荒事と私 b
5/26 所々の表現を加筆、訂正しました。
8/23 誤字訂正
侵入者たちの標準装備は猟銃らしく、部屋の入り口で見張っている2人の男も階段を上ってきた男達と同じタイプの銃を携帯していた。
旧式とはいえこのような銃を複数そろえるのはそれほど簡単ではないだろう。
どうやら金払いのいいパトロンがいるようだ。
連れてこられたのはあの研究室。
しかし、内装は既に破壊され尽くしており、当時の価値で何億万、現在での金属価値や貴重な技術のことを考えるとその何千倍もの価値をもつだろう研究機器はただの鉄くずとなっていた。
「ロクさん、『人形』連れてきやしたぜぇ。」
傷男が引きずってきた私を床へと突き飛ばす。
肩を強かに打った。
扉の閉まる音がした。
今、研究室の中にいるのは4人。
さっきの傷男とスキンヘッド。
もう一人猟銃を提げる先ほど階段で会った男とはまた違う男が一人。
特徴は髪が頭のてっぺんで尖り固められている。
それから、リーダー格と思わしき冷めた目の男。
ロクというのはこの男のことだろう。
刃渡りの大きいサバイバルナイフを持ち、それを始終弄びながらこちらを見ている。
私の足の先から頭のてっぺんまで観察するその目は寒々しく、何の感情も見られなかった。
「へー、これが『人形』か。 こんな小娘がねえ」
尖り頭の男が私の前にしゃがみ込み、あごをつかみ覗き込む。
嫌悪感で肌が泡立つが、今の私は両手を後ろで縛られており、振り払えるほどの力はない。
男の視点は私の顔から胸、さらに下へと移動していく。
雄の目で見られることに恐怖を感じるが、体は強ばり動かない。
それでも、このまま目をそらしていたら負けだ。
目の前の獣を睨みつけると、男の口は楽しそうに歪んだ。
「おい、そこらへんにしておけ。」
ロクという男が尖り頭を制止すると、渋々といった感じでそばから離れた。
代わりに私の前に立つのはロクという男。
無機質な目が私をじっと見下ろす。
さっきの卑しい目線のとは別の、本能的恐怖。
この男は私が必要に値しなければ、まるで紙くずを捨てるように私を殺すだろう。
「おい、お前は、『魔女の人形』か?」
一言ずつ重みを持たせるような言葉。
掠れて聞き取りづらい、なのにいやにプレッシャーを感じるその声に、嘘を言ったら何をされるかわからない、そんな恐怖が植え付けられる。
「わ、わからない。」
「わからない?」
殺される。
そんな恐怖を感じて私はあわてて言葉を次ぐ。
「わからない、わからないんだ。
気がついたらここにいて、それよりも前の記憶は消されている。
本当、本当だ。」
その言葉に納得したのか、らちがあかないと判断したのか、男からのプレッシャーが一瞬遠のく。
だが、それは本当に一瞬だった。
「次の質問だ。
『弟子』の部屋は何処にある?」
弟子?
「弟子って誰の?」
「魔女のだ。」
ヴィオに聞いた『魔女』の話で出てきた『魔女の弟子』。
それがどうしてここに出てくるんだろう?
どうしてそれを私に……って私が『人形』だからか。
そうだ、『人形』がいるということは『弟子』がここにいてもおかしくはない。
仮にそう仮定すると、それは誰なんだろう。
私の知っている人?
…………コウタさん?
それならいろいろと納得がいく。
コウタさんは手紙を読む限りずっと私のそばにいる。
それこそ、いつから一緒なのかわからないくらい。
放っておいたら何も知らずにのたれ死ぬ私の面倒をみている。
毎朝変わらず様子を見に来る。
それらは、『私』が師である『魔女』の残した『人形』だから?
あぁ、全ては『魔女』でつながっている。
『魔女』とは?
『人形』とは?
私は何?
コウタさんは?
もう、何がなんだかわからない。
思考の波に飲まれた私のふくらはぎが硬い靴で踏みつけられる。
忘れていた銃創が再びの熱を持つ。
甲高い叫び声をあげる私を見下しながら、男は徐徐に体重を増していく。
「どうして……それが、知りたい、の?」
「それを「四季を取り戻すためだ!」
後ろの方で尖り頭が吠える。
「魔女は我らの時を奪った!
