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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
四章 過去編 たまゆらの記憶
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23 災害と復興

リコとフェリシアの魂から、フェリシアの部分だけを切り離したい。


僕のその望みに、殿下は嫌そうな顔をした。

「難儀だと言っただろう?それにこれらは、それぞれの存在が希薄だ。1つの魂を共有しているからだろうが、もしこれを無理矢理切り離したとして、魂の半分を失った人はどうなると思う?

それに切り離されてしまった婚約者殿はどうなるんだ?」


答えを返せない僕に、殿下は畳み掛けるように言う。

「だから、取りあえずはこれ以上混ざらないよう深く眠らせればどうか、と思った。そもそもこのまま放っておいて、完全に混ざってしまうものなのか、このままの状態が続くのか、或いは今混ざっている部分が乖離していくものなのかすらわからない。できるのは現状維持だけだ」


少なくとも今より悪くなる事はない、ということか。

ならその間に、フェリシアにかけられた『呪い』というものについて調べられるだろうか。


あともう1つ。


「殿下は、『呪い』は中途半端だと仰いましたが、その『呪い』が意識や記憶に干渉するものだとすると、それがまだ完成していない、という意味でしょうか?」

もしそうなら、彼女はこれからも意識、もしくは記憶への異変に怯え続けなくてはならない。


殿下は難しい顔でリコの上の光を見つめる。

「何故中途半端なのかはわからんが、影の色が薄いのは掛かりきっていないからだと思う。時々婚約者殿の意識が混ざる、というのがそれではないか?

時間経過による『呪い』なのか、或いは何かのキーワードや動作、音などで引き起こされるものなのかもわからんし、また繰り返される可能性もある。

ただ、呪いが継続されているとしても、オレンジの部分を眠らせることによって、呪いの進行を止められるかもしれない。眠っていれば呪いの発動条件に気づかないかもしれんからな。

呪いなど、ユリアス殿が言った通りこの国ではお伽噺のようなものだし、詳しい者もいないだろう。隣の大陸では割りと最近まで、そういった事をしている国もあったようだが」



殿下の言葉に、明るい未来は全く見いだせなかった。

僕はまだ、リコの誤解を解くところから始めないといけないのに、解けたところで、呪いのこと、フェリシアのこと、問題は山積みだ。



「ところで今更だが、猫ちゃんはどうして気絶しているのだ?」

痴話喧嘩の結果なら言わなくていいが、と殿下がリコの顔を覗き込み、僕を見て言った。


なにか痴話喧嘩に嫌な思い出でもあるんだろうか。

「いえ、先程少し彼女が激昂した時に、突然………」

そうだ、あのときリコは突然、何かに驚いたような、怯えたような表情をした。視線は僕を通りすぎて、何か別のものを見ていた。


キーワード、動作、音……と殿下は言ったか?

あのとき何か当てはまるものがあっただろうか。

リコは倒れる前に『消えてしまう』と呟いた。


それって記憶のこと?それとも意識?

実際今、彼女は意識を失って倒れている。

一体誰が『消えてしまう』の?

それを呟いたのはリコ?それともフェリシア?



「なんだ、やっぱり痴話喧嘩か」

黙り込んだ僕に、興味を無くしたように殿下は視線を逸らせた。

少し考え、また口を開く。

「そういった事に口を出すのはどうかと思うのだが、……騎士団を此方に派遣させるような事はしてくれるなよ。ユリアス殿を捕らえられる者など、どこにもいないからな」


……殿下はきっと、何か誤解をしておられる。




僕は殿下に、リコを気絶させたのは僕ではない、と納得していただくのに少し時間を要した。

つまり、殿下はしっかりと誤解しておられた。

殿下の僕に対する認識って、どうなってるんだろう。



ともあれ。


呪いの進行を止める為にも、現状維持を殿下にお願いするしかない。



殿下は鷹揚に頷き、僕の手を放した。

途端に光は見えなくなる。

そして彼はリコの方に意識を集中した、ようだった。


僕にはわからない何かが起きて、殿下は大きく息を吐いた。

「この、干渉を受けているオレンジの部分を深く眠らせた。時を止めているのとほぼ同義だ。今は猫ちゃんの部分しか活動していない」

「ありがとう、ございます」

深く頭を下げる僕に、殿下は手を振った。

「まだ、礼をいうのは早い。今後猫ちゃんの意識に婚約者殿の意識が混じるようなことはないと思うが、ずっとこのまま…という訳にもいくまい。早急に呪いの正体を突き止め、解除するべきだろう。まあそれはユリアス殿に任せるが、そのあと猫ちゃんと婚約者殿をどうするか、は考えておいた方がいい」

