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3.他人sageてばっかりで虚しくならないの?

 口の悪い童顔の彼女に手ひどく断られてから、はや五日。私は毎日アイドルシティに通い詰めて、門限ギリギリの時間までフリーなアイドルを探して歩き回った。

 でも得られるものは何もなく、結果的に焦燥感と徒労感を抱えるだけとなっていた。

 このままだと本当に強制退所させられてしまう未来が簡単に予想できてしまう。でも、それだけは絶対に嫌だ。

 僅かな可能性に賭けるのであれば、やはり彼女に頼むことしかできない。カラフルな髪色が多い中で赤色のサイドテールだけを手がかかりにするのは中々ハードルが高い気もするけれど、今縋れるものはそれしかないんだから。


 そう自分を奮い立たせ、今日も更衣室から足を踏み出した。すぐ後ろを歩くのは数人で連れ立っているであろう女の子たち。その会話の内容は学校の話とか、男性アイドルの話とか。

 遊びに来てるんだろうなぁ、と思いながら彼女たちに道を譲ろうと脇に逸れる。入口の手前で追い越そうとしたらしい、黒や白の制服が視界の端にチラリと映る。その瞬間、軽く肩に何かが当たる感覚。まぁ四人も広がっていたら当然だろう。


 軽く頭を下げ、逸る気持ちのまま中に入ろうとする。が、その腕を誰かに捕まれて足を踏み出そうにも踏み出せない。

 反射的にそちらに顔を向けると四人グループのうちの一人、目を吊り上げたいかにもリーダーっぽい子が口を開いた。

「あのさぁ、ウチらにぶつかっといてそれだけで済ますつもり?」

 『いかにも』って感じの言葉にちょっと違った意味で閉口してしまう。分かりやすくクラスの女子の女王様で、トラブルメーカーという匂いがぷんぷんする。


「でも、四人でここを通ろうとしたのも、前に私がいることを知っていながらも通ろうとしたのはそっちですよね?」

「はぁ?」

 専属アイドルを見つけられていないという苛立ちや、ここは本来アイドル事務所なんだぞという妙な反発心が相まってそんな言葉が飛び出していた。自殺行為にもほどがある。


 逆上してきた四人は私を取り囲むよんでくる。流石にまずいのでは…?と思って周りを見てみるけど、誰もいない。

「ていうか、ここに一人で来るってやばくない?」

「え~それな?ぼっちで来て楽しめる場所ではないと思う~~。」

「あれじゃない、最近Twitterでよく見る人!マジになってアイドル探してるんです!って声かけてくる人じゃない?」

「あ~たしかに!ピンクの制服で陰キャって!」

 世間話のようなトーンで耳を塞ぎたくなるような言葉を投げかけてくる四人。初めて会った、名前も知らない人にどうしてここまで言われなきゃいけない?しかも、彼女の話からすると私の存在は広まっているらしい。確かに目立つような行動をしていたのは間違いではないため、ぐうの音も出ない。


「そうだ。ウワサのあんたに出会えた訳だし、イイこと教えてあげるよ。」

 一通りゲラゲラと笑ったところで、そのうち一人が涙を拭うようなアクションをしながら私に向き直る。

 これだけボロクソに言われて、何がイイこと…と思ったけれど聞いて得をするかもしれないと自分に言い聞かせた。


「あんたにお似合いのフリーなアイドル、心当たりいるんだよねぇ。」

「ああ、あれ?まだ居んの?」

「居るらしいよ、神経どうなってんだろ。」

 フリーなアイドル。ずっと探している私からすれば、二人目の存在ということで心沸き立つはず。だけど、ここまで悪評高いのだとちょっとコンタクトを取るのが怖い。


「名前、アイネって言うらしいんだけど。赤の髪にナメた言葉遣いで、一年くらいて色んな人にシメられたって訳。」

 あげられた特徴に、一週間弱前に出会った彼女の姿が当てはまる。フリーで、ここにも嫌気がさしていそうだった。


 とここまで一言も発さず、ぼうっとしてしまっていた私に四人は苛立ちを募らせていく。脳みそが聞くのを拒否していたのか、不思議と内容は全然覚えていない。どうして私にここまで怒っているのかが、まるで分らなかった。

 でも、敵意を持った四人に囲まれるって言うのはとても怖いことみたいで、気付いたら腰が抜けて座り込んでいた。

 一人の手が持ち上がり、そのまま振り下ろされるんだろうな、ということは分かったのに電池が切れたように体は動かない。

 ぱちんと乾いた音が響き、頬が熱を持つことを予想して身を縮こまらせるが、その衝撃は来ないで凛とした声が割って入った。


「また初心者いじめ?ほんっと、他人sageてばっかりで虚しくならないの?」

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