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無理だって言ってるのが分からない?

「は?」

「えっと、聞こえなかった?だから、私の専属…。」

「聞こえてるっての。意味がわかんなかったってだけで。」

 乱暴に私の手を振り払って大きくため息を吐く。ぎろりと睨んでいるつもりなんだろうけど、丸い瞳で睨まれたって怖くない。


「無理無理。そんなめんどくさそうなこと。他を当たんな。」

「そこを何とか!」

 手をひらひらと振り、どこかへ行けというジェスチャーをする彼女に喰い差がる。一人で歩いているアイドルコースの子なんて絶滅危惧種。この子を逃してしまえばもう出会えない可能性だってあるんだから、絶対に逃すわけにはいかない。


「あたしが本気でアイドル目指してるクチに見えんの?」

「それは…見えない。見えないけど、私はあなたのプロデューサーになりたいなって思ったの。」

「今?笑わせないで。退所ギリギリだから誰彼構わず声かけてるとかそんなとこでしょ?」

 私より長くここにいるらしく、的確に痛いところを突いてくる。実際そう思っているところがないと言えば嘘になるんだから。


「退所ギリギリなのはそうだけど…、でも私はあなたを一番のアイドルにしたいと思った。顔も可愛くて、スタイルもよくて、ちょっと口が悪いのは玉に瑕だけど、でもきっといいアイドルになれるよ!」

「おだてたって無駄。あたしはもうアイドルに興味ないし。そろそろ手、離してくれない?」

「い、嫌っ…!もう興味がないってどういうこと?私も納得できる理由を教えてくれたら、もう言わないから。」


 手をぎゅっと握り、言うまでは動かないという気持ちを込めて彼女の目を見た。自慢にならないけど、私の目は三白眼ぎみで目付きが悪い。

 得をすることなんてほとんどないけど、こうして話し合いをするときは迫力とやらで相手が折れてくれることが多くて複雑な気持ちだ。

 

「無理だって言ってるのが何で分からないかな…。あたしがあんたと専属契約して、こっちにメリットが一つもないの、分かる?」

「分からない。メリットが生まれるようにすればいいってこと?」

「誰もそんなことは言ってない!」

 くしくも私の目付きは効かないし、どんどん彼女の機嫌は悪くなる一方でそろそろ暗雲が立ち込めはじめるのを肌で感じる。

  彼女の専属にならなければいけないという気持ちばかりが急いて、決定打となる一言が中々出てこない。


「迷惑だからこれ以上関わらないで。あと周りは見て歩きなよ。」

 そう言って彼女は今度こそ足を踏み出す。カツンとローファーの底がレンガを叩く音が私の中でやたら大きく響いた。

 どんどん遠ざかっていく赤色の束を見つめていると、話すのがあまりに下手だった自分を思い出してさらに気分が落ちる。


「アイドル、探さなきゃな…。」

 自分を奮い立たせるために呟いたその一言は思ったよりもトーンが暗くて、返ってもっと陰鬱とした気持ちにさせるのだった。





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