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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
五章 過去編 ユリアスの事情
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30『剣と酒樽亭』の密談

躊躇いつつ疑問をぶつけようとした僕の口元を、殿下の小さな掌が遮った。

「その話はここまでだ。公式な見解についてはいずれ父上や宰相から説明があるだろう。私から言えることは何もない」


ーー殿下がそう言うなら、これ以上は立ち入るな、ということだ。


肩を落とす僕に、殿下は目を和ませる。

「つまらん話を持ち出して悪かった。それよりも、随分活性化してしまっているようだ。あそこへ入ったせいだろうが、何か不都合はないか?」


殿下は僕の翠の瞳を覗きこみ、そう言った。



一週間前、あの廃坑を出てきた時から、僕の中の殿下の魔力は興奮しザワザワと騒ぎっぱなしだ。

今は意識して抑えているけど、少し気を抜けば無秩序に暴れだしかねない。


ーーでもまだ大丈夫。まだ抑え込める。




僕は多分、自分の能力(ちから)を過信していたのだろう。

この魔力はあくまで殿下のものであって、僕はただ預かっているだけの器に過ぎない。そんなことも忘れていた。




「ええ、何も問題ありません」

僕はただにっこりと笑って、殿下にそう告げたのだった。











王立騎士団の伝手というのはもちろんアッシュのことだ。

後日、僕の呼び出しに応じたアッシュは、開口一番『祝賀パーティー』の不参加を詫びてきた。

でもあのパーティーは、王妃様には申し訳ないけど僕にとってはどうでもいい。

それよりも驚いたのは、久しぶりに会ったアッシュがいつの間にか、『副団長付き補佐官』とかいうものになっていたことだった。




アッシュに案内された下町の『剣と酒樽亭』という酒場で、奥まった席を陣取り僕らは話していた。

この店では普通の酒の他に、ここの店主手作りの一風変わった酒が何種類も楽しめるらしい。その数30種類以上。

そのくせアッシュが呑んでいるのはジョッキのエールで、僕のはごく一般的なグラスワインだ。


「どうせならその珍しい酒でも呑めばいいのに」

僕がツマミのくん製肉をつついて言うと、アッシュはエールの追加を頼みながら言った。

「それをいうならお前もだろ。俺はただ、ユーリにこんな面白い店があるって教えたかっただけ。変わった酒は騎士団の連中と来た時に呑むからいいや。そういやこの前さ……」

アッシュがとっておきの話をするように声を潜めたので、反射的に僕らの周りギリギリに防音の結界を張り巡らせる。「副団長も一緒に呑みに来たもんだから、つい同じように何杯も火酒を呑んじまって酷い目にあったんだ」


全然とっておきでもなんでもなかった。


火酒と言うのは、この大陸の北方で好まれている恐ろしく度数の高い酒のことだ。極寒の地で身体を温めるために呑んだり、傷の消毒に使ったりする酒で、エールみたいにガブガブ呑むような代物じゃない。


副団長(ダニエル)はザルで顔色も変えやしないから、張り合ってるうちに潰れてしまった……というアッシュは、翌日まっすぐ歩くことも出来なかったらしい。トイレの近くから動けずにいるうちにその日は終わり、それから三日間、身体から酒の臭いが抜けなかったのだそうだ。


呆れた目を向ける僕に、アッシュは全然悪びれた様子もなく言った。

「だけど、副団長も次の日は普段じゃ考えられないミスを連発してたらしいぞ。躓いてコケかけたり名前を呼び間違えたり、何度も計算をやり直してたりとかさ。俺はそれどころじゃなくて気づかなかったけど、色んな人から『よくやってくれた』って言われた」


「副団長って嫌われてるの?」

「いいや?どっちかというと恐れられつつ慕われてる感じだな。けど今まで誰も酒で勝てた(ため)しがないそうだから、それでじゃないか?」


「ふーん。でもそんなふうにおだてられて調子に乗ってると、そのうち身体を壊してもしらないよ。それに、そもそも補佐官って何なの?そんな役職聞いたことないんだけど」

少し得意気なアッシュに釘を刺しつつ、気になっていたことを訊いてみた。学校で教わった騎士の階級や役職にもそんなものはなかった筈だ。


眉を顰める僕に、アッシュは首を傾げてみせる。

「俺も自分が就くまで聞いたことなかった。あれは多分、副団長がでっち上げた役職だ」

「でっち上げって……。そんなのが通るんだ?」





パーティーに王立騎士団長の名代として参加し、挨拶に来た副団長は確か、細い縁の眼鏡をかけた怜悧な印象の痩身の男だったと思う。

その直前に挨拶にきていた近衛騎士団長名代の副団長は、儀礼用の制服を見本のように堅苦しく着込んだ生真面目そうな男だった。


アッシュの話によると、王立騎士団の副団長の名はダニエル・カーマイン。

僕やアッシュが騎士養成学校に入学する前に卒業していった先輩で、当時の自治会長を務めていたらしい。アッシュも自治会長を務めていたから、彼にとってはそういう意味の先輩でもある。

