微糖の砂糖抜きでお願いします 1
「栄恵ちゃんを味方につければこっちのものだね」
「まあ、バイトっていってもお給金は出せないんだけどね、ごめん」
「大丈夫です。未広に払ってもらいますから」
勝手にバイト代が僕持ちになっているんだけど、経緯を考えると抗議もできず。とりあえず詩音さんも城見さんも笑顔だからいいか。バイト代は払わないけど。
「とりあえず甘味を差し入れれば栄恵ちゃんは十分だから覚えておいてね」
「了解」
早速手持ちのお菓子を城見さんからもらって、栄恵は嬉しそうにしていた。
吸血鬼の研究に栄恵が参加することになった。なんとか留飲を下げてもらったけれど、受験勉強を返上してでも僕を吸血鬼に戻すと聞かなくて、研究室に連れてきたのだ。エミールがもどきだということにも納得いっていなかったけど、例のメガネで確認してもらったところ、合点が行ったらしい。
「君たちは全く。未広にも言ったが、そういう大事なことは言ってくれ」
「ゴメン。サカエに心配かけたくなかった」
「未広と同じことを」
また説教が始まりそうだったのでもう一つ最中でも渡しておいて、落ち着かせておく。受け取ってもぐもぐと食べる栄恵は何処か可愛いけど黙っておく。
「でも栄恵ちゃん、本当に受験は大丈夫なの?」
「いざとなったら未広に拾ってもらう」
「それだったら、吸血鬼にならなくてもいいようにしなきゃね」
まあ、受験を返上しなくても栄恵だったら冬を迎える前に東文の合格をもらっていることだろう。
「ボクに協力できることはどんどんと言ってくれ」
「百人力だよ」
城見さんも助手がもう一人できて嬉しそうだった。
ひとまず自己紹介の後、お茶を飲んで、城見さんは今日の議題をホワイトボートに書いて、僕たちに向き直った。
「じゃあ、今日は『総裁』について話をしようか」
「民自党」
「吸血鬼界の」
僕は軽く吸血鬼界のシステムを栄恵とエミールに説明する。2人は感心しながら話を聴いていた。
「ヨッ、ダイトウリョウ! ってやつだね」
「まあ国家元首という意味では間違っていないかもね」
「詩音も見たことがないのか」
「存在は知っているんですが、実態は知りません」
「天皇陛下でも顔出しはしてるのに、本当に象徴のようなものだな」
僕たちからすると存在すらもあやふやなのに、詩音さんでもそんな調子だと、
「……未広くんたちは『総裁』って誰だと思う?」
答えに詰まって黙り込む僕たちを見て、うーん、と城見さんは考え込んだ後に、人差し指を立てた。
「じゃあ質問を変えよう。未広くんたちは『高津』っていうその名字に聞き覚えはないかな?」
ハッとした。僕を吸血鬼もどきにした人物の名字だったからだ。その表情が肯定に見えたのか、城見先生はある女性の名前を口にした。
「高津早代は吸血鬼の親玉であって、ぼくたちの恩師です」
衝撃的な発言だった。吸血鬼であることは知ってしまっていたけれど、まさか象徴的な総裁だとは思わなかった。もう一個気になるワードが。
「恩師?」
「高津先生はぼくが所属していたゼミの教授だったんだよ。生物学の教授で、結構論文も書いている人」」
早代さんが大学教授だったとはびっくりした。
「信じられないなら、日向さんにも聴けばいいよ」
「日向さん?」
聴いたことある名字だったけど誰だか思い出せない。ぽかんとしている僕に詩音さんが添える。
「榛ちゃん先生」
「ああ」
いつもあだ名で呼んでいるから名字を忘れていた。
「日向さんは大学が同じで、高津先生の教養科目の授業で一緒だったんだ」
「好きだったんだよね、榛ちゃんのこと」
「余計なこと言うと殴りますよ」
ポカっと肩を叩いてから言った城見さんは、赤面して僕たちに弁明する。
「文学少女というか、大和撫子というか、そういうものに惹かれるのはぼくたち男子にとっては仕方ないことだよね、生物学的観点から見ても」
ね、って同意を求められても確かにそうなんだけど、おいそれと肯定もできない。
「ま、愛斗くんの嗜好は置いておいて」
自分で言いだしたのにひどい詩音さん。
「総裁は昔、南柄高校で教鞭をとっていた。そこまでは私と愛斗くんで調べられたんだけどね。その先が難航していまして」
「うちの学校の教師?」
「そうそう、生物の先生だったんだって」
まさか先輩だったとは。
「令奈、全然そんなこと言ってなかった」
「もしかしたら知らなかっただけかもしれないし、記憶操作されてたのかもしれない」
「……それで自分の娘に娘の想い人を狙わせていたわけですか」
「怖いよ未広くん、ってそう言いたくなる気持ちはわかる」
自分の娘の記憶を操作した挙句、想い人を吸血鬼にするために使っていたなんて。しかも、その想い人に直接手を下す始末だ。
「そういった事情を総合的に勘案して、珠倉山と南柄高校に何か手掛かりがあると思ってぼくはここに拠点を構えたんだ。総裁の正体にたどり着けるかなって」
「さっさととっ捕まえてやりましょうよ」
「未広くん」
ふつふつと湧いてくる怒りを詩音さんに抑えられて、行き場のなくなった怒りを抑えるように頭を抱える。
「未広くんのその怒りのためにも、何とか真相を究明したいんだ」
城見さんのその強い瞳に、僕は拳を握って同意するのだった。





