表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
五章 過去編 ユリアスの事情
79/92

36 持ち出し禁止の資料

読みに来ていただき、ありがとうございます。少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。



あまりに間が空くことが多く、前書きで【前回までのあらすじ】的なものを書く必要があるのではないかと、真剣に考え始めた今日この頃。



なので、ちょっと試しに書いてみました。でも多分今回だけ……。



【前回までのあらすじ】

殿下の魔力の暴走により、母親からの自分への愛情を疑い始めたユリアスさん。誰にも会いたくない、とばかりに『塔』での引きこもり生活を満喫しておりました。

でもだからといって食事をしないわけにはいかないので、食事だけはこっそりでかけています。

そんなある日、お昼ご飯を食べに行った王宮内の某食堂で、王立騎士団の団長こと『筋肉バカ』が退任したと小耳にはさみました。

しかも何やら揉め事の気配がしますよ!


もしやアッシュが巻き込まれているのでは!?と気になり、事情通の魔法使いに詳細をたずねるユリアスさんなのでした。

「まだ揉め事って程でもないと思うがな」

と首を傾げる土の魔法使い。



騎士団長の突然の退任にも関わらず、王立騎士団内は今日も何事もなかったかのように、普段のまま動いているらしい。


それはきっとダニエル副騎士団長がいるからだ。

王立騎士団はもはや、騎士団長がいてもいなくても何の問題もないくらい、副騎士団長に掌握されているという事だろう。もしこれが逆に退任したのが副騎士団長だったとしたら、そっちの方が混乱していたのかもしれない。




「だけど、」と土の魔法使いは続ける。

「もう丸1日過ぎるのに、まだ新しい王立騎士団長の名が公表されてないんだ。俺はあまり詳しくはないが、本来なら騎士団長の退任と同時に、大々的に公表されるもんじゃないのか?こないだの、近衛騎士団長の時がそうだったろう?」

「そう言われると確かに揉め事くさいよな。まあ、もしそんなふうにちゃんと公表されてたら、俺だって王立騎士団長も退任したのか、って気づいてたぞ」

そして風の魔法使いは僕を見て、「お前はそれでも多分気づかないだろうけどな」と失礼な一言を付け加えた。

今日このタイミングで食堂に来ていなかったら全くもってその通りだった自信はあるけど、素直に頷く気になれなかったので知らん顔で食事を進める。


そんな僕をみて、二人はまるで示しあわせたように揃って吹き出したのだった。





王立騎士団と近衛騎士団は同じシステムの筈だ。


僕が聞いたのは近衛騎士団の話だけど、もしアレクシスのいう通りだとするならば、本来なら筋肉バカは副騎士団長のダニエルを指名して退任している筈。

なのにまだ新しい騎士団長が公表されていないということは、筋肉バカが誰も指名しないまま退任したとかの理由で、隊長たちによる協議とやらが行われているのかもしれない。

彼ら二人の仲は決して良好そうでもなかったから、その可能性は充分あると思う。



そしていつの間にか、目の前の二人の話題は第二の人生に移っていた。

二人ともそろそろ年齢的に、器が縮む気配を感じていてもおかしくない。

まだあと数年は余裕があるのかもしれないけど、それも人それぞれだ。早くから計画を立てておくに越したことはなかった。


あまり先行きが明るいともいえない二人の話を聞きながら、ふと考える。


僕がまだ『塔』に来たばかりのころ、『筆頭』さえいれば……という言葉を何度も聞いた。

それはまるで信仰めいて、『筆頭』さえいれば全てはうまくいく。『筆頭』さえいれば未来はきっと明るいものになる。

そういったふうに、語られていたものだった。


でも今、こうして僕が『筆頭』となっても、何ひとつ変わったことなんてないように思う。

外へ出ている魔法使いたちへの風当たりが変わったという話も聞かない。

まだ筆頭職を得て2ヶ月かそこらで気が早いと言われればそれまでだけど、なんだか急に気が重くなってきた。


みんな僕に対していったい何を思っているんだろう。

不満?失望?幻滅?


それとも近い将来への僅かばかりの期待?


