第50話 中に血に飢えた鬼さんのような人がいます
そういやずいぶんうっかりしてたが、三人が揃って食事をしてるなんて事は。
何だか恐ろしく不安になってきたぞ。そうこうしているウチに一階へ到達した為、ドアの前で赤月をそっと背から下ろす。
「さあ、着いたぞ。ここからは自分の足で歩いてくれ」
周囲に気を配り、小さいトーンで天然娘に声をかける。
「はーい。ありがとうございました。おかげで体力もバッチリです!」
バッカモーン!なぜ声量を落とさない?
空気を察しろ。というか、そんくらいで力が回復する訳ないだろうが!
何かと迷惑な小娘を横へと移動させ、窓からこっそり中を覗いてみる。
すると、今正に食事真っ最中の三人が目に入る。
うっ。なんて最悪な。
せめて手前側に二人いればよかったが、不幸にも先輩と花崎が向かいに座ってやがる。
これじゃ、顔を向かい合わせてる状況でかなりキツいぞ。
しまいには見るからに恐ろしい表情に加え、体からは殺気が溢れている。
ありゃ、間違いない。
奴等は百パーセント鬼状態に陥っている。
どうりでさっきからろくに会話もない訳だ。
はー。参ったな。まじで入りずれえ。
にしても、なぜ連中は目の前のパンしか食べてないんだろう?
おかしな事に真横のシチューには一切手を付けてない。
こら、どういう事なんだ?うーん。
よく分からないが、こんなんで食事をするのは困難だ。
残念だが、コイツには。
「どうしたんですか? 顔色が悪いですよ」
「バ、バカ。もう少し静かに話せ。言っとくが、中にはオバケより恐ろしいのがいるんだからな」
「え? 幽霊さんより……恐ろしいんですか?」
フフ。さすがの強心臓娘も恐怖を感じてるらしいな。
途端に声が小さくなった。ま、無理もない。
女の子は皆、ホラー系が苦手と聞くからな。
「ああ。ある意味では凌駕していると言っていいだろうな」
「そ、そうですか。なら、私にも早く見せて下さい!」
えー!すっかり怯えてたんじゃなかったのか。
ホトホト掴めない奴だ。だがしかし、興味があるなら仕方ない。
とことん自分の目で確かめて貰おう。
「であれば、好きなようにしてくれ。ただし、くれぐれもこっそり覗くようにしろよ」
「はーい」
さっそくポジションチェンジを行い、観察を行わせてみる。
「どうだ? 何か分かったか?」
「は、はい。中に人が……ただ、何か様子が変です。まるで血に飢えた鬼さんのように目が赤く、体からはモクモクとオーラのようなモノが溢れてます。ちょっと怖いかもしれません」
フフ。お前もついに本当の恐怖を。
やらせて正解だったな。ささ、長居は無用だ。
気付かれぬウチにとんずらしよう。
「なあ、そろそろ疲れてきただろ。いい加減止めたらどうだ?」
「いいえ。問題ないので心配しないでください。それより花崎さんの横にいる人は誰なんでしょう?」
う……
またもや目がキラキラと。
どうやら、好奇心センサーが見事に発動してしまったようだ。
こうなったからには付き合うしかないだろう。
「彼女は俺達より一つ上の星名まゆり先輩。そして手前に座っている短髪が同学年の麻宮ナナだ。実は、奴等も我が家の住人だからしっかり覚えておいてくれ」
「わーい。思った通りです。何だか友達が増えたみたいでうっれしい。では、さっそくあいさつに行ってきまーす」
「お、おい。ちょっと待った」
思いっきり手を伸ばすが、無情にも一歩及ばず、赤月が中へ入っていってしまう。
あんのバッカヤロー。自ら地獄に頭を突っ込んでどうする?
言っとくが、俺は知らないからな。決して恨むなよ。
内部を覗く事すらせず、かといって立ち去る事も出来ないままあっという間に十数秒の時が経過する。




