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第94話 先輩の過去

 ふー。やはり下にいろいろなモノが落ちているせいか、思いのほかスピードが出ないな。

 こりゃ、かなりしんどいぞ。


「止まれと言ってるのが分からないのか! もしこのまま無視し続けるようであれば、魔法で黒焦げにしてやるぞ」

 ひー。先輩ならまじでやりそうだ。

 さっさと巻いてしまおう。


「きゃっ」

 すぐさま走行スピードを上げた所、背後から女子の悲鳴にも似た声が聞こえてくる。



 うん?なんだ、今のは?

 まさか、トラブルでも発生したのか?

 スピードを落とし、うしろを振り返ってみる。

 すると、うつ伏せで倒れている先輩の姿が目に入る。

 

 げっ。こりゃ、見事にこけたんだな。状況を見れば、一目瞭然だ。

 しかも、すぐ起き上がってこない所を見ると体のどこかを強く打ったに違いない。

 

「先ぱーい。大丈夫ですか?」

 来た道を戻り、先輩に尋ねてみる。

 が、返事どころか体を動かすそぶりさえ見せない。


 おいおい。そんなに重傷なのか。

 参ったな。


「先輩、俺です。石野すざくです。どうか、応答して下さい」

「う……うう……」

 すぐ真横で呼びかけると、先輩が顔を上げない状態のままうめき声を上げる。

 


 どうやら、意識はあるみたいだな。

 とりあえずはよかった。


 

「では、いつまでも寝そべっているのもあれなので体を起こしましょう。手伝います」

 軽く腕に触れた瞬間、先輩にあっけなく振り払われる。

 

「私の体に気安く触れるな。助けなど必要ない」

 はー?意地を張るのもいい加減にしろよ!

 お前はまだ顔すら上げられない状態じゃないか。

 

「まあまあそう言わずに頼りにして下さい。役に立てるように頑張りますから」

 気持ちを切り替え、引き続き説得を試みる。


「……勝手にすればいいだろう。私は誰の助けもいらん」

 何だとー。

 人の好意を容赦なく踏みにじりやがって。

 

「ふざけるなよ。一体どういうつもりか知らないが、こっちは快く手を貸すと言ってるんだぞ。なのに、なぜそこまで意地を張る?」

「うるさい。私は泣く子も恐れるドS女だ。故に人の手は借りないし、甘える事もしない。これは女王の宿命だ」


 はー。

 コイツはまた何を言ってるんだか。


「何が宿命だよ。聞いて呆れる」

「何だとー」

 先輩がようやく顔を上げ、鬼の如し表情で睨み付けてくる。


「お前が自分自身をどう評してるのかは知らないが、一人の人間である事に変わりはない。残念ながら、俺等人間は弱くて脆い。だからこそ互いを必要とし、手を取り合ってきたんだ。なのに、お前ときたら変に強がりばかり言って」

「黙れ。そんな事を言ってお前も私が弱さを見せた瞬間、がっかりして去っていくのだろう? 分かってるさ。人間は薄情で自分勝手な生き物だ」


 

 これは過去に何かあった感じだな。

 おもいきって聞いてみるか。


 

「そう考えるようになったのには何か理由があるみたいだが、よかったら教えてくれないか?」

「……いいだろう。話は今から三年前に遡る。当時から目付きの悪い見た目と生意気な性格が影響し、私は学校の連中に女王と言われていたんだ」

 

 三年前という事は、十四の時か。

 一体、何があったんだ?というか、十代前半で早くも女王と呼ばれてたのか。

 


「その事に対して最初は何とも思わなかったのだが、ある日、同じ学校に通う一学下の少女が話しかけてきたのだ。名はフィリア。とても顔が整っていて可愛らしい奴だった。どうもコイツは、女王と呼ばれている私の強さにあこがれを持っていたらしく、仲良くなるのにもそう時間はかからなかった。そしていつしかお互いの家を行き来するようになり、私達は切っても切れない姉妹のような関係になっていたのだ。

それもこれも、全ては女王という名がもたらしてくれた恩恵。私は女王と呼ばれる事を初めて嬉しいと思った。しかし……あの日、私は見られてしまったのだ。ケガをしておじにおぶられる姿をフィリアに。それ以降、あいつは私の所に来なくなり、顔を合わす事すらなくなってしまった。おそらく奴は、私の無様な姿を見て幻滅したのだろう。私自身もまた、このような事態になった事を深く後悔した。もしも、誰かの手さえ借りてさえいなければ……そして誓ったのだ。二度と同じ過ちを犯さぬよう、今後何が起きても一切助けを必要としないとな。それが私の答えだ」



 そうか。まさか、そんな過去があったとはな。

 ちょっと驚きだ。ただ、先輩は少し勘違いをしている。

 きっとフィリアと疎遠になったのは、弱さを見せたからではない。

 本当の友情があれば、どんな困難も乗り越えられたハズだ。

 しかし、それが出来なかったのは、うわべだけの関係だったに違いない。

 とても口にしにくいが、事実を伝えるしかないだろう。

 

 


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