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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
五章 過去編 ユリアスの事情
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25 思わぬ反対

いつも読みに来て下さり、ありがとうございます。

ブクマ、評価下さる皆様にも感謝しております。


数字は気にしないようにしようとは思っているものの、きっちり出るのでやっぱり気になってしまう、小心者のわたくし(^_^;)。


ともかく、少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。





(ジュリ)たちは、名残惜しそうに何度も振り返り、手を振りながら帰っていった。

でも最後にジュリが僕に耳打ちしていった(何か悩んでるなら相談してね。僕じゃ頼りにならないかもしれないけど、一緒に考えるくらいできるから)っていうのはどういう意味だろう。

悩みがないとは言わないけど、ジュリに相談できるような種類のものでもない。


なんでそんな発想が出てきたのかはよく分からないなりに、心配してくれているというのは伝わったので、頭を撫でてやったらムッと膨れたのが少し可愛かった。怒るから本人には言わないけど。



アーチが僕を訪ねてきたのは、それから1週間程が過ぎた頃のこと。


「あっ、ユーリ!久しぶりっ!元気だったか?話には聞いてたけど、ホントに魔法使いになったんか?」

僕が出てきた看板のない建物と僕を見比べて懐かしい声を張り上げた。

「久しぶり。相変わらず騒々しいね、ジュリに訊いたの?」

「ああ、うん。こないだばったり会ってさ、そのあとわざわざ教えに来てくれた」

ニッと顔中で笑うアーチは以前のままだった。


「騎士団に進んだ連中とは偶に仕事で会ったりもすんだけど、誰もお前の進路知らんかったんだ。だからずっと気になってた。まさか魔法使いになってるとは予想外だ。何するにも意表をつく奴だな」

「うん、でも僕もこうなるとは正直予想もしてなかったよ」


アーチとは3年ぶりくらいだろうか。こんな気の置けない会話も久々で、アーチと話してると学生時代に戻った気がする。

とりとめもなく、あちこちへ飛ぶ会話を楽しんでいるうちに、親衛隊の話になった。

「そんなのがあるって事は聞いたけど、別に僕に接触してくる訳でもないし誰が代表かもよく知らない」

僕がそう言うと、アーチは頭を抱えた。

「代表はアイツだよ、ライアン・マロウ」

「そうそう、確かそんな名前だった。でも僕はそいつを知らないんだ」

「元新聞部の部長じゃんか。前にお前に無断で変な小冊子作って売り捌いて、新聞部が無期限活動停止になったろ?あのあと結局新聞部は廃部になったんだ。それからその妙な活動を始めたんじゃね?」


「新聞部の?アイツそんな名前だった?」

吃驚した。あの新聞部の部長なら顔を見れば分かるけど、名前を気にした事なんてなかった。


「よくまあ、そんなに色んな事知ってるね」

僕が感心して言うと、アーチは大袈裟にため息をついてみせる。

「お前も大概だな、もう少し自分の事も気にかけてやれよ。アイツもお前も卒業したから親衛隊自体は解散したらしーけど、元新聞部の幹部連中は未だにお前の実家とか、嗅ぎ回ってるっぽいぞ。流石に魔法使いは想定外だったろうけどな」

「いったい何が楽しくてやってるんだろう?」

首を傾げる僕にアーチは言った。

「普通じゃねー奴が考える事なんかわかんね。何が目的かも解らんし、気をつけるに越したことはないよ。それとライアンは庶民出身だけど、実は偉い貴族の落としだねだって噂がある。俺の時に流れてた噂と違ってこっちは信憑性があるから、それも気ィつけろよ」



結局アーチは僕に注意を促す為に会いに来てくれたらしい。

1週間前にジュリたちを見送った時のようにアーチも見送ったけど、弟たちとは違ってアーチは一度振り返り手を挙げてみせたきり、そのまま人混みの中に消えていった。







師匠の弟子として過ごした2年間は、あっという間だった。


水の制御は思うようには上達しなかったけど、細心の注意を払えばどうにか使えない事もない……というレベル。


やるだけやって駄目だったんだから仕方ない、と諦めもついた。

それに師匠の手伝いで身についた、魔力を魔法陣に刻む技術はありとあらゆる可能性を秘めている。

師匠は水の魔法陣しか刻めないけど、僕なら土や火の魔法陣でさえ刻むことが可能だ。それが何の役に立つか、については考える必要があるけど。





やがて、住み慣れた師匠の部屋を引き払い、『塔』へと戻る日がやってきた。


師匠に簡単な別れの挨拶をして世話になったお礼を言ったら、泣きそうな表情で「ユーリちゃんがいないと、好きなときに家でお風呂に入れなくなるのだけが残念だわ」と憎まれ口を叩かれた。

