【ごめんねと言わないために】
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「なんかさー、分かんないんだよ。こういう時なんて言えばいいのか」
私は天井を見つめながらそう言った。
横にいる愛子はスマホを操作しながら答える。
「まあ、『ごめんね』とかではないと思うよ。そんな、謝られても困るしあたし」
部屋の片隅に追いやられたサーキュレーター。
静かに黒いカーテンの向こう側で揺れる夜風を運んでくる。
寝静まった家には私たち二人だけ。
この世界にそれ以外は存在しなかった。
パジャマに着替えた後、ベッドに戻ってきた愛子は私の頬を片手で触りながら言う。
「てかね、君はことあるごとに謝り過ぎだわ。はっきり言って迷惑!」
「……ごめん」
愛子は私のTシャツの中にその手を入れてきた。
ひんやりとした感覚が肌に触れる。私は思わず飛び上がる。
ベッドのスプリングが大きく振動した。
「……なんだよ! びっくりしたーもう」
すると愛子は私の両頬をバチンと手で挟み込み、自分の顔の前に寄せた。
その形の整った、可愛らしく綺麗な瞳が潤んでいた。
「……分かった。頑張る……頑張るから。言わないように……」
私がそう言うと、愛子はニッコリと微笑んだ。
私たちは抱き合った。
愛子の胸の中はいつも温かくて、懐かしい匂いがする。
私はその胸の中で、声にならない声で囁いた。
もし聞かれたら、何だか恥ずかしかったからだ。
「ずっと、一緒にいたい……死ぬまで、ずっと」
すると愛子の手が、私の頭をそっと撫でつけた。
聞かれたのかもしれない。
でも、それでもよかった。
それは本当の気持ちだったから。
私はその胸の中で、ゆっくりと目を瞑った──
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病室。
真っ白い部屋。
天井にはファンが回っている。
カーテンの隙間から射し込む陽射しは柔らかい。
ドアから漏れる光。
ちょっとだけ鼻がくすぐられるような感触がする──
私はベッドの上にいる。
身体に色んなチューブを繋がれたまま。
大勢の人々に見守られて。
隣には──
私の右手を握っている愛子がいる。
愛子は微笑む。
私も微笑む。
そして私は目を閉じる。
今──
もうひとつの世界へと旅立つ時が来たのだ。
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