呪いの正体にもよるだろうが、と言葉を切り、僕を見た。


その表情が一変する。

施政者の顔だった。




「では、風水害の方に戻るとしよう」

僕はハッとして殿下の前に膝をついた。


「今回のソリタス及びその周辺の西辺境地域を襲った災害は人災である」

殿下は腕を組み、僕を見下ろす。


「被害の報告は追って王宮に届けさせるが、災害の性質上、川沿いが特に酷い。橋は全て架け直さねばなるまいな。流された家への補償もしてやらねばならんし、なによりも畑が全滅だ。今季の収穫は見込めない。今年の税金を減免するよう領主に通達を出すにしても、品不足に依る各種食料品の一時的な値上がりや破損した家屋の修理費など、住民にかかる負担は大きくなるだろう。死者はいないと言ったが、行方不明者や重傷者が出ている可能性もある」


その言葉に汗が滲んだ。

「申し訳ありません」

「謝って済むことではないし、そもそも相手が違う」


「ーー『塔』から水の魔法使いを派遣し、怪我人の治療・回復に当たらせます。また行方不明者については私が探知魔法で捜索します。そして復興にかかる費用として必要な分、私の私財を提供致しましょう」

「ユリアス殿の……。侯爵家ではなく、ユリアス殿の私財ということだな」


『筆頭』には国から年間数千万に及ぶ支給がある。けれど殆ど手をつけていないとはいえ、それだけではどれ程のことも出来ないだろう。

但し『筆頭』にはそれ以外に、一代限りとしてある特定の所領が与えられていた。

とある理由で代々の『筆頭』が管理することになっているそれが、リコを助けた毒の湖とカーサ村を含む鉱山の一帯だ。

元々は銅山として採掘され、そのとある理由によって一度は廃鉱となっていたこの山から、希少種トルマリンが採れるようになったのは百年ほど前のこと。当時の『筆頭』が土属性の魔法使いだったことで、このトルマリンの鉱脈が発見された。

銅を含有しているそれは普通のトルマリンとは違い、ネオンブルーのとろりとした青味のある透明感が特徴の、とても美しい石だ。

この鉱山からしか採れないとあって、希少種として驚くほど高い値がつく。過去、親指の先程のサイズの石に十数億の価格がついた事もあるそうだ。その石は結局当時の王に献上され、儀礼用の王冠の飾りにされたらしい。


その希少種トルマリンと一緒に発見されたのが、胆礬(たんばん)と呼ばれる銅の硫酸塩鉱物だった。こちらは半透明な青の結晶で、色は美しいものの希少種トルマリンとは比べるまでもなく、当初は屑石とされ採掘された端から棄てられていた。

ところがこれがあろうことか毒の塊だった。

水に溶けやすい性質の強い毒性を持つ胆礬はそれまで土の奥深くに隠されていたのに、採掘されうち棄てられたことで雨に晒され、その恐ろしい毒を麓の湖に垂れ流すことになった。


湖はそれ以来死の湖となり、その毒は未だ抜けない。

魚どころか、水草や藻ですら死に絶えた湖はこうして出来上がった。




今は再び廃鉱となっているけど、その希少種トルマリンの埋蔵量はまだまだ豊富な上に、僕ならそれを掘り出すのは造作もない事だ。

復興に必要な金額を用意するのに何も問題はなかった。


「ふむ…鉱脈か」

殿下もそれに思い当たったのだろう。唇に拳をあて考え、ニヤリと笑った。

「ユリアス殿、この際だから今回氾濫したユグラス川を対象に治水工事をしたいのだがな」

どうだろう、と可愛らしく首を傾げてみせる。


この状況で僕が反対できる訳がない。

それに大々的に治水工事をするとなれば雇用が増え、畑からの収入が見込めなくなった農家からも人手を集められるし、彼らも助かるはずだ。


僕が賛意を示すと殿下の顔が僅かに綻んだ。

「随分前から気になってはいたんだ。王都に近いところの治水工事は完了しているが、辺境までは中々手が回らないし目も届かない。こんなことでもなければこの辺りは、あと10年かかってもこのままだろうからな」