数年前までは父親が現役で騎士団に在籍していたとかで、騎士団内部ではずっと『ダニエル』と名前で呼ばれているそうだ。

僕も騎士養成学校ではレイズと呼ばれていたけど、弟のジュリアスとレイモンドは名で呼ばれていた。

きっと同じ名が何人もいたらややこしいからだろう。



「とにかく、副団長と団長はどうにもウマが合わないんだよな。団長は頭使うより身体動かすタイプだし、面倒なことは全部副団長に丸投げなんだ。それに体力至上主義なもんだから新人騎士への扱きが厳しくて、耐えられずに退職する(にげだす)奴もいて副団長(ダニエル)は頭抱えてるんだよ」

「つまり、アッシュに輪をかけた脳筋なんだ」

つい本音が出たらアッシュはジロリと僕を睨んで、俺はあそこまで酷くない、と呻いた。


アッシュにここまで言わせるなんて相当だ。

瞠目する僕に、アッシュは更に付け加える。

「あと、団長は魔法使いが大嫌いだな」

「え?どうして?」

別にそんな奴に好かれたくもないけど、理由は気になった。けどすぐに、聞くんじゃなかったと後悔する羽目になった。

「筋肉万歳の人種だからだよ。魔法使いって基本体力なさそうだろ。それだけで存在自体を小馬鹿にしてる」

「は!?何それ」



魔法使いたちには仕事柄、体力が必要な部分もあるけど、当然騎士には比べるべくもない。でも、そもそも魔法使いたちは別に、筋肉万歳になんてなりたくもないだろう。それは価値観の違いだ。


だからってーー。


「生活していく上で魔法使いの世話にならずに暮らすなんて無理だよね」

火も水も、市井の魔法使いがいなければ不便このうえないだろうに。

王都を守護する結界も、転移門も、魔法使いの能力があってこそだ。この王都に住んでいて、魔法使いの世話にならないなんてあり得ない。

その魔法使いを小馬鹿にする?


「そこを感謝する尊敬する、って気持ちにはならないんだろうよ。そういうのは一般人の感覚だろ?団長は筋肉命だ。筋肉の国の住人なんだ。魔法使いに対しては、仕事をさせてやってる、ってのが節々に出て……あ、こらユーリ!俺を睨むなよ。俺の考えじゃないから!」


元々好感なんて持ち得なかった騎士団長は、いまや僕の中でゴミ虫以下の存在だ。



はあ、と僕はため息を落とし、慌てるアッシュをヒタリと見つめた。

「そんな体力自慢で筋肉バカのそいつは、身体が弱いらしいね?しょっちゅう体調を崩すそうだけど」




「あーー、今日のユーリの用件はそれか?」


「分かる?」

「お前、目がマジだもんよ」

アッシュは大きく息をつき、さりげなく辺りを見回した。

「防音の結界を張ってるから、僕らの会話は他へは聞こえないよ」


僕の言葉にアッシュは一瞬目を瞠る。

「いつの間に?魔法って便利なんだな。騎士団はそういうの縁がないからさ」

感心しきりのアッシュだけど、こういうのは風属性なら誰でも出来るってものじゃない。音を消すことだけに特化したこの結界や、姿や気配を隠すためだけの結界は特殊な部類に入る。

風の筆頭ならともかく、今の風の魔法使いたちにはとても無理だろう。過去の文献を読んでなければ、そういうことが出来るってことさえ気づいてないかもしれない。

でも面倒だからそんな説明は省いて、本題に入ることにした。


「王立騎士団って一体どうなってるの?体力自慢の騎士団長は新人苛めに忙しくて、魔法使い相手の公務はずる休み?副騎士団長はその後始末に追われて、新しい役職をでっち上げてまでアッシュが補佐に駆りだされてるって訳?」


「お前、ずいぶん簡潔に纏めやがったな」

「でも?」

「うん、まあ……概ね間違ってない」

アッシュはがっくり肩を落とした。




それから僕らは杯を重ねつつ、長々と話した。

元々騒がしい店内では、僕らが追加を頼むのに手振りを使おうと気にもとめなかったし、運ばれてきた酒やツマミは店員がテーブルに近づく前にアッシュが手を伸ばして受け取っていた。



アッシュによると、王立騎士団ではもう何年もこんな状態が続いているという。

筋肉バカ(騎 士 団 長)は、王立騎士団内のお目付け役ともいえる重鎮たちが、年齢等による理由で次々と引退していくにつれて、その(へき)ともいえる本性をさらけだしていったらしい。