それで、昨夜のうちにこっそり浴槽に刻んでいた火の魔法陣を見せたら口をあんぐりあけて驚いていた。

昨日思いついて、急いで刻んだから温度の調節すらできない代物だけど、自由に水を呼べる師匠にはなんら問題はない。好きな温度に自分で調節すればいいだけの話だ。


これが数年後、泥水にまみれてぐちゃぐちゃになった一人の女の子をキレイにするために大活躍するなんて、師匠も僕も予想だにしなかったのだった。








僕が『塔』へ戻ったと同時に叔父上は、約束通り筆頭職を獲得するために動きだした。


けどこれがかなり難航しているらしい。


筆頭の試験を受けるためには、国王陛下、宰相、近衛騎士団長、王立騎士団長、そして元老院のお歴々たちが一同に会する必要がある。

なのに、誰か知らないけどその中の一部の人がごねていて、なかなか日が決まらないのだそうだ。

誰もが筆頭の存在を喜び、待ち望んでいる訳じゃないって事なんだろう。




叔父上が日程の調整に走り回っていたその数日間、僕はといえば何度も殿下からの呼び出しをくらっていた。

連日のように。





「駄目だと何度言えば分かる!」

「殿下にそこまで口出しされる筋合いはありません!」

「ユリアス殿っ!ならんと言っているっ!」

殿下は怒りに頬を染め、僕を睨み付ける。


そう。僕は、あり得ない事に殿下と喧嘩しているのだった。





僕が『塔』へ戻ってまだ3日も経たない頃、殿下からのいつもの招待状が届いた。

また王妃様からのお誘いだろうと、何の気負いもなく出掛けた僕を待っていたのは、珍しくも僅かに緊張した様子の殿下ただお一人。

辺りを見回し、王妃様は?と問う僕に、今日招待したのは私だ、と仰った。



正真正銘、殿下からの初めての招待状だった。




「ユリアス殿は、『筆頭』の意味を知らんのだろう?だからそんな浅はかな事を考えるのだ!」

「『筆頭』の義務と権利についてはキチンと説明をうけているし、自分で納得して決めたんですよ!それともそんなことまで、いちいち殿下にお伺いを立てないといけないんですか?」

「そんなことは言っていない!ユリアス殿はユリアス殿のしたい事をしたいようにすればいい。だが『筆頭』は駄目だっ!」

「だからその理由を訊いてるんです!まさか口に出せないほどつまらない理由で反対してると?」

珍しくもグッと言葉に詰まる殿下。

「へぇ、本当につまらない理由なんだ」

口角をあげる僕に、殿下は悔しそうに拳を握る。

 

これは最早不敬罪に問われるレベルかもしれない……と頭の片隅をよぎるけど、殿下はそんな些末事気にしないだろう、とも思える。


どっちにしても、はたから見れば子供相手に大人げないと思われるようなやり取りは、もう止まらなかった。


「なんでユリアス殿はそんなにわからず屋なんだっ!」

「冗談じゃないっ!わからず屋は殿下の方でしょう。理由も言わずに駄目だの一点張りで、そんなのが通るとでも?」


睨み合う僕らを、少し離れたところから女官たちが心配そうに見守り、いつもなら離れて待機している護衛の上腕筋は、いつでも割って入れるように殿下の側で油断なく目を光らせている。


別に殿下に対して何をするという気もないし、それが護衛の仕事だとも分かっているけど、今ばかりはその存在に無性に苛々した。

この距離ではいつもの防音の結界を張っても却って不審に思われるだけなので、何の小細工もしていない僕らの会話は回りに筒抜けだ。これじゃ殿下と腹を割った話なんて出来る筈がない。