そして今も一部の研究者が時を独占し、富と長寿を得ている!
しかし、四季はあるべきものだ!
誰かが独占していいものではない!
紫外線なんてあるかわからないもののために四季を奪われるなど言語道断!
我らには四季と太陽の光を享受する権利があるはずだ!」
廊下のほうで援護するように賛同する声が聞こえる。
だが、それとは対照的に、ロクという男を始めとする面々の目は冷めている。
「今、本館の方も我らの同士が襲撃している!
魔女と魔女に魂を売った裏切り者どもに正義の鉄槌を!
我らに光と豊かな四季を!
魔女たちによる独占は今日をもって潰えるのだ!」
つばを飛ばし、泡を吹きながら言い切った尖り頭を、男はちらりと横目で見た。
まるで、石ころを見るような目だ。
尖り頭をスルーした男はしゃがんで私に目線をあわせ、ナイフ片手に同じ質問を繰り返す。
「『魔女の弟子』の部屋は、何処にある?」
「知ら、ない。」
本当に知らないのだから、こうとしか答えようがない。
間髪入れずに即答する。
男は私のふくらはぎを一瞬見た後、おもむろにナイフを私の首へとそえた。
「なぁ、お前さん、死なないんだよな。」
ひたり、と金属が肌に触れ、そのまま胸骨の方へと滑らせる。
「そのふくらはぎの傷も、もう血が止まっているな。」
服にしわが寄り、繊維が少しずつ切れていく。
「けどよ、いくら死なないとしても、傷がついたら痛いよな。」
少しずつ、服の繊維が切れる音が耳に届き、胸の辺りが寒くなっていく。
冷たい金属が胸の中央をなぞっていく。
おそらくあられもない姿になっているだろうが、そんなことを恥ずかしがる余裕などない。
「もう一度聞く、『魔女の弟子』の部屋は、どこだ。」
ナイフの切先が左胸の皮膚を破るぎりぎりの強さで押し当てられ、じわりとかすかに血がにじみ出てきて、
「うわっ!」
「なんだ、お前!」
廊下から発砲音。
何か重いものが倒れる音がした。
すかさず、スキンヘッドが廊下に向け発砲。
一発づつレバーを引いて、計6発を続けざまに撃った。
穴だらけになったドアを俺様男が開けると、そこには三人の男が倒れている。
うち一人は赤い髪を血で濡らしていた。
「え……?」
「おい、てめえなにしやがる!」
仲間の負傷を見た尖り頭が吠える。
傷男が撃つ。
尖り頭は額に穴を開け、ゆっくりと崩れ落ちた。
「ちっ、もう来たか。 おい、お前ら撤収するぞ。」
そう言うと、男は私ののどを手に持つナイフで突き刺した。
衝撃。
氷で切り裂かれたような冷たさ。
息ができない。
頭がぐるんぐるんまわる感覚がする。
ナイフが引き抜かれた。
頭の中が真っ白になる。
が、すぐに激痛の波が押し寄せ、私を溺れさせる。
息の仕方がわからない。
意識を失うのすら許さないのか。
のどから熱い血が逆流する。
服が血を吸い重くなる。
咳き込む、が、それによりさらに傷口が開く。
酸素が脳に足らず、頭が上手く働かない。
目に映るものは脳に信号として伝わらない。
あふれる血と涙と唾液。
頭を埋め尽くす無秩序なノイズ。
どうして死ねないんだろう。
そんなことを冷静に考える自分が頭の片隅にいるのを奇妙に感じた。
「途中で叫ばれたら困るからな。」
「咳き込む音で丸わかりじゃねぇですかぁ。」
「ちょっと縛るのがめんどくさいってどんだけですか?
それに、死んじまったらどうすんです?」
「かまわない。
俺たちが必要としているのは、不老不死の手がかり、死ぬことのない『人形』だ。」
この程度で死んだらそいつは失敗作だったってことだ。