だけど、みんなが期待するような何かに応えられる気なんて、全然しない。

こんなに滅入った思考の時に、殿下の魔力が暴走したままでなくて本当によかった、と心底思った。





食事を終え『塔』へ戻ると、宰相からの呼び出しが届いていた。

明日の午前中に宰相の執務室に来るように、という内容だ。


宰相の執務室は王宮の奥殿、殿下の住む宮殿のすぐ近くにある。あそこまで行きながら殿下のところには顔を出さないなんて、できる訳がない。


物事というのは往々にして、動き出すときは一気に動き出すものだ。例えそれが気の進まないものであったとしても、乗るしか選択肢はないんだろう。


十数日に渡って逡巡した挙げ句、僕は宰相の呼び出しに背中を押される形で殿下を訪ねる決意を固めた。





宰相からの呼び出しには、午前中という以外に時間の指定はなかったので、少し早めの時間に執務室を訪れた。用件は恐らく、以前から仄めかされていた廃坑についての詳細だろうけど、それにどの程度の時間を喰うのか分からなかったからだ。



ドアをノックすると、現れた文官らしき男が取り次いでくれて更に奥の部屋へ通された。

大きな窓を背に、机に向かう矍鑠とした老人の前には山のように積まれたファイルと書類の束。

横の壁際は天井の高さにまで及ぶ大きな作り付けの棚になっていて、その一面にびっしりと、色分けされナンバリングされたファイルが並んでいる。

手前には6人掛け程のテーブルが置かれ、取り次いでくれた男とは別の文官が4~5冊のファイルを積み上げて片っ端から繰り、必死に何かを探しているようだった。


「宰相さま、やっぱりここにある資料にはそういった例は載ってませんよ。この資料は去年にも調べたけど、そんな記憶ないですもん。これ以上は資料庫を探さないと……」

男が顔を上げ情けない声をあげた途端、宰相は手元の書類から目を離さないまま、机の引き出しから取り出した何かを放り投げた。

慌ててキャッチした掌の中の鍵を見て、男は目を剥く。

「5時間、てとこじゃな。ザッとでいいから遡れるだけ遡ってくれ」

簡潔な指示に、男は時計を見てがっくりと項垂れ、「俺の昼休憩……」と呟きながら部屋を出ていったのだった。



その光景を言葉もなく呆然と見ていた僕に、宰相は漸く向き直る。

「さて、筆頭殿。御足労いただき申し訳ないですな。ここ暫く何かと立て込んでおって、つい遅くなってしまった……。早速じゃが」



執務室の隅の応接セットへ案内され、宰相の話を聞く。

そうして解ったことは、廃坑の奥に在るあの存在について王家が知っていることなど殆どない、ということだった。


持ち出し禁止だからここで目を通して下され、と渡された分厚いファイルに挟まれていたのは、代々の筆頭によって記された廃坑に眠るドラゴンに関する報告書。

最も古い部分で400年ほども前に書かれたというそれの原本は、王宮の書庫の奥に厳重に保管されているらしい。あまりに古過ぎて風化しボロボロになっているため、最早迂闊に触れることも出来ない状態なのだそうだ。

僕がいま手にしているのは写本の更に写本。そこへ代々の筆頭による新たな頁が追加されたもので、厚みだけはたっぷりとある。


鉱山がまだ銅を産出していた頃にドラゴンを発見するに至った経緯。その頃の政治的配慮とやらによる廃坑の決定に関する意見書。そして当時の筆頭が記したドラゴンに関する資料。

但しこれはお粗末にも程がある代物だった。


恐らく発見された当時から、今とほぼ変わらない状態だったと思われるドラゴンは、苔むし、岩と同化した姿で横たわっている。

どういった理由からか『まだ生きている』と判断されたそのドラゴンに、当時の筆頭は近づくのを恐れた。


畏怖、だろうか。


あの静謐な空気には、そういった気持ちを抱かされる何かがある。ただ僕にとってはそれよりも何よりも、懐かしさと慕わしさが勝った、というだけのことだ。

ともあれ、当時の筆頭はドラゴンに近づけないまま、遠くから眺めただけの観察記録のようなものしか残していない。

そしてそれは、時代が下がって他の筆頭が記した頁に移っても大差なかったのだった。



ドラゴンが生きている、と判断された理由らしきものは何処にも残されていなかった。

なのに、生きているのが当たり前、という前提で記録は書き進められている。


宰相にも理由は分からないらしい。

資料にわざわざ書き残すまでもないような明らかな理由があるのだとすれば、それは当時なら分かっていて当然の、そして今の時代には伝わっていない何かなのかもしれない。



殿下は恐らく知っている。


だけど訊いても教えてはくれないだろう。

どのみち僕もこの資料を参考にして、これまでの筆頭が残してきたのと同じような観察記録を綴るつもりだし、それ以上のことをする気はなかった。




応接セットに僕とファイルを残し、宰相は仕事に戻っていく。


中味のない、面白味もない資料を一人読み進めていくと、気づくこともあった。概ね2年に一度の割合で記入されている観察記録だけど、突然十数年、或いは何十年単位で間があくことがある。恐らくこれは筆頭が不在の期間だ。

