第49話 おんぶして下さい
えー!まさか、何もしないで退出していくとは。
一体どうしてしまったんだ?
「ふぁー」
こ、このやろー。堂々とあくびなんてかましやがって。
どんだけのほほんとしてんだ、コイツは。
そりゃ、花崎が何もアクションを起こさなかったのは幸運だ。
だが、機嫌は悪いままなんだからな。
こちとら気が気じゃないぞ。
「ふぁー」
……ほう。
なかなかいい度胸じゃないか。
さすがにそろそろ我慢の限界だ。
「おい! よくもとんでもない事を口走ってくれたな。言っとくが、さっきの金髪は我が家の住人なんだぞ。分かってるのか?」
「え? どこからかすざくさんの声が。部屋にいるんですか?」
あ……
そういえば、透明化してるのをすっかり忘れていた。
「よく俺だと認識出来たな。ビンゴだ」
「やっぱり。何だかホッとしました。でも、肝心の姿が見当たりませんが」
「実は、魔法をかけていてな。残念ながらしばらくは見えない状態なんだ。だが、ちゃんと正面あたりにいるから心配しないでくれ」
「はーい。了解でっす! なら、解けるまで待ってますね。おやすみなさーい」
「おーい。寝るな!」
「えー。いけないですか?」
「ダ・メ・だ」
「はーい」
全く。冗談じゃない。
また眠られでもしたら、こっちが大変だ。
「頼むから、まじめに話を聞いてくれ。お前はこの後どうするつもりなんだ? 花崎は怒ったままどっかへ行ってしまったぞ」
「ふむふむ。彼女は花崎さんというんですね。モノ凄く可愛かったですー」
はー。なんてのんきな。
これだから天然娘は。
「何を寝ぼけていやがる。もっと真剣に考えろ。何度も言うが、あいつは我が家の住人であると同時に学校に通う同級生でもある。なのに、カンカンに怒らせやがって。どうやって仲直りするつもりだ」
「えっと、その件についてはすざくさんに謝罪を頼もうと思います。どうか、よろしくお願いします」
「バカヤロー! なんで俺が? 責任は他ならぬお前にあるだろうが」
「フフ。冗談ですよーだ。また騙されましたね」
何だよ。
びっくりさせやがって。
「たちの悪いジョークはいい。何か具体的な案はあるのか」
「ええ。シンプルに頭を下げようと思います。やっぱり男女の関係はまずかったですよね」
ほー。コイツも心の奥底では反省していたんだな。
感心。感心。きっとしっかり謝れば、奴も許してくれるに違いない。
とりあえずは、問題が解決する見込みが立ったと捉えていいだろう。
ホント、よかった。
「あー!」
「な、なんだよ、いきなり。もしかしてこの世ならざる者でも見えたのか?」
「いいえ。体が透けてきました」
「マジか!」
ホ、ホントだ。という事は、二十分弱経ったのか。
案外早かったな。
「くー。もうダメです。お腹が減りすぎて気力が」
可哀想に。
きっと昨晩は何も食べなかったんだろう。
「なら、話は早い。朝食を取るぞ」
「やった……ようやく食事に」
「ああ。だから、元気を出せ」
「はい。では」
は?いきなり手を広げて何やってんだ、コイツは。
はっはーん。さてはまたからかおうとしてるな。
「ホラ。ふざけてないでさっさと行くぞ」
「ですから、私をおんぶして連れてってください」
なにー!俺がどうしてそこまで。
と言いたい所だが、天然娘がまたごね始めたら面倒だ。
やるしかないだろう。
「しょうがない。のれ」
「ありがとうございまっす!」
枕元付近でしゃがみ、赤月を背中におぶる。
「どうだ? おんぶの心地は?」
「フフ。最高です。ヤッホー。高い高ーい」
あれ?あんだけ具合悪そうだったのにやたら元気過ぎやしないか?
よく分からんが、まあいい。とにかく腹ごしらえだ。
細かい事は気にせず、ひとまず外へと向かう。




