第4話 「チーム『女子会』のパシリになってください」
羽瀬九十九の死から約5年。彼の死は同業の『希望の光』の間に瞬く間に知れ渡った。彼自身はあまり自覚していなかったみたいだが、時間を操る能力は貴重なもので攻撃的な能力ではないが、支援役として一目おかれていたのである。
「そういう悲しい事件が起こった。我々も気をつけなければならない」
ラライド街。その宿屋の食堂でとあるチームが食事をとっていた。『希望の光』は単身で挑むことも多いが、またチームを組むこともある。気の許した仲間と進む、というのも手段の1つなのだ。
「おい、おい」
「・・・・・・・」
「私の話を聞いているのか、五十川」
「・・・・・・・」
「お前まだ私たちになじんでいないのか・・・?」
チームのリーダーらしき長い黒髪の女性が五十川とやらに話しかけているが五十川に反応はない。
「無理ないっすよー、だってあいつチンピラですしー」
砕けた敬語という矛盾した口調で話すツインテールで背の低い女の子がまた言う。
「こら、美弥子。そんなひどいことを言ってはいけません」
丁寧な口調で応じる茶色の長い髪の清楚そうな女の子。
「なにいってんですか、由梨。あなたが一番チンピラとか嫌いでしょうに。笑顔を浮かべないでくださいよ、腹黒女」
「は、腹黒・・・だ、誰がですか!」
「おい、美弥子、由梨、落ち着け」
「「リーダーは黙っててください」」
「ほう・・・私に口答えするか」
「奈奈。お、おちついて・・・」
気弱そうになだめようとする女の子。
このチームはこの5人で構成されていた。チームというのは普通は長い間一緒にいた家族、友達、親戚などで構成されるものだが、しかしこのチームは違った。全員が全員ソロだったのがいつの間にか一緒にチームを組んでいたという不思議なものだったのだ。
「・・・・・・」
五十川は人生はここで終わったと思った。
(この頭のおかしい女どもに出会っちまったのが運のツキだったんだ・・・ちくしょう・・・)
中でも五十川は一番最近仲間になった、仲間にさせられたばかりである。
(くそ・・・普通チンピラを仲間にするか・・・?)
自分で自分のことをチンピラというのは情けなかったがそういうしかない。金髪、髪は長くはないがそれだけで目立つ。とても潜入も時に必要とする『希望の光』とは思えない身なりだった。
しかし五十川は思ったよりもまじめである。見た目が目立つだけでそれ以外は普通なのだ。
「ふむ・・・しかし五十川、もうそろそろ慣れてくれないと困るぞ」
女子達が喧嘩をしているなか、余裕があるのかリーダーである笠井奈奈が話しかけてくる。
「なれる!?お前らにか!ふざけんな、こちとらロボット退治なんて危ないマネやりたかねぇんだよ!」
「ふむ・・・確かに一理ある。危険が伴うのは確か、無理強いはできないな」
そう言って奈奈は後ろの喧嘩中である女子達に話しかける。
「私はやはりこいつを仲間にするのは賛成できん。無理強いをしていい戦いではない」
「え?いまさらっすか、リーダー。美弥子は最初から反対でしたよ、そんな役立たず」
「ぐっ・・・」
一番背が低く年齢が低い木本美弥子が毒を吐く。自分のいい方向に話が進んでいるのに言い返そうとしてしまった。
「あの・・・わたしは五十川くんの意見を尊重したいなって・・・」
またまた気弱そうに意見したのは伊井愛華。外見も病弱そうであるが元気そのものである。
「そうですね・・・私も五十川くんの意見を尊重したいと思います。ですから不本意ですが今すぐ、今すぐこの証拠を、私たちの財布を盗もうとした証拠を警察に突き出さねばなりませんね」
にやりと笑ったこの清楚そうな女の子は岡山由梨。腹黒女と称されていたように少し正確に難のある人だ。
この一見女の子達に囲まれているうらやましそうなこの状況は五十川太一にとって地獄だった。ほとんど脅迫のようなものなのである。
先日太一はいつものように金に困ったため、『光』を使い人を脅し金を盗もうとしていた。そんなところに現れたのが彼女らである。
いいカモだと思い、仕掛けたが、残念、相手の女子4人は全員『希望の光』で全員自分よりも強かった。警察に突き出されるかと思ったがそうではなく、仲間に誘われたのだった。
警察に捕まりたくなかったら仲間になれ、と。
リーダーの奈奈は単純に太一の能力に惹かれ、気弱な愛華はリーダーの指示に従い、美弥子と由梨は盾代わりに使える、とのことで理由はバラバラなのだが。