この資料をみる限り、筆頭の在籍期間はかなり短い場合が多く、空白期間の方は相当長い。

また、筆頭の能力や功績をメインに残されている『塔』の資料は、他者の視点によるものだからだろうか。英雄として扱われているものが殆どだけれど、この自筆の資料から読み取れる、別の角度から切り取られた筆頭たちの姿は、動かないドラゴンを怖れる何処か頼りなげな人間味あふれるものでしかなかった。


そして、資料の後の方になると、いきなり様相が変化する。

当時の土の筆頭が初めて廃坑を訪れた時だ。

彼はドラゴンの元に辿り着くまでの過程で、偶然トルマリンの鉱脈を発見してしまった。


筆頭レベルの土の魔法使いだからこそ、見つけることができた鉱石。


興味か、義務感からか。


そこに視えているそれを幾つか掘り起こして持ち帰り、披露すると王宮に激震が走った。

トルマリンは、ただのトルマリンじゃなかったからだ。


のちに稀少種トルマリンと呼ばれるようになったそれには恐ろしい程の価格がつき、長引く戦争に疲弊しかけていた我が国はたちまち息を吹きかえす。

そこに、この鉱石を見なかったことにしよう、と考える者は誰もいなかった。



初めは眠るドラゴンを起こさないよう恐る恐る。やがて目を覚ます様子のないドラゴンに安心したのか採掘は本格的に始まり、それに伴って戦争が激化していく。

戦争が激しくなるから採掘が進められるのか、どんどん採掘するから戦争が激しくなっていくのか、淡々と綴られるその資料から読み取ることは出来ないけれど。




読み進めるうちに、ふと気づくと宰相が机に座ったままこちらを見ていた。



何だ?


その視線に気づいた途端、心臓をギュッと掴まれたような心地がする。

僕が何かしただろうか。


震える指先をそっと握り込み、何か?と首を傾げてみせると、彼は一瞬動揺したかのように瞳を揺らし、口を開いた。

「筆頭殿は、王子殿下と大層お親しいと噂に聞くが……」



僕ではなかった?


「……『大層』かどうかは分かりませんが、親しくはしていただいていると思います」

「……そうか。筆頭殿の前で、あの方はどのようなご様子なのだろう。いったいあの方は……、いや、何でもない」




宰相は少し躊躇ってから勝手に話を終わらせ、書類に視線を戻してしまった。

だけど、彼が何を言いたかったのかは何となくわかる気がする。

祝賀パーティーを無事に成し遂げた殿下には、新たにお任せする公務を選定するためのチームが作られた。そのメンバーには宰相も加わっていた筈だ。

これまで表舞台には殆ど出てこなかった殿下と関わる機会も増えて、何か思うところがあったのかもしれない。



ーーそれにしても、今のは何だった?

僕は、宰相の視線に怯えたんだろうか?


怯える理由なんて何処にもないのに?





資料には、『ドラゴンの眼が一瞬開き、光を放ったのを確認した』と大きく記され、それきり希少種トルマリンの採掘が中止されたと記載されていた。

その翌年にも同じ人物の手になる記録が記され、それを境にふつりと途絶える。

そして十有余年、風の筆頭が記した新たな頁が始まった。

恐らく彼が、廃坑の奥にあの結界を施した人物だ。そして僕の前任の筆頭ということになる。



けれどこのファイルを最後まで読んでも、あの結界を構築したという記述は見当たらなかった。


何の為にあの結界を張る必要があったのか。

誰かがあのドラゴンの元へ訪れるのを妨げるため?

それとも逆にドラゴンを閉じこめるためか?



廃坑へ赴くのが筆頭だけなのだとしたら、もしかしてたまたま見つけた火の魔法使いたちを除いては、誰もあの結界の存在を知らないのではないか?




僕は少し考え、誰かが言い出すまではその可能性に気づかなかったふりをして、口を噤むことにした。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