アッシュが王立騎士団に入団した頃にはもう、新人いびりとしか思えない扱きは常態化していたのだそうだ。


「といっても入団した奴全員が的になる訳じゃなくてさ、やっぱ目をつけられる奴がいるんだ。俺の年にも2~3人がやたら絡まれてた。まあ俺らの年に、そんなんで音をあげるようなやつはいなかったけどな」

「アッシュは?目をつけられなかったの?」

本人の自覚はないけど、アッシュは相当目立つ。標的にされてもおかしくない。


僕がそう言うと、彼は視線を逸らせた。

「……そんときはセーフ」

「ふーん。やっぱりアッシュは公爵家の跡取りだから、先のこと考えると必要以上に苛めるのは得策じゃないってことかな。幾ら筋肉の国の住民でも、その程度の計算はできるみたいだね。……で、『そのときは』ってどういう意味?補佐官になったのと関係ある?」

「まあ待てよ。順番に話す」

話す前から疲れきった風情のアッシュから聞き出した話はこうだった。



無事に新人いびりをすり抜けて3年目には中級騎士となっていたアッシュは、4年目には上司の推薦と試験の結果を受け、第1騎士隊の第3小隊長になっていた。近衛騎士団でも同じだけど、第1騎士隊っていうのは選りすぐりの精鋭部隊だ。

4年目でその小隊長を任されるというのは破格の出世だと思う。

けど、問題はその年に起こった。


リックス(例 の 護 衛)が王立騎士団に入団してきたからだ。




別にあの護衛(アイツ)がアッシュを追ってきたとは思わない。

子爵家の三男だというアイツが王立騎士団を選択するのは順当な話だ。むしろ公爵家嫡男のアッシュが王立騎士団にいる方がおかしい。


それはともかくとして、見た目も性格もかなり軽いアイツは見事に筋肉バカに目をつけられたらしかった。

しかも余程気にくわなかったのか逆に気に入られたというべきか、アッシュは詳細を語らなかったけど、誰もが眉を顰めるほど入念にいたぶられていたらしい。

通過儀礼のようなものだから、と最初は黙殺していたアッシュも、3ヶ月が過ぎる頃には(そいつ)のあまりの憔悴ぶりに黙っていられなくなった。

仲間内に手をまわし、上司を拝み倒し、アイツを自分の小隊に囲い込んだ。

誰が見たって明らかに特別扱いの依怙贔屓だ。


けど、本来なら周りから『ふざけるな!』と怒鳴られて終わりそうなことを、誰も敵に回すことなくやってのけるのがアッシュなんだ。



もちろんそれで事態が解決する筈もないし、そんなことはアッシュだって解ってる。アッシュが欲しかったのは、アイツが筋肉バカにしごかれている現場に乱入する権利だった。

幾ら可愛がってた後輩とはいえ、上に立つ者が自分と関係のない部隊の人間を助けにいくことは出来ない。そんなことをしたらリックス(アイツ)の上司の顔を潰してしまうからだ。





そうして、部下となったアイツを庇って筋肉バカと渡り合うアッシュに目をつけたのが、ダニエル副団長ということになるらしかった。




ここまで読んで下さってありがとうございました!


また、先月誤字報告を頂いておりましたのを、漸く修正致しました。

返信では、纏めて一気に修正したいというようなことを書きましたがとても無理で、3~4回に分けて3週間ほどかかってしまい、でもなんとか年内に終わってホッとしました。

変換ミスもありましたが、概ね私の覚え間違いや勘違いによるもので、丁寧に教えていただきとても勉強になりました。本当にありがとうございました!



今回ダニエルさんが(名前だけ)出てまいりまして、また新キャラかって感じですが、実は連載始めた当初に一度だけ、本当に名前だけ登場したことがあります。

その後、1~2話を改稿した時に消えてしまった幻のキャラだったり……。

最初の頃から読んで下さってる方でも覚えてないのは間違いない(笑)と思われます。

ようやく出せてよかった。



『異世界で~』は多分これで年内の更新は終わりだと思います。あと1話更新できたらいいけど全然書けてないし……。

そして次の更新は『弟子嫁』番外編のはず。

1話のつもりが3話過ぎても終わらない。書き終わり次第の投稿になります。

『聖女さま~』も年内に1話くらい投稿したかったけど、とても無理無理っぽいです。がっくり。


なんだか1週間、1ヶ月が飛ぶように過ぎていってて、仕事しかしてないのにもう年末(×_×)ってどうなんでしょう。

年賀状も大掃除も何一つできてないよ。誰か代わりにやってくんないかな(^_^;)



それでは、こんなところまで読んでいただき、本当にありがとうございました!




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