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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
四章 過去編 たまゆらの記憶
22/92

6 猫友と学友*

「ユーリちゃんのバカ、ユーリちゃんのいけず、ユーリちゃんのトンチキ」


一番最初に、ユーリちゃんのバカ、と叫んだのは私ではない私の中の誰かだけど、今私は自分の意思で『ユーリちゃん』呼びを継続している。

しかもユーリちゃんの背中で。


ジェニーさんは、嫌がらせで『ユーリちゃん』と呼び始めた、と言っていた。なら、私が呼んでも嫌がらせになるはずだ。

そう、私は今、絶賛嫌がらせ中なのである。

悪口の語彙不足については自分でもどうかと思うけど(トンチキなんて言ってる人、聞いたことないよ)その貧しい悪口を呟くたびに、ユーリちゃんの背中が揺れるのは何故だろう。


ユーリちゃんの背中で、私はさっきの毛玉の事を聞いた。

あの毛玉は魔物の一種だったのだそうだ。

毛玉は子供で、ヒュンヒュン飛んでたのが大人で。元々子供をおとりに人をおびきだそうとしたのか、子供を奪われたと思って助けに来たのかはユーリちゃんにもわからないらしい。

チウスというごく弱い魔物で、1~2匹なら子供が石を投げても追い払える程度。普段は多分ユーリちゃんの気配に怯えてか、ここには来ないそうだけど今日はユーリちゃんいなかったからなぁ。


でもってですね、私がこのように不貞腐れているのは先程彼が、何の説明もなく私から毛玉(チウス)を奪い取り、野性へかえしてしまったからなのですね。

言ってくれれば私も納得した。凄く手触りが幸せだったので嫌だけど、納得はした。

でもユーリちゃんは問答無用だったのだ。私があの毛玉を守るために、どれだけ必死だったかも知らないくせに。


などと文句を呟きつつ、合間に悪口も挟み込む。


「リコが必死だったのは、わかった」

室内に入り、居間のソファーに下ろされたときユーリちゃんが言った。

ちょっとごめんね、と私のワンピースの裾を膝の辺りまで捲り、桶に用意した水で傷口? を拭い始めた。

「結構深いのもある。傷が残ったらいけないから、もう治してしまうね」

えっ? そんなに、と内心ビビる私にユーリちゃんