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普通の高校生とヴァンパイアの四季  作者: 湯西川川治
夏の話
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それだけしか違わないんだから、そんなに怖いものでもないよ 4

     4


「受験勉強は進んでいるか?」

 栄恵に聴かれて、僕はゆっくりと首を振った。

「まあ未広の学力なら、東文はボクと同じく大丈夫だと思うが」

 太鼓判を押してくれる栄恵に、僕は作り笑いを浮かべた。確かに学力はそうだけど、という言葉は必死に飲み込む。

 新聞部の部室は吸血鬼の同人誌の件で栄恵を呼び出すまでは珍しくひとりきりだった。栄恵は本の件を快諾してくれて、わざわざ生徒会室から来てくれたのだった。

「むしろ、もう少し頑張ってボクと一緒に明応大学くらい狙ってくれてもいい」

「でもそれだと栄恵が困っちゃうよね」

「ボクは未広と一緒の大学に行ければ」

「まちづくり建築学部、行きたいんでしょ」

「未広にはお見通しだな」

 建前上は僕と同じ大学だからって言っているけど、栄恵が僕の存在を抜きにしても東文の建築に行きたいのはとっくに知っている。

「それに未広の法学部とはキャンパスが一緒だ。全て丸く収まる」

「僕が合格すればだけどね、本当に」

「そんなに懸念することがあるのか」

「いや、本番に弱いからさ僕は」

 本当だけどそんなことを言ってごまかしておく。僕が大学に合格する保証はないのだ。受験を受ける権利すらなくなるかもしれない。

「そんな状態でいきなり吸血鬼の自由研究だとか、受験はもう任せておけ、と言っているのかと思ったが。誰にけしかけられたんだか」

「ちょっと道端の吸血鬼に頼まれて」

 吸血鬼の同人誌を栄恵から借りるのに、詩音さんの名前は出さずに自由研究だということにしておいた。

「大方詩音あたりだろうが」

 2秒でバレた。

「まあボクも少し勉強に飽き飽きしていたところだ。協力しよう」

「いや、本さえ貸してもらえればこっちでやるから」

「水くさいぞ」

 不満げな顔をしながらも、栄恵は同人誌を渡してくる。

「僕も改めてこの本を読んで見たんだが、今まで会った吸血鬼の特徴を如実に表現しているところもあれば、嘘か誠かわからないことを書いてあるページもある」

 信憑性ゼロっていうわけでもなさそうな言い方だった。

「それで興味が湧いたというのもある」

「本当に大丈夫だって」

「どうしてそんなに後ろ向きなんだ」

「いや、栄恵、受験勉強で忙しいだろうから」

「それは皮肉かい」

 栄恵は小さく笑う。彼女の学力なら東文は余裕すぎる。教師陣からももう一つランクが上の高校を目指さないかといわれているくらいらしい。

「さっきも言っただろう、勉強に飽きたって」

 クルクルとシャーペンを指で回している栄恵は、言葉通りの様子だった。確実に暇を持て余している。このままだと色々と嗅ぎまわられそうな気がする。

「……未広、今回は何を隠してる」

 ほら、こういう風に。って。

「な、なにも」

 声が上ずってしまった。これじゃあ否定のしようがない。

「牧穂の時もそうだった」

「別に今回は……」

「今回、と言うことは吸血鬼絡みだな」

 しまった。動揺が顔に出てしまって、栄恵はため息をつく。

「せっかく吸血鬼について知ってる数少ない存在だ。ボクに協力できることがあったら言ってくれ」

任せろと言わんばかりに栄恵の口調に、僕は口をつぐんでしまう。

「そんなに言いにくいことなのか」

「正直、言いたくない」

 僕は本音を口にした。

「ボク相手でもか」

「栄恵だからこそ」

「ボクは君の幼なじみだ。広美の次に、誰よりも一緒にいた時間が長いと思っている。なのに、どうしてそのボクが本当のことを知らないんだ」

 栄恵の顔は悔しそうに歪んでいて、悲しそうに歪んでいた。もっとこういう顔をさせるのをわかっているからこそ、僕は言いたくなかった。

「ボクはなんだって受け入れる。それは君の言うことだからだ。だから、正直に言ってくれないか、未広」

 それは本音のお願いだった。頭を下げる栄恵は何度も見たことがある。けれど、さっきの口調、表情、それに嘘偽りはない。水口栄恵は僕に嘘をつかない。栄恵なら協力してくれるだろう。それは僕も思っているし、鮫ちゃんも太鼓判を押している。けれど。

「栄恵、これから言うことは残酷かもしれない。けれど大丈夫?」

「ああ」

 即答だった。

 その後押しに応えるべく、僕は訥々といった。


「僕、冬に吸血鬼になる」


「そうか」

 静かに呟いた栄恵の指からシャーペンがポロリと落ちる。そのままの姿勢で固まっていた栄恵は、やがて言葉の意味を理解して、大きく息を叫んで僕のことを怒鳴った。


「……バカじゃないのか君は!」


「うおお、入るなり怒られた」

 僕よりも、ちょうど部室に入ってくるところだった博人の方が大層驚いていた。

「博人じゃない! 未広が!」

 キレ散らかす栄恵を見て博人は納得したようにうなずいて、僕の方を見た。思わず僕は苦笑いで返した。

「あー、未広、言ったのか。そりゃ栄恵は怒るなあ」

「憤懣やるかたない」

「未広も言いたくなくて言わなかったわけじゃないんだ、わかってやれって」

「でもだ!」

 激怒している栄恵を必死になだめてくれる博人。おかげで激怒から怒りへとボルテージは下がったものの、不満な表情は隠せていない。

「なんで真っ先にボクに言ってくれなかったんだ」

「だから、栄恵だからこそだよ」

「ボクだからこそ言ってよかったんだ!」

 栄恵はそう気色ばんで、抗議した。

「未広といい、令奈といい」

 そして、寂しそうに懐かしい名前を付けくわえて、寂しそうに言った。


「ボクたちに相談してくれたのだったら、君のために全力を尽くしたに決まってるよ」


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