06話 イレギュラー
私事ながら今週末に予定が入ってしまい、投稿が難しそうだったので早めに書きました!
タグにある“ほのぼの”は何処へ……といった内容ですが、そこは皆様の山より高く海より深いご慈悲に期待させて頂きます(笑)。
イリスのその予想外の言葉に、ルルナにあるまじきその絶叫に、或いは、知ってはいけない事を知ってしまったという恐怖に……俺は、発するべき言葉を、取るべき行動を見出せなかった。
「……勇者、様……」
「ルルナ……」
ルルナが俺に声を掛けてきた。その言葉に俺は我に返り、怯えている訳ではないから安心してと言って、歩み寄ろうとした。
俺が一歩を踏み出したその時、ルルナは逆に一歩後ずさった。
「勇者様……申し訳、御座いません……。このような……汚れた者が……すぐ側で……。今から……この穢らわしい魂を、ナイフで、貫きますから……ご安心、下さいませ」
彼女に低い声でそう語り掛けられると、俺ははっと息を飲んだ。彼女は、そのナイフで自らの命を絶とうとしているのだ。
「許さない……」
「そう、ですよね……」
「勝手に死ぬなんて、許さない!俺は少なくとも、ルルナがいなかったらこの世界で生きてこられなかった筈だ!忌み子が何だ!悪魔が何だ!ルルナはルルナだ!」
一息に言ってからルルナの返事を待つ。だが、ルルナの返事は言葉では返ってこなかった。
彼女は、徐ろにナイフを抜くと、その小さな胸に突き立てた……否、突き立てようとした。だが、キンッという音と共に、ナイフは弾かれ地へと舞った。
「へ……何が……?」
「ルルナっ!」
俺は一目散に彼女の元へと駆け寄った。何が起こったのか、誰の仕業なのか……そんな事はどうでも良かった。ただただ、彼女の安否が心配だった。
「来ないで下さいませっ!わたくしと一緒にいたら、絶対に不幸な目に遭いますっ!」
「そんな事ない!寧ろルルナがいなくなったら俺はどうなるのか分からない!!」
「勇者様はお優しいから、そのようにしか仰る事が出来ないのです……」
「違う!!じゃあ、ルルナと一緒にいたら、俺に何の不幸が降り掛かるっていうんだ!」
「それは……」
「何もないだろう!?なら一緒にいてよ!!それで良いだろう!?」
言えるだけの事は全て言ったつもりだ。嘘も無い。そしてルルナのナイフは彼女から離れた場所にある。もう、大丈夫だろうか?
「でも……でも……」
「この、戯け者!!」
ふと、澄んだ声がダルアスの中に反響した。
見ると、虹色の巨竜が、その美しい相貌を歪めて少女の方を見ていた。
彼女は一転して声のトーンを落とすと、優しげな表情でぷるぷると震える少女へと語り掛けた。
「大昔の事です。私は大空を舞い、人を助ける事を数少ない生き甲斐としていました。当時、忌み子は今よりもずっと多い個体数が存在して、又今と同様に酷い扱いを受けていました」
だから何だと言うのだ、という表情で、少女は神にも等しい年月を生き抜いてきた猛者を見ていた。
「今から私はかつての相棒のうちの2人の話を致しましょう。その人間の少年は、謂れもない罪を着せられ、村追い人となっていました。最早息も絶え絶えといった様子で道に這いつくばっていて……そして、私と出会いました。」
彼女の話は続いた。
少年は自らの身を案じることもなく、イリスに1つだけお願いをしたそうだ。
『会いたい人がいる。村に行って、その人に合わせてくれ。そうしてくれたら、後は何も望まない。俺の事は煮るなり食うなり、好きにしてくれ』
、と。
少年に残された時間が少ない事を悟ったイリスは、急いで少年の案内した村へと飛び、その家へと辿り着いた。だが、その人物はいなかった。それでも少年は諦めなかった。とはいえ、少年の脈はいよいよ弱っていき、やがて止まろうとしていた。イリスは少年を癒した。自らの血で以って。それは少年の願いではなかった。イリス本人の、望みであった。
