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第7(最終)話 夜明けなき審判、そして世界は回る

「――第2次、

 開門裁判を始めます」


少女の澄んだ声が響き渡った。

法で裁かれぬ闇が

この世界に存在する限り、

大人が子供たちの痛みから

目を背け続ける限り、

この

「小さき魂たちのレクイエム」が

終わることはない。


暗闇のなかで、

新たなクズの絶叫が木霊し、

世界は静かに、しかし確実に、

因果応報の歯車を回し続けていた。

東京の空は、相変わらず

冷徹な鉛色に染まっていた。


一連の不可解な

「連続失踪および精神崩壊事件」は、

警察庁や公安をも巻き込んだ

国家機密レベルの

捜査対象となりながらも、

いまだに犯人の特定はおろか、

動かすことのできない

「超常現象」として

タブー視され始めていた。


メディアは恐怖を恐れて

この話題に触れなくなり、

世間は再び、何食わぬ顔で

それぞれの日常へと戻っていった。


法律は改正されず、

司法のシステムも本質的には

何ひとつ変わっていない。


「知らなかった」という言い訳を

巧みに使い分け、

自分の保身と利益のために

弱者を切り捨てる大人たちは、

相変わらずこの世界のあちこちで

息を潜め、あるいは堂々と闊歩している。


表面上の世界は、

あの夜から少しも変わっていなかった。


――だが、その「裏側」の歯車は、

もう二度と止まらない。


東京都内の

とある古びたアパートの一室。


そこは、かつて誰も見向きもせず、

誰の助けも届かないまま、

冷たいコンクリートの上で

小さな命が理不尽に散っていった

「最初の現場」だった。


室内の空気は、

常に真冬のように凍てついている。


だが、

そこにあるのは冷たさだけではない。


この国のすべての

「救われなかった子どもたちの魂」が

集結する、絶対不可侵の聖域だった。


その中央に、

ユウタがぽツンと立っていた。


彼の周囲には、

全国各地から集まった無数の

「小さな亡霊たち」が、

それぞれの痛みを抱えたまま、

静かに佇んでいる。


「みんな、お疲れ様」

ユウタが振り返り、

仲間たちに優しく微笑んだ。


その瞳には、

かつての恐怖や絶望の色はもうない。


そこにあったのは、

すべてを見届けてきた者だけが持つ、

深く静かな慈愛と、

絶対に揺るがぬ断罪の意志だった。


「僕たちの声は、

あの人たちに届いたかな」


別の少女の亡霊が、

少し寂しそうに尋ねた。


ユウタはゆっくりと首を横に振った。


「ううん、届いてないよ。

あの人たちは、

自分に都合の悪いことなんて、

すぐに忘れてしまうから。

法律も、社会も、

僕たちのことなんて本当は見ていない。

きっと、

これからも同じ過ちを

繰り返す大人はたくさんいる」


「……そっか。

なんだか、少し悔しいね」


「うん。でもね」


ユウタは、窓の外――

いまも何事もなかったかのように

動き続けている広い世界を見つめた。


「僕たちはもう、

ただ泣き寝入りして

助けを待つだけの存在じゃない。

あの人たちがどれだけ隠そうとしても、

どれだけ『知らなかった』って

逃げようとしても、

僕たちはいつでも、どこからでも、

その枕元に現れてあげる。

『ざまぁみろ』って、

心の底から絶望させてあげるんだ」


その言葉に、

集まっていた無数の子どもたちの

瞳が一斉に爛々と輝き出した。


それは悲しみの涙ではない。


理不尽に奪われた未来を取り戻すための、

小さくも最強の

「チート・システム」の光だった。


現世では、

相変わらず人々が足早に通り過ぎていく。


会社では

上司が保身のために部下のミスを隠し、

家庭では

大人が自分のストレスを

か弱い存在にぶつけ、

法廷では

弁護士が金のために

凶悪犯の減刑を勝ち取り、

政治家が綺麗事を並べ立てている。


誰もが

「自分は大丈夫だ」

「まさか自分が」と信じ込んでいる。


しかし、

そのすべての平穏な日常のすぐ背後で、

冷たい霜が降り、

小さな手形が

窓ガラスに浮かび上がる夜は、いつ、

誰の身に訪れてもおかしくない。


「――さあ、第何次かな」


ユウタがふっと笑った。


「今日の夜も、どこかのクズな大人が

『知らなかった』って泣き叫ぶ番だよ」


少女がうなずき、小さな手を差し出す。

「うん、行こう。

僕たちのレクイエムに、

終わりなんかないんだから」


パチン。

ユウタが指を鳴らした瞬間、

その古びたアパートの部屋は、

音もなく霧のように消え失せた。


そこに残されたのは、

ただの空っぽの空間だけ。


しかし、世界のどこかで、

まさに今この瞬間も。


冷たい風が吹き抜け、

逃げ場のない闇の中で、

大人の絶望の悲鳴が小さく木霊し始めた。


法律が裁けぬ悪を。

神が見放した闇を。

小さき魂たちのチートとざまぁで、

地獄の底へと叩き落とす

開門の裁判は、今日も、明日も、

永遠に終わることはない。


©2026[I・G・ε].All rights reserved.

読んでくださりました方々に篤くお礼申し上げます。

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