第74話 なんで首輪をしなければいけないんだー!
えー。これはどういう事だ?
思ってた反応と全く違うぞ。
「あ、あの。なぜ怖い顔をしてるんですか?」
「どうしたも何もない。もっとマシな理由があると思ってたが、よりにもよってイザベルの介抱をしていただと。冗談じゃない。私はあいつが大っ嫌いなんだ。にも関わらず、奴の方を選びおって。お前などもう死刑だ!」
な、何だとー。
病人の世話をしていた俺が、なんで殺されなければいけないんだよ。
冗談じゃない。話の方向性が明らかにおかしいだろ!
と文句を言いたい所だが、昼休みギリギリまで寝ていた俺も悪い。ここはグッと堪えよう。
「先輩の気持ちを踏みにじってすいませんでした。出来れば、俺も会いに行きたかったです。しかし、倒れている人間を見過ごす事はやはり出来ませんでした。どうか、分かって下さい」
「……フフ。私に会いたかったか」
数秒の沈黙の後、突如先輩が笑みを浮かべる。
え?まさか、俺が言った会いたいの一言で機嫌が直ったのか?
表情を見る限り、そう断言して間違いなさそうだ。
凄え。なんて単純なんだ。こりゃ、花崎やキーリにも匹敵するぞ。
ってか、どうしてこう俺の周りには馬鹿が多いんだろう。
何だか泣けてくるが、状況としてはまあまあ悪くない。
このまま会話を続けよう。
「先輩、なかなか察しがいいですね」
「フフフフフフ。とてもいい気分だ。どうやらお前は、イザベルを選択せざるを得ない状況だったようだな」
だから、さっきからそうだって言ってんだろうが!
たく。物分かりが悪い奴だ。
「やっと分かってくれましたか。嬉しいです」
不満を呑み込み、機嫌を損ねぬよう話を合わせる。
「私も嬉しいぞ、ポチ。今回はお前の忠誠心に免じて棒叩きをするのは止めてやろう」
ポ、ポチ?
なんじゃ、そりゃ。頼むから、その呼び方だけは止めてくれ。
恥ずかし過ぎる。
「ありがとうございます。先輩の度量の大きさに感謝します」
「フフ。だいぶ、私の犬らしくなってきたな。よかろう。合格だ。では、そろそろ首輪を付けて貰うとするか」
はー?何言ってんだよ、コイツは。
たった何秒か前に棒叩きしないと言ったばかりなのに。
今度は首輪か。全く冗談じゃない。
さすがに我慢の限界だ。
「悪いが、要求を拒否させて貰う」
「何? ふざけるな! 朝も拒否されたのにそんな事があってたまるか!」
あーん。そりゃ、コッチのセリフだ!
俺だって絶対に引かないからな。
「何を言われようが、しないったらしない。諦めてくれ」
「黙れ。犬の指図は受けん。必ず私の言う事を聞いて貰う」
「嫌だね。断固としてごめんだ」
「どうやらお前はあくまでも私に逆らうつもりのようだが、はたしてそれでいいのか?」
「え?」
「言っとくが、今日首輪を付けなければ明日から何年にも渡って付けて貰う事になるぞ」
な、何だってー。
いくら何でも冗談だろ。
どうにも信じられないような話だが、ハチャメチャにイカれているコイツならまじでやりそうだ。
うわっ。恐ろしい。考えただけでも頭が痛くなる。
本来なら一日たりとも首輪なんて付けたくないが、従わなければさらに状況が悪くなるのは必須だ。
もはや、やむを得ないだろう。
「分かりました。言う事を聞きますので年単位は勘弁して下さい」
機嫌を損ねぬよう、今更ながら敬語で話す。
「フフ。やっと折れたようだな」
ふー。とりあえず最悪の状況だけは避けられたようだ。よかった、よかった。
まもなく先輩が、背負っていたバッグから例の物を取り出し、いよいよ首輪が装着される。
「もう動いてもいいですか?」
「ああ。構わん。にしてもお前は本当に首輪がお似合いだな。思わず見とれてしまう」
おい。それはどういう事だ。
奴隷が性に合ってると言われてるみたいでちっとも嬉しくないぞ。