イリスと少年は共に旅に出た。そして3年後、少年と少女は再び巡り合った。少女は、忌み子であった。少年は本来ならば少女が着せられるはずだった罪を、自ら被ったのであった。そして少女も又、少年を探すべく旅に出ていた。彼等は、確かな愛で結ばれていたのだ。
その後、少年と少女、そしてイリスは、友として、世界を旅し、又救った。少年と少女も又、子を為し、幸せな家庭を築いた。
やがて少年と少女はその命を全うしこの世を去ったが、その事を決してイリスは忘れず、各地でこの話を広めたのだそうだ。
そして彼女は最後にこう言った。
「そなた等に、こうあれと言うつもりはありません。けれども、忌み子の少女よ。決して、大切な人への愛を忘れるなかれ。勝手に去る事は、自らの魂を滅する事は、ただの自己満足でしかありません」
「…………はい、承りました。……勇者様、不躾ながら……一緒に、いて頂けますか?」
俺は安堵のあまり、思わず溜息を吐いてしまった。
「寧ろ俺からも頼むよ。ルルナ、一緒にいて欲しい」
「……はいっ!承りましたっ!」
この約束が近く破られる事になるとは、まさか想像すらしていなかった。小さな心の揺らぎは、段々と蓄積していき……やがて、奔流となり、少女を突き動かすのだった…………。
〜★〜★〜★〜
「はぁ、もぉ、どぉーなるかと思ったよぉ〜!」
「ソラも、心配した。ご主人さまも、るるなちゃんも、なかよく、ね?」
「はい……申し訳ありませんでした」
「ホントですよ!見ててヒヤヒヤしましたからね!」
「私は別に何も思いませんでしたが……」
バゼシス、お前はもう帰って良いぞ。
「と、ところでヴ……イリス様、他のお話、聞かせてもらえませんか?」
デティアは好奇心旺盛だなぁ。
「……良いでしょう。何について訊きたいですか?」
「え……えと、お、お名前について、訊いても良いですか?」
「名前……イリス、という名前についてですか?」
「あ、そうです」
バゼシスが、あっ、という顔をする。
ん?デティア、地雷踏んじゃったのかな?
「……それは無理です」
「や、やっぱそうですよね?ご、ごめんなさい!」
「良いのです。これは、私の身勝手ですから。では、他に何か訊きたい事はありませんか?」
???……一体何があったんだろう?……まあいっか。
「あ……勇者様……」
ルルナにくいくいと服の裾を引っ張られる。
「ん?どうしたの?」
「ソラの事についてお訊きにならなくても宜しいのですか?」
「あ、そういえばその為に来たんだったね」
訳分からん事の連続ですっかり忘れていたが、あの馬鹿デカい資料館を探すよりも、ここで訊いておいた良いだろう。
「イリス、ソラ……この子、スライムなんですけど、こんな風に人の姿にもなれるんですよね。なんでか、分かりますか?」
「ええ、勿論。ただ、この話は少し長くなってしまいますが、宜しいですか?」
その言葉に俺が肯定の意を伝えようするまでの刹那、その出来事は起こった。
(ズガーン!!)
「ん……何だ?この音は……」
「はて……私には分かりかねます」
突如として山の内部に鳴り響いた異音。そしてそれは、何度も何度も繰り返される。
「……?こんなにたくさん……。いけません!人間達よ、早く戦闘の準備を!!」
「えっ!?」
戦闘、だと!?まさか、この音が進軍の音だって言うのか!?そして、俺達の行動は、全部向こうに筒抜けだったのか……?
「まさか、反対側の岩壁を壊して……」
(ズガーン!!)
そして、これまでよりも一際大きく異質な音が、四方の壁に反響した。
壁越しではなく直接聞こえたその音の方向に、奴等はいた。
鉄のフルプレートに揃いも揃って赤い柄の剣を身に付けている。
「うわぁっ!?何、アイツ等ぁ!?」
その質問に答えたのは、デティアだった。
「本で読んだ事があります。ベルガー連邦の広大な全7地域から集められた精鋭中の精鋭のみが集まる部隊……鉄血。その数は僅か1000人足らずですが、かつて8万の兵を使者を出さずに倒したとの記録も残っています。その力は彼の大帝国の精鋭兵ですら到底及ばないそうです」
んな……80倍の兵を、無傷で、だと!?