しかも費用はユリアス殿が出してくれる、と殿下はにんまりした。


王宮が財政難って噂は本当なのかもしれない、と僕は頭の片隅で思ったのだった。




「では細かい話は、私が王宮へ戻って報告を受けてから陛下と宰相に相談の上、詰めることになるが……」

殿下は僕を見てため息をついた。

「今回の風水害において、発生の当事者としてユリアス殿の名を出すわけにはいかない」


多分そう言われるだろうとは思っていた。

この災害級の嵐を一人の魔法使いが起こしたなんて、どうせ誰も信じやしない。


それに、逆にもし信じてもらえたとしたら、この魔力を何に利用しようとされるかわからない。

師匠にも釘を刺されてるし、目立つつもりもなかった。


「理由はもちろん解っているだろうが、1つ聞いておきたい。今まで聞く機会がなかったが、ユリアス殿の器はどの程度だと思われている?」



『筆頭』獲得の試験は、陛下と宰相、元老院のお歴々、当時の近衛騎士団長、王立騎士団長などそうそうたるメンバーの前で行われた。

あの時殿下はまだ10歳にもならず、試験にも立ち会ってはおられなかったのだった。

この質問の場合は、世間の噂…などではなく、試験当時の正式なものということだろう。

「試験会場内で3層の結界を張り、その中で1万度の炎を操りました。あと、別室で協議し後日連絡すると仰ったので、そのまま皆さんを会議室へ転移させたら何故かすぐに戻ってこられて、『筆頭』おめでとう、と……」


話しているうちに、殿下は苦虫を噛み潰したような表情になった。

「そんな物騒な話か。道理で、誰もその話を私に聞かせない筈だ」

そんなときばかり子供扱いされてもな、と眉間に皺を寄せる。


「つまりユリアス殿は、火と風と空間の適性があると認識されているわけだな。

では、今回の災害でユリアス殿が果たした役割は、風を誘導して雨雲を散らしたことだけだ。しかもそれで力を使い果たして、3ヶ月間の療養生活に入る」

「殿下、それは…?」

「3ヶ月間の謹慎を命ずる」

動揺する僕に殿下は厳然と言い渡し、付け加えた。

「そうでもしないと、これ以上ユリアス殿の魔力を大きく見積もられるのは困る」


「もしかして……試験の時、やり過ぎました、か?」

あれでもセーブしたつもりだったんだけど。


「ユリアス殿は、どれくらいのつもりでやったんだ?」

「一属性につき過去の筆頭と同レベル位を目安に。

私自身でいえば、器の限界を知らないのでハッキリはしないのですが、一割もいっていないかと…」


それを聞いた殿下は、目を真ん丸にしたあとクツクツと笑いだした。

「そこまでいくといっそ清々しい程だな」

せいぜい気取られないよう気をつけることだ、と目を細められた。


「3ヶ月の謹慎期間については表向きは療養として、それは陛下と宰相への報告だけにとどめる。噂になってユリアス殿のご家族に心配をかけるのは本意ではない」

そして、と殿下は続けた。

「慈悲深い『筆頭』様は、己の所領を含む近辺で起きた災害に心を痛められ、私財を投げ打ち復興に尽力下さる旨、申し出て下さった」



ダレデスカ、ソレ。

確かに資金の提供は約束したけど、それは自分の罪悪感を誤魔化すためだ。

これが本当の災害なら、そんなことしやしない。


呆れた目で見ると、殿下は肩を竦めた。

「ユリアス殿から支援を受ける建前が必要だからな。居心地悪い思いをするのは我慢してもらおう」



自分が引き起こした災害で復興に支援して感謝されるなんて、居心地悪い以前の問題だろう。


もうため息もでなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


次でやーーっと「たまゆら~」が終わります。

(元々10話位のつもりだったなんて、怖すぎて……言えない>_<;)


宝石や毒については、モデルにした同様の物がありますが、細かい設定はファンタジーということで……。


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