「で、どうします。五十川くん。この証拠」
「ぐ・・・」
「さすが由梨、悪い女ですねー」
「ちっ・・・分かったよ。お前らが死ぬまでは仲間になってやる。だからとっとと行って死ね」
「え?聞こえませんよ。まさかこの状況で自分が上だと思っているなんてことはありませんよね。だから普通なら仲間にしてくださいお願いします、とそう言うはずなんですが」
「な・・・ぐ・・・・仲間にしてください・・・お願いします・・・」
「いいでしょう。私は困った人を見捨てれない人なのです。よかったですね、あなたをぼこぼこにぶちのめしたのが私で」
「何言ってるんですか、美弥子ですよ、ぶっとばしたの」
「いえ、違いますよ、私です」
「おい、待てお前ら。私だぞ、私がこいつを倒した」
「あ、あの・・・みんな失礼なような・・・」
五十川本人の前で誰が五十川を倒したのか、という討論を始めた。
ぐぐぐ・・・と五十川は唸っていたがしかししだいにヒートアップしていくその討論を聞いて腹が立ってきた、そしてついに堪忍袋の緒が切れた。
「てめぇら!いい加減にしろ!」
その手に握られているのは石。指で挟めるほどの小さな石。しだいにその両手に握られた石が光る。『光』発動の瞬間である。
「『全てを奪う冷却』!」
手に持つ石が急激に凍る。氷に完全に包まれた瞬間、指で軽く石を弾くと、まるで銃弾のようにものすごいスピードで放たれた。
『全てを奪う冷却』。物から熱を奪い冷却する能力。付加価値として奪った熱エネルギーを使い、銃弾のように放つことが可能。近くにあるものならば手で触れなくても発射することができる。ただし、石ころのような小さいものしか凍らすことができず、人間も凍らすことができない。
「懲りないな、君は。ここは私に任せろ」
奈奈は腰にさしてあったサーベルを抜く。しかしそこには刀身はなかった。
「『暴れ狂う風波』」
小さくそうつぶやくと、刀身があるはずの場所に風が集まりあっという間に風でできた刀身が出来上がる。剣のように斬るのかと思いきや鞭のようにしならせ、一振りで全ての石を破壊した。
「なっ・・・!俺の『石弾』が!」
「石ころが竜巻に敵うわけなかろう」
『暴れ狂う風波』。風を集め、竜巻状に剣を形成する能力。剣としてだけでなくしならせて鞭のように扱うこともでき、さらに纏う竜巻の大きさも変えられる。
「アイシクル。そんなかっこいい名前なのにできるのは銃のマネごととは悲しいな。そして君はその技で一度我々に負けただろう。学習能力がないのか?」
「かわいそうなこと言いますねー、リーダー。しかし美弥子も同感です。もう無駄ですよ、諦めてこの状況を受け入れてください。受け入れて私たちチーム『女子会』のパシリとなってください」
「なんですかそれ・・・ダサ・・・」
そう言い残してそれぞれ自分の泊まる部屋へと戻っていった。
「・・・・・」
これなら警察に捕まった方がマシなんじゃないかと思い始める太一だった。
〇
早朝。眠りが浅く、すぐ起きてしまった太一は宿屋の廊下を歩いていた。一応高い宿屋らしく、豪華で広い庭もあり、そのそばを歩けるこの散歩もまた価値のあるものなんだと思い知らされた。
そんな風景が目の前にある。
「あーあ・・・」
近くにあった砂利をいくつか掴む。これを飛ばすことも可能な能力。そんなちっぽけな能力。銃を使っても同じ。そんなこと分かっている。
なんとかしてあいつらに一矢報いてやりたい。そう思っていたが昨日の宿屋の一件でさらに力の差を思い知らされたような気がする。
「俺にも救いたいものぐらい・・・あったんだ・・・」
彼女らは太一がチンピラになった過程を知らない。そのことを知ったらもしかしたら太一のことを仲間ときちんと認めてくれるかもしれない(由梨以外は)。
でもそんなのは違う。同情されて同等とみなされても嬉しくない。やるなら・・・。
「実力勝負」
それしかない。それに『光』を持つということはみんなそれなりに悲しく、ひどい惨劇を味わってきたということ。『光』を持つものはロボットに襲われたものなのだから。
自分だけが特別なんじゃない。ファクトリーをぶっこわすでも、あいつらを倒すでもなんでもいい。あいつらよりも優れていることを示す。そう心に決めた。
これはそんな少年と少女達の物語。
というわけで今回から第2章「女子会」編です。えぇ、今、決めました。
前章が序章じゃないのってぐらい短かったんですぐに第2章です。
年末ということで次は年明けになると思います。
ではまた次回。