「なんか……こわい……」
確かに、鉄の人形に覆われた彼等からは一切の感情を読み取る事が出来ない。鉄血、という名前からも、彼等がベルガー連邦にとってただの戦力としか……否、戦力の大部分としてみていると考えて良いだろう。
「ブラッディロン隊長オーディス及び第1兵、参る!!」
「「「オオォッ!!!」」」
ヤバ……突撃して来た!
「勇者様、皆さん、後ろへ下がって下さいませっ!」
そう言うとルルナはたたっ、と軽く地を駆け、視認する事すら出来ない速度で敵に斬撃を見舞った。
鮮血が舞い、3人の兵士が倒れると……、
「ぬうんっ!!」
「……っ!」
突如現れた、隊長、とみられる偉丈夫の黒い剣が、ルルナの首を刎ねんと襲い掛かった。辛うじて直撃を免れるも、彼女の美しい髪とエプロンドレスの一部を斬り落とされた。
すると、
「はあっ!!」
バゼシスがあたかも疾風のように駆け、偉丈夫の鉄鎧と鉄鎧の間……首の部分を狙い、刃を横に振るった。
「ふんっ、なかなかどうしてやりおる」
偉丈夫が跳び、戦場の後ろへと戻ったのと同時に、俺は我に返る。そうだ、俺も戦わなければならない!
「身体強化!!」
俺が唱えると元々速かったルルナ達の動きが更に速くなる。
「ソラも行ってくるね」
「ボクは隠れとくねっ!」
「僕も援護します!アイツ等のプレートアーマーに高温の炎をぶつけたら戦闘の邪魔くらいにはなる筈です!」
「そうだね!」
他にも俺に出来る事はないだろうかと考えながらイリスの方を見る。
「はぁ……煩わしい人間共よ。今すぐ去るのであれば傷は与えません。去らぬのであれば、我が怒りを以ってそなた等の命を滅します」
「それはヴァイス様ではなくただの偽竜だ!このような爬虫類の話など聞くでない!殺せ!!」
「「「オオォッ!!!」」」
「……はぁ、今度こそ仕方ありませんね」
……何とも自分勝手な考え方だ。イリスの力を見て退散するのを信じるしかないが……それは無理そうだな。
この分だと当初の予定通りに事を進めても失敗していた可能性が高い。攻めて来てくれて良かったのか悪かったのか……。
それは兎も角、だ。そういえば、さっき女神様ことシャーロットから祝福を貰ったじゃないか。
そう、“錬金”を使えば良いじゃないか。
〜★〜★〜★〜
やっぱり……。やっぱり、前よりも腕が落ちている……。
わたくしはそう思います。いつも戦場で本気を出せば、敵の対象であろうと簡単に首を落とす事が出来ました。けれど、その時には太刀筋に迷いが無かったから……。
でも、今は……感情も見せずに向かって来る敵を斬る事にすら、躊躇いを抱いている。その事がわたくしの太刀筋を鈍らせているのは明白です。
ダルアスに来る途中でも感じた、命を奪う事への躊躇い……。
けれど他者の命を奪わなければ、わたくしが大切に思う人達へ危害が及ぶ……。それだけは、絶対に避けたいのです。でも……。
そう考えながらも、わたくしは敵にナイフ……否、剣を向ける事を、それで斬る事をやめない。
その動きが身体に染み付いてしまっている事が、無性に怖い。思わず勇者様の方をちらっと見てしまいます。
「あっ……」
痛い……っ!戦闘中の余所見。最早タブーといっても良い程の行為を思わずやってしまったわたくしは敵の攻撃を受け、深手ではないものの肩に傷を負いました。
けれど、わたくしは目にしてしまいました。こんな傷なんかより、もっと恐ろしい事が起こってしまう!
「勇者の従者!何を余所見しているのです!」
「バゼシスさん、ここは任せましたっ!」
「っ!?貴女、何を……」
有無を言わさず、わたくしは駆けます。勇者様の方へ……。
勇者様が、敵の人質にされる前に……!
……異世界生活69日目、未だ終わらず。
申し遅れておりましたが、総合PVがやっと3000に到達した模様です♪読者の皆様には厚い感謝を!
前話で申し上げました設定に関しては少々お待ちを……。あまり長くはならないかと思われます。




