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第71話 ど、どうしよう。美少女を泣かしてしまった

「でも、一度くらい友達が出来そうな雰囲気はあっただろう?」

「残念ながらない。私が生まれたオスフェイル家は名の知れた名門であり、家訓も厳しかった。家ではもちろんの事、学校でも見張りが付き、休み時間や昼休みでさえ読書が義務付けられていたのだ。そのせいでクラスメートとまともに話す事も出来ず、私だけいつも一人だった。そう。来る日も来る日もな。そしていつの間にか存在すら認知されなくなっていった。それはとても寂しかったさ。だが、自分ではどうする事も出来なかったのだ。勉強の仕方は知ってても友達の作り方は分からない。いくら飛び級を重ねても、結局今日に至るまで人と交わる事はなかった。きっと私は……ずっと一人なんだ」

 イザベルの重過ぎる言葉が胸の奥深くに突き刺さる。


 まさか、コイツがここまで苦労していたとはな。

 落胆する気持ちは分からなくもない。だが、イザベルは一つ勘違いをしている。

 友達が出来なかったのは、読書をしていたからでも監視が厳しかったからでもない。

 自分から一歩踏み出さなかったからだ。その事をちゃんと理解しているか?

 何かを得たいなら自分自身の手で掴み取る。

 

 強い想いこそが世界を変えるカギとなるんだ。

 しかし残念ながら、過去のイザベルには前へ踏み出す勇気が足りなかった。

 だが、何も悲観する事はない。諦めないで努力を続けていれば、今からでも世界は変えられる。


 思い起こしてみれば、お前は入学早々こう言っていたな。

 呼び捨てでもタメ口でもいいから、遠慮なく話しかけて来いと。

 あれはおそらく生徒と教官の間にある面倒なしがらみを振り

払ってでも、誰かと仲良くしたい表れだったんだろう。

 

 決してまだ心が死んでいない証拠だ。

 さあ、顔を上げろ、イザベル。強い気持ちがあれば、近い将来必ず友達が出来る。

 非力ではあるが、俺も手伝わせて貰おう。


「たく。教官ともあろう奴がなんてマイナス思考なんだ。お前の落ち込んだ姿を見たら、皆がっかりするぞ」

「くっ。友達一人作れない私をバカにして。いいさ。どうせ私は人間失格だ」

「誰もそんな事言ってないだろ。被害妄想もいい加減にしろ」

「頼むからもう黙ってくれ。今は言い合う気力もないんだ」

「いいや、黙らない。お前はやたら難しく考え過ぎているが、友達が多くいる者といない者の差はごく僅かだ。もしかしたら差なんてないのかもしれない。最も大事なのは、ほんのちょっとの勇気だ。それさえあれば、友達は絶対に出来る」

「そ、それは本当か?」

 顔を埋めていたイザベルが、ようやく顔を上げる。


「ああ。エリートのお前ならな」

「そうか。友達の多い貴様が言うのなら私も安心だ」

 

 どうやら少しは、気持ちが前向きになったようだな。

 よかった、よかった。


 俺も決して友達が多い方ではないが、イザベルに少しでもいい影響を与える事

が出来たならまあいい。


 このまま会話を続けよう。


「そりゃ、結構なこった。自信を持って頑張れ。ただ、しばらく結果が出なかったとしても焦る必要は全くない。なぜなら、俺とお前はとっくに友達だ。たとえ他の誰かがお前を相手にしなくても、俺がいる。だから、困った時や寂しい時は遠慮なく声をかけろ。それが友達ってもんだ」

 嘘偽りのない言葉をイザベルに伝える。


「嬉しいぞ、石野すざく……そのような言葉をかけてくれたのは貴様が初めてだ」

 熱い視線を向けていたイザベルの目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。


 えー。ど、どうしよう……

 何も考えずに話していたら、イザベルを泣かしてしまった。

 こりゃ、参ったぞ。こんな時どんな対処をすればいいんだ?

 すっかりパニックに陥ってるが、思えば俺も小さい頃よく泣いていた記憶がある。

 しかし、なぜか頭を撫でられると自然と涙が収まったんだよな。

 ひょっとしたらこの場面でも有効かもしれない。

 さっそくイザベルの頭を優しく撫で始める。

 さて、どうだ?現状何の変化もないが、はたして効果はあるんだろうか?


 しばらく手を動かしながら様子を見ていると徐々に涙が収まり始め、悲しげ

だった表情にもハキが戻ってくる。


 よかったー。見事に作戦が成功したようだ。

 そっと頭から手を離そうとするが、すかさずイザベルに指を掴まれ、元あった位置まで戻される。

 

 はー?一体、何がしたいんだ、コイツは。

 まるで訳が分からんぞ。

 

「もうちょっとだけ……なでなでしてくれないか?」

 らしくない甘えた表情でイザベルがおねだりをしてくる。


 な、何だってー。まさか、コイツが俺に甘える日が来るなんて。

 ムフフフフフ。さすがの俺も心がちょっと熱くなってきたぞ。

 よし。さっそく要求に応えてやろう。

  

「分かった。喜んでやらせてもらう」

「た、頼む」

  

 ああ、まじ可愛い。

 クールなイザベルもいいが、こっちもいい。

 それからというもの時間が許す限り頭を撫で続け、あっという間に六限目

終了のチャイムが鳴り響いた。 

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