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【ごめんねと言わないために】

 


 …………

 …………

 …………

 …………



 ◆◇◆◇



 …………

 …………

 …………

 …………



「なんかさー、分かんないんだよ。こういう時なんて言えばいいのか」



 私は天井を見つめながらそう言った。

 横にいる愛子はスマホを操作しながら答える。



「まあ、『ごめんね』とかではないと思うよ。そんな、謝られても困るしあたし」



 部屋の片隅に追いやられたサーキュレーター。

 静かに黒いカーテンの向こう側で揺れる夜風を運んでくる。

 寝静まった家には私たち二人だけ。

 この世界にそれ以外は存在しなかった。



 パジャマに着替えた後、ベッドに戻ってきた愛子は私の頬を片手で触りながら言う。



「てかね、君はことあるごとに謝り過ぎだわ。はっきり言って迷惑!」


「……ごめん」



 愛子は私のTシャツの中にその手を入れてきた。

 ひんやりとした感覚が肌に触れる。私は思わず飛び上がる。

 ベッドのスプリングが大きく振動した。



「……なんだよ! びっくりしたーもう」


 

 すると愛子は私の両頬をバチンと手で挟み込み、自分の顔の前に寄せた。

 その形の整った、可愛らしく綺麗な瞳が潤んでいた。



「……分かった。頑張る……頑張るから。言わないように……」


 

 私がそう言うと、愛子はニッコリと微笑んだ。

 私たちは抱き合った。

 愛子の胸の中はいつも温かくて、懐かしい匂いがする。

 

 私はその胸の中で、声にならない声で囁いた。

 もし聞かれたら、何だか恥ずかしかったからだ。



「ずっと、一緒にいたい……死ぬまで、ずっと」


 

 すると愛子の手が、私の頭をそっと撫でつけた。

 聞かれたのかもしれない。

 でも、それでもよかった。

 それは本当の気持ちだったから。


 私はその胸の中で、ゆっくりと目をつむった──



 ……

 ……

 ……

 ……



 ◆◇◆◇



 …………

 …………

 …………

 …………



 病室。

 真っ白い部屋。

 天井にはファンが回っている。

 カーテンの隙間から射し込む陽射しは柔らかい。

 ドアから漏れる光。

 ちょっとだけ鼻がくすぐられるような感触がする──



 私はベッドの上にいる。

 身体に色んなチューブを繋がれたまま。

 大勢の人々に見守られて。

 隣には──

 私の右手を握っている愛子がいる。


 

 愛子は微笑む。

 私も微笑む。



 そして私は目を閉じる。

 今──

 もうひとつの世界へと旅立つ時が来たのだ。



 ……

 ……

 ……

 ……

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