第41話 なんだ?この聞くに堪えないクソ歌は
あれ?確か先輩は、ロングヘアーだったハズだよな。
なのに、どうして髪が一本も見えないんだ。普通にありえないだろ。
何がどうなってんだ?すっかり頭が混乱してるが、延々とボーっとしていてもらちがあかない。
いっちょ調べてみるか。思いきって布団をめくってみると、約一メートル程のクマのぬいぐるみが目に入る。
えー。なんだ、こら。
あまりに意外すぎる。というか、なんでこんなモノが部屋に?
置いてあった記憶なんてまるでないぞ。とするとこれは、奴の私物に間違いない。
そしておそらく、コイツがベッドに置かれたままである事を考えると昨日は一緒に寝たんだろう。
フフ。悪魔にも少しは可愛い所があるじゃないか。
ほんの少しばかしイメージが変わりそうだ。
「クマちゃん、クマちゃん、ク・マちゃん。クマちゃん、クマちゃん、ク・マちゃん」
のんきに人形をいじっていると、どこからともなく女性の歌声が聞こえてくる。
な、なんだ、このいかにも低クオリティーなクソ歌は。
一体、どこから音が?
外か家の中か、はたまた部屋からか?
残念ながら現状ではよく分からない。
ただ、仮に今の歌がすぐ傍からしていたのだとしたらかなりまずいぞ。
なにせ、二〇三号室は先輩の自室だ。他に人がいる訳ない。
イコール。声の主は、必然的に星名まゆりという事になる。
おそらくあいつがいるとしたら、華麗にスルーしたバスルームだろう。
うわー。何だか途端に寒気が。
きっと、気性の荒い単細胞女の事だ。
いると分かった瞬間、修羅場と化すに違いない。
どうしよう?
「クマちゃん、クマちゃん、ク・マちゃん。クマちゃん、クマちゃん、ク・マちゃん」
お、おい……
この声は確実に近くから。
やばい。恐れていた事態が現実のモノとなりそうだ。
こうなったら、速やかに退散するしかない。急いで走行を開始しようとするも突如左側のドアが開き、タオルを全身に纏った悪魔が姿を現す。
う……
なんてこった。
とうとう降臨なされてしまったぞ。
相変わらず恐ろしい横顔だ。正に絶体絶命の状況だが、幸い先輩はこっちに気付いていないみたいだ。
今のウチに作戦を練っておこう。思考を巡らせた矢先、先輩が振り向き、互いの目と目が合う。
ひゃー。万事休すだ。
絶対に殺される。もはや恐怖一色だが、何もしなければさらに状況は悪化してしまう。
とりあえず訪れた訳でも伝えておこう。
「お、おはようございます。今日は天気がいいですね。そういえば昨日はどうでしたか? ぐっすり眠れたのならいいのですが。なかなか下りてこないものですから、たまらず起こしに来ました」
どうだ?我ながらまずまず見事な丁寧口調だったと思うが。
お気に召してくれたか?
「フフ」
おー。笑い声を上げたかと思いきや、下を向いたぞ。
これはちょっとした奇跡だ。どうやら少しは機嫌が直ったらしい。
よかった。よかった。ほんじゃそろそろ外へ。
歩き始めようとした瞬間、先輩がゆっくり顔を上げる。




