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魔女の人形  作者: 少々
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人形と矛盾

昏々と眠る彼女を寝巻きに着替えてベッドに寝かせる。


泣いて真っ赤に腫れた目も、ぬらした手ぬぐいで冷やしてやればきっと彼女も気づかないでしょう。


花が萎れるように弱っていった今回は部屋もきれいなままで特に片付ける必要もなさそうです。


一度部屋中の壁紙が引っかき傷でぼろぼろになったときは部屋を変えるしかなく、引越しの作業が大変でした。


120年。


今回は・・・どちらかというと短いほうでしょうか。


彼の知らせを待ち続け、ようやく届いた訃報。


普通の人間は100年も生きないのだからそんなことは当たり前です。


それでも待ち続けた彼女は健気というかあきらめが悪いといいますか。


しかし、60年越しにわかっただけでも幸運なのかも知れません。


”彼の元へ”という名目で決心がついたのですから。


決心……いや、見切りでしょうか。


魂など不確実なものですし、私たちの場合は”魂が天に昇る”などということはありえないのですから。


すべてを忘れリセットする。


彼女がそれを選択するたび私は『魔女』が心底恨めしくなります。



『魔女』は『康太』を再生するために自分に施されたものを彼の体に施した。


それでも修復できない脳の神経を彼女は人工物で置き換えた。


目覚めた彼氏に否定され、その研究の延長で発明した記憶改竄薬で逃げ出せたのはなんという皮肉でしょう。


できるものなら私もすべてを忘れて逃げてしまいたい。


しかし彼女の発明品は私の人工物で置き換えられた神経に対しては意味を成さなかった。


それはまるで呪いのように。




No.10のファイルのを開き、ちょうどよい区切りを探して、その一枚を取り出し封筒へ。


その日以降の手紙をすべて取り出し、No.11以降のファイルすべてを回収。


彼から彼女に贈られたさまざまな物品。


何処かの街の風景の描かれた絵葉書。


綺麗な装飾だからと飾られた紅茶の空き缶。


次に会った時に渡そうと持ち続けた刺繍の入ったハンカチ。


ガラスが取れても使い続けたカチューシャ。


擦り切れてしまう前にと保存したワンピース。


それらもすべて回収対象。


すべてごちゃ混ぜに大きな袋へと入れる。


それらは全て隣の地下室の焼却炉へと放り込まれます。


パチリパチリとはぜるそれらを見つめながら彼女の名前を決めるのが、忘れることの出来ない私なりの区切りになってるのでしょう。


”もの”はいつか壊れる。


それがいつかはわからない。


おそらくまだ先の、気の遠くなるほど先の話でしょう。


その時まで延々と長い長い時をひとり待ち続けるのだ、とすっかり慣れた暗闇が私に付きつけてくる。


せせら笑うそれを無視し、彼女の目元を確認する。


どうやら彼女の目の腫れは無事に引いたようです。


ぬるくなった手ぬぐいをそっと取り、音をなるべくたてないように袋を運び部屋の外へ。


半開きのドアから見える彼女は穏やかな表情で眠っている。



どうか、どうかそのままで。


鮮やかな時より穏やかな日々を。


晴れ渡る太陽より一面の雲を。




パタン、と閉じられた部屋にはひとりの少女が死んだように眠り続けていた。




最後までお付き合いいただきありがとうございました。


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