第1話 同点のライバル
桜が咲く春、聖曜学園高等部へ入学した小日向ひより。
そこで、自分と同じ入学試験の成績を取った篠宮律と出会います。
春。
聖曜学園高等部の正門前には、満開の桜が咲いていた。
新しい制服に身を包んだ生徒たちが、家族と記念写真を撮りながら校舎へ入っていく。
小日向ひよりも、校門に掲げられた入学式の看板の前に立っていた。
「ひより、もう少しこっち向いて」
母親がスマートフォンを構えている。
「お姉ちゃん、早くしてよ。僕、お腹すいた」
隣では、年下の弟が退屈そうに待っていた。
「まだ学校にも入ってないのに、もうお腹すいたの?」
「朝ごはんが少なかったんだよ」
「ちゃんと食べてたでしょ」
ひよりが笑うと、母親がその瞬間を写真に収めた。
「撮れた。いい顔してる」
「ちょっと。今の絶対、変な顔だったでしょ」
「自然でかわいいわよ」
「入学式の写真なんだから、もっときれいに撮ってよ」
家族と言葉を交わしながらも、ひよりの胸は期待でいっぱいだった。
今日から始まる高校生活。
新しい教室。
新しい友達。
そして、中学校までより難しくなる勉強。
ひよりは勉強が好きだった。
知らなかったことが分かるようになるのも、努力した結果が点数として返ってくるのも好きだった。
入学試験にも自信があった。
聖曜学園高等部でも、きっと上位に入っている。
そう思いながら、ひよりは家族と別れ、昇降口へ向かった。
一年二組。
教室の前に貼り出された名簿から自分の名前を見つけ、中へ入る。
窓際の席では、黒髪の男子生徒が一人で本を読んでいた。
周りでは、初対面の生徒たちが自己紹介を始めている。
けれど、その男子生徒は会話に加わる様子もない。
ずいぶん真面目そうな人。
ひよりはそう思ったが、特に話しかけることなく自分の席へ向かった。
入学式が終わり、教室へ戻る。
担任から学校生活についての説明を受けたあと、生徒たちは次々と帰り支度を始めた。
「小日向ひよりさんと、篠宮律君は少し残ってください」
担任に呼び止められ、ひよりは手を止めた。
何か忘れ物でもしただろうか。
そう考えながら教室に残っていると、窓際で本を読んでいた男子生徒も席を立った。
この人が篠宮律なんだ。
二人が教卓の前へ並ぶと、担任は一枚の書類を確認した。
「二人に伝えておきたいことがあります」
担任が二人を交互に見る。
「今年の入学試験で、最高得点を取ったのはあなたたちです」
「最高得点?」
ひよりの声が弾んだ。
やはり自分の手応えは間違っていなかった。
「ただし、首席は一人ではありません。二人とも、まったく同じ点数でした」
ひよりは隣に立つ律を見た。
律は驚いた様子もなく、静かに話を聞いている。
「入学後の成績によっては、学校から特別な推薦を受けられる可能性もあります。二人とも、このまま努力を続けてください」
「はい」
ひよりが答えると、少し遅れて律も返事をした。
説明が終わり、二人は一緒に教室を出た。
廊下には、もうほとんど生徒が残っていない。
ひよりは隣を歩く律を何度か見た。
自分と同じ点数を取った相手。
どんな勉強をしているのか、少し気になった。
「ねえ」
ひよりから声をかけると、律が足を止めた。
「何?」
「入学試験、難しかった?」
「普通だった」
「普通って何よ。結構難しい問題もあったでしょ?」
「解けない問題はなかったから」
淡々とした答えに、ひよりの負けず嫌いな気持ちが刺激された。
「私だって、ほとんど解けたから」
「そう」
「何、その反応」
「同じ点数だったんだから、それくらい分かる」
言い方はそっけないが、間違ったことは言っていない。
ひよりは律の前へ回り込んだ。
「次の試験では、私が一番になるから」
「順位のために勉強してるわけじゃない」
「じゃあ、私に負けても平気なの?」
律はすぐには答えなかった。
そのまま通り過ぎるのかと思った時、小さな声が返ってくる。
「負けるつもりはない」
「やっぱり気にしてるんじゃない」
ひよりが笑うと、律は何も言わずに歩き出した。
「ちょっと、待ってよ」
ひよりもそのあとを追いかける。
「篠宮君って、いつもそんな感じなの?」
「そんな感じって?」
「無愛想で、感じが悪い」
「今日初めて会った人に言われたくない」
「初対面だから教えてあげてるの」
「余計なお世話」
昇降口へ向かう間も、二人の会話は途切れなかった。
やがて靴を履き替え、校舎の外へ出る。
春の風に乗って、桜の花びらが舞っていた。
「じゃあ、次の試験で勝負ね」
ひよりが言うと、律はわずかに振り返った。
「勝手にすれば」
「絶対に一番になるから」
「さっきも聞いた」
「忘れないように言ってるの」
二人は正門の前で別々の方向へ歩き出した。
小日向ひよりと篠宮律。
同じ日に、同じ学校へ入学し、同じ点数から高校生活を始めた二人。
ひよりは、この先も律と競いながら、成績上位を走り続けていくのだと思っていた。
けれど、二年後。
篠宮律は、学年首位。
小日向ひよりは、学年最下位になっていた。
『恋は放課後、君のとなりで』が始まりました。
同じ場所から高校生活を始めた、ひよりと律。
二人に何があったのか、見守っていただけましたら嬉しいです。




