第97話 謎の生命体の正体はバグド?
とりあえず体の方もしっかり隠れているし、枝葉の隙間から周囲を見渡す事も出来る。
これなら何の心配も要らなそうだが……
仮に謎の生物が、どうしようもなく鼻がいい奴だったらどうするんだ?
「な、なあ、こんなんで本当に大丈夫かな? なんか不安になってきたんだが」
たまらず、横のまゆりに話しかける。
「心配するな。私達の体はしっかり覆われている。万に一つも発見される恐れはあるまい」
「だがしかし」
「大丈夫だ。もしもの時は敵を倒せばいい」
おいおい。自信があるのは大いに結構だが、魔法が通用しなかったらどうするんだよ。
「お前は勇ましくていいな。俺はビクビクしてしょうがないよ」
「私は日々の訓練で慣れてるからな。特別恐怖は感じない。くらだらない話はさておき、徐々に先程の声が近くなってきている。もうそろそろお前の耳にも届いているのではないか?」
言われてみれば、低くてどす黒い声がするようなしないような。
まるで人間が会話してるようでもあるが、何か変だ。
加えてニオイもどんどんキツくなってきている。
という事は、奇妙な声の主と腐敗臭を漂わわせている謎の存在は、同一とみて間違いない。
一体、どんな奴なんだ?
「おい。左斜め前方から何か歩いてくるぞ」
まゆりの声に導かれるように視線が前を向く。
「ホントだ。パッと見では人間のような奴等がこっちへ向かってくる。しかし、どうやら人ではないようだぞ。なんてたって肌が灰色だし、目も尋常じゃないくらい鋭い。ありゃ、明らかにヤバそうだ」
「おそらく、あいつ等はバグドだろう」
一切動じる事なく、淡々とした表情でまゆりが言葉を発する。
「なんだ、そのおかしな生物の名は?」
「信じられないかもしれないが、彼等は元々人間であった。それもごくごく平凡のな。しかし、時が経過するにつれて人々の間にある思いが生じ始めたのだ。尽きる事ない永遠の命が欲しいとな。そして一部の連中は、世界を混乱に導こうとしていた反乱軍の王、フォルガの配下となった。理由は簡単だ。彼には飛び抜けた魔力があった。結果的にフォルガは後の戦いで命を落としたのだが、彼等には半永久的な命が授けられた。代わりに見た目が醜くなるおまけ付きでな」
そうか。だから奴等はえげつない見た目なのか。
ようやく謎が解けたな。にしても、一歩間違えるとああも恐ろしくなってしまうとは。
考えただけでも背筋が凍る。
「さすが、詳しいな。おかげで奴等についてよく分かった。で、連中は強いのか?」
「いや。一人一人の戦闘能力は大した事ない。少人数であれば楽に倒せるだろう」
「なら、今すぐにやるか? 数は全部で三人みたいだが」
「いいや。まだ動かないで様子を見るのがベストだろう。もしかしたら他の場所に仲間がいるかもしれないからな」
なるほど。やはり百戦錬磨の女は着眼点が違うな。
そうこうしているウチにいよいよバグド達が、茂みの前までやってくる。
「おかしいな。ここらへんから人間の声が聞こえてきたような気がするが、どこにもいやがらない。畜生! 少し遅かったか。せっかく美味い肉にありつけると思ったのに」
「ギギ……」
「ガガ……」
奴等は相当腹を減らしてるのか、口から唾液が滴る。
ひー。近くで見ると、余計に恐ろしい。
コイツ等に食われるなんて真っ平ごめんだ。頼むから、早く去ってくれー。
「ちっ。まあ、しょうがない。人間がいないなら、こんな所に用はない。帰るぞ」
「ギギ……」
「ガガ……」
それからまもなく、バグド達は入口でも出口でもなく、森の奥へと消えていった。
ふー。助かった。
はたして奴等がどこに向かったのは分からないが、しばらくは戻ってこないだろう。
ひとまずは安心だな。
「さあ、早いとこ森から出よう」
「ああ」
「ところで今、何時か分かるか?」




