バランスよくカットされた前髪の先が顔の上に散らばり、その表情を普段よりも幼く見せた。
私はもう一度キスをした。
「……おかしいと思ったんだよ。体重も、触れた感じで分かるウエストの細さも! お前……よく自分でそんなこと言えるな! おい! それをこそ、恥じるべきなんじゃないのか! おい! お前、月並みだけどごめん! 言うわ! 『もっと飯食えよ!』」
愛子は口の端から声にならない声を発しながら、私の両手を掴んではそのまま回転させた。
その自由になった口から笑い声を撒き散らしながら、私の頭は枕元を離れ、その麗しき新進気鋭のモデルからマウント・ポジションを取られる形となった。
「……あのさ、まあ、流石にノリで言い過ぎたけど……あたし、別に''ぼ''っちゃんが思ってるほど美人じゃねーんだわ、うん。まあ何て言うか、偶像崇拝の怖さって感じよね、うん。''ぼ''っちゃんのはさ、ある意味……別に『恋は盲目』だって言いたい訳じゃないんだけどさ……モデルだとかタレントだとか、そういうのはさ……上には上がいる、本当にキリがない世界なんだよ……うん」
悲しそうな目をした彼女を見て、私は思わず抱きしめた。少しだけ力を込め過ぎたのかもしれない。小さなうめき声のようなものが、どこからか聞こえたから。
私は彼女を枕に乗せて、もう一度ゆっくりとキスをした。
「……いや、そんな天上人の世界は、私なんかには到底、全く分からんのだけれども……何? 辞めんの? 仕事」
すると愛子は、素っ頓狂な顔をして、こちらをまじまじと見上げた。
「……え? 辞めないけど」
「……え?」
「いや、『え?』じゃなくて、辞めないけど……あたし、そんなこと言った?」
「……だって、何かそんな感じの空気出してたじゃん」
「出してねーよ」
「出してたよ」
「出してねーって」
私は溜め息を吐いて(気付けば溜め息ばかりの人生だ)、これからも芸能界を邁進し続けるであろう、新進気鋭のモデルの豊穣な胸の中へと顔を埋めた。
心臓の鼓動が聞こえるぐらいに、近く。近く──
「なーんだ! やっぱり可愛いねー牡丹ちゃん! 折角、あたしが『皆の物』になるルートが未来の選択肢から外れて、『自分だけの坂口愛子』が爆誕するかと思ったのにねー! ナイスぬか喜び!」
上方から響く彼女の哄笑に対抗して、私はその胸の中で叫んだ。
「うるせー! 皆まで言うな馬鹿!」
すると愛子の腕がどこからともなく伸びてきて、私の腰の辺りをガッチリと捕獲──
そして顔中、至る所に口付けの雨霰──キスの嵐を彼女から浴びせられる。
息も出来ない。
自らの鼓動が高鳴ってゆく。
それは向こうとて同じだろう。
重なり合う身体を通して、2つの鼓動が合わさってゆく──
やがて気が済んだのか、愛子は数回の大きな深呼吸を経た後、ひっそりとその口を開いた。
「──まあ、実際のところは分かんないよ。これから先、何もかも嫌だ、クソったれだっつって、全部なげうって辞めちゃうこともあるかもしれないし。それは……分からんよ、未来のことは。誰にも。未来はこえーよ。未来ガチで怖い。未来最恐」
今度は優しく抱きしめた。
ゆっくりと精神の内奥が同調してゆくような感触。
神聖なる儀式のよう。
死の呪いを断ち切り、今ここにある生を讃えてゆく。
「でも、今は紛れもなくあたしの意志で、自分がやりたいと願ってるから、この仕事をやってる。誰かにやらされてる訳じゃない。もしもこの先、何か、自分の意志に反して『やらされる』ことがあったとしたら、そん時は面倒なことになるかもしれない。ちゃんと、嫌だって言うから、今までどおり……最悪、辞めるかもしんない。でも、そんなに後悔はしないんじゃないかな……だから、そういうの全部引っくるめて──」
「分かった分かった! 『皆まで言うな』誰にも分かんないよ、先のことは。未来のことは……うん」
私は彼女をそのまま抱きしめ続けていた。
やがて耳の後ろ側で、不安そうに反響する声。
「……あたしたちはさ、この先どうなってくのかな? 10年後、20年後とかは……」
私は密着していた身体を少し離して、愛子の両肩に手を置いた。
「まあ実際問題、色々とダルいこと、キショいことは起こるだろうね。だからね……私はこの世界を変えるよ」
「……''自分が変われば──''ってやつ?」
「いや、''世界''の方を変える。そんなもん、クソだよ。単なる現実逃避。単なる慰め。これからは、''世界''そのものを変えていかなきゃ駄目だって。''世界''が変われよ、私のためにさ」
愛子は静かに微笑んだ。
「何それ? テロリストにでもなんの?」
私も笑った。
「うん、そんな感じ。''暴力''はなしでね」
「じゃあ、付いて行くわ」
「んで、話戻るけど、私……そのうち髪染めたいんだよ。まあ、何て言うか……もっと大人になりたいって言うか──」
「……いや話戻りすぎたろ。もう覚えてねーよ」
すると愛子は再び体勢を変え──
再び私にマウント・ポジションを取った。
そして、私のゴワついた髪を、粘土細工のように弄り回し始めたのだった。
「うーん……前髪、上げたほうが逆に大人っぽいのか? うん、やっぱ元は悪くないよ君。あとは努力っつーか、単なる''根気''次第。こういうのは日々のメンテ次第なんで」
「……やめなさい」
「なぜ?」
「……恥ずかしいから」
再度私たちは、元のポジション──掛け布団の中で私が上、愛子が下へと戻った。
こうして波打つベッドの上で、転がる岩でいるのはとても楽しいことだった。
私たちの会話はこうしてうねり続けて、どこまでも、どこまでも転がってゆくのだ。
「来年頑張って、奨学金取れよ。そうすりゃ恵美ちゃんも喜ぶだろ、きっと……まあ内申点というデバフをひっくり返すには、難儀すると思うけど」
「……うん、考えてみる」
「大学、楽しいよ。多分」
「……まあ、その、とにかくさ!」
気付けば私は自らの両頬を叩いていた。
パチンという乾いた音が部屋の中に静かに木霊する。
この二人だけの宇宙の外側──世界を覆い尽くす闇はますます深くなってゆく一方だ。夜風に揺られるカーテンの向こう側。朧気な月明かり。私たちの頭上を照らすスタンドライト。壁には私たち二人の影が映る。一人分の陽だまりの中に、一人分の掛け布団の中に、抱き合っている二人がいる。私たちがいる。
私は深く息を吸って、深く吐いた。
そして、目の前にいる少女に向かってこう言った。
「私たちが、この先の未来でどうなろうが、知ったこっちゃない。ただ今言えるのは、私は君が好き。このクソみたいな世界の中で、それだけが真実。それだけが本当のこと。それだけだから……」
愛子は肩を震わせていた。
細い涙の線が、光の筋に沿って照らし出されては、小さく煌めいた。
「……まだ不安?」
愛子は手の甲で涙を拭っては、私の両肩に手を回した。
私もつられて、目の前の景色が次第に揺らいできた。
「いや、嬉しいよ。ありがとう」
「……じゃあここらで、初めて出会ったときの思い出話でもする? そんでお互い、もっと泣いちゃう?」
「……何それ? そんなん、いらないよ」
彼女の細く美しい指先が、私の生身の背中へと力強く、心地良い強度で沈み込んでゆくのを感じた。
そして愛子の声が、私たちの宇宙に乱反射した。
どこまでも遠く。
遠い場所まで届く声だ──
「あたしたちは、『最初から当たり前にそこにあった』んだからね! 元々こうやって、結ばれる運命だったんだ! いつの日か''ぼ''っちゃんが言ってた、''根源的な悪意''の真逆だよ! 最初から決まってんだよ、''ハッピー・エンド''が! だから初めて出会った過去のこととか知らない! そしてこれからも、ずっとずっとこのままだよ! この先の未来も! ずっと! ずっと!」
私もそれに応える。
背中に回した腕に、力を込めて応える。
「……うん! 絶対! 絶対に!」
そしてもう、一体何度目になるのかも分からない。
私たちは何度も何度も何度もキスを重ね合った。
私たちはひとつの位相空間の中いた。
互いに共鳴し、干渉し、連続しあう2つの要素。
点と点を結ぶ線。
線と線を繋ぐ面。
他には誰も存在しない、辺境の宇宙で輝く星座。
ここには愛が遍在している。
私たちの間でだけ、悠久の輝きを放っている無償の愛が。
そのエーテルの閃きに満たされて、私たちは今宵もベッドの中でひとつに重なり合っている。
この宇宙の過去と現在、未来の記憶を辿る。
私たちが辿ってきた軌跡が、これから無限の海へと繰り出すための航路へと繋がる。
どんな暗闇の道だとしても──
この光は行く先を導き出してくれるはずだ。
そしてもしも、自分が他の宇宙に飛んで、自由自在に生まれ変われたとしても──
この世界を書き換えることが出来たとしても──
別にお金持ちになりたいなどとは思わない。
他の家に生まれたいなどとも思わない。
そうしたら、君とはぐれてしまう気がするから。
そんな不幸の芽などは、少しでも先立って摘んでおいた方がいいのだ。
「ありがとう。あたしも大好きだよ。''ぼ''っちゃん──んで、当方の問題としては……だ。あたしがねー、どうも……どうにもこうにも、『恥ずかしすぎる』ということに尽きるのであってね……」
「……マジで? またそこに戻るの? ''愛子ちゃん''。こりゃまさに堂々巡りですわ。永劫回帰ですわ。そりゃ地球上のどこかで、今日も戦争がなくなりませんわ……」
「んで、考えたんだけど……本当に名案なんだけど……君が『してる』間、あたしに向かって、英語の『不定冠詞の拡大用法』について解説してくんない?」
「……はあ?」
「ねえ! お願い! ''ぼ''っちゃん!」
「いや、お願いも何も……全く以て何を言ってるのかが分からないんですけど」
「だからさ! 『こういうこと』してるときに、英語の『不定冠詞の拡大用法』について考えてる人って、この世には絶対いない訳でしょ?」
「うーん、まあ、そうかも。というか、この宇宙のどこにもいないかもね」
「だからさだからさ! そんだけ『こういうこと』してるときには似つかわしくない、『あり得ないこと』をしていれば、この『恥ずかしさ』もどっかへ吹っ飛んじゃうと思うんだよね!」
「……そう……かなあ? 本当に?」
「本当に本当に! じゃあ、やってみてよ!」
「……分かった。えーっと……序数詞の前についた、不定冠詞は、''another''の意味になって──」
◆◇◆◇
もうすぐ夜が終わる。
新しい朝、新しい世界がやってくる。
私たちは生まれ変わる。
何度も、何周も。
そして、これからも。