結局また僕も殿下も、いつものように椅子を蹴って立ち上がる。

「これ以上、幾ら話したって一緒でしょう!」

「もう一度よく考えるといい!明日もまた同じ時間に来るように」


殿下は僕を睨みつけたままそう言い放ち、後も見ずに女官と護衛を引き連れて去っていく。

残った二人の女官が気まずげに、全く手付かずのティーセットを片付け始め、僕は内心ため息をつきながらその場を離れたのだった。




それにしても、殿下があそこまで強硬に反対するとは思わなかった。

何を考えているのかちゃんと聞かなければとは思うけど、ここ暫くの僕と殿下の間の険悪な雰囲気のせいで、殿下が人払いを命じても護衛の近衛騎士は離れようとしない。


本当に言いたい事を呑み込んだまま、僕と殿下の話し合いはずっと平行線を辿っている。

いつまでもこのままという訳にもいかない。何処かに落とし所がないだろうか、と眉間にシワを刻み考えつつ歩く僕に、呼びかける者がいた。

ビクビクしたその声の主を見ると、何となく見覚えがある。

すぐに王妃様の女官の一人だと気がついた。





女官に案内されるまま幾つかの廊下を曲がり、殆ど装飾のない目立たないドアを潜ると、ソファーセットしかないような小さな部屋で王妃様が所在無げに僕を待っておられた。

「お待たせして申し訳ありません」

慌てて礼をとる僕に、王妃様は向かい側のソファーを指し示す。

「どうかお座りになって。こちらこそ、急にお招きしてごめんなさいね」

僕が腰を下ろすと、紅茶のカップだけを用意して、僕を案内してきた女官と王妃様に付いていた女官たちが揃って頭を下げ、部屋の壁際に並んだ。


それを合図に王妃様が語りだす。

ここ数日の殿下の様子をーー。




「ーーでは、筆頭の試験がなかなか行われないのは、殿下が陛下にそう願われたから……なのですか?」

僕の言葉に、王妃様は眉を下げた。


「ユリアスさんには申し訳ないと思うわ。でもあの子があんなに必死になって筆頭試験の延期を願い出るなんて……。『ユリアス殿は必ず私が説得致しますから』って陛下に縋りついて頼むのよ。それで陛下も根負けして、再三の筆頭試験召集依頼に首を振り続けていらっしゃるの」



筆頭試験が行われないのは、殿下とは全く別件だと思っていた。


瞠目する僕に、王妃様は言い募る。

「ユリアスさんが試験を受ければ、必ず筆頭職を獲る…と、何故かあの子は確信しているようなのね。もちろんユリアスさんの魔力の強さはわたくしが一番知っていますけども。ただ、どうしてそこまで反対するのかが分からないのよ。きっと何か理由があると思うのだけど」


そりゃあ理由もなしに、あそこまで頑なに反対はしないだろう。

だけど殿下は何故か、その理由を口にしようとはしない。

最初の最初から殿下は頭ごなしだったし、こっちも引きずられてしまって水掛け論を繰り返していただけだったから、落ち着いた話し合いには程遠い状態だ。


これは少し間を置いて、頭を冷やした方がいいのかもしれない。



僕がそう考えるのを見透かしたように、王妃様は言った。

「そういう訳で、レヴィンは本日から少々体調を崩します。心配する程の事はないけれど、来客の応対は当分控え安静に過ごすので、ユリアスさんもそのおつもりで」

「え?……明日は来なくていいという事ですか?」

目を瞬く僕に、王妃様は頷いた。

「レヴィンには、ユリアスさんが体調を崩した、と伝えておきます。責任はわたくしが取りますから、どうか二人とも冷静になって頂きたいの」



僕が本当に体調を崩してるかどうか、もしかしたら殿下にはわかるのかもしれない。だけど殿下は元々聡いお方だ。それならそうと意図を察してくれると思う。


僕は了承して王妃様の御前を辞した。


王妃様は恐らくご存じない事だけど、3日後から僕を含む2班6名は、今度は東の国境線へ向かう事になっていた。


だから叔父上は、その前に筆頭試験を行いたくて躍起になっていたんだ。

でもそんな理由があったのなら、どれほど待ったところで試験は行われないだろう。

4ヶ月程もかかる国境線視察はいい冷却期間になるかもしれない。




それにしても何故、いったい何が殿下をあそこまで反対させるのか。


僕は『塔』への道を歩みつつ、殿下が反対される理由について、思いを馳せていた。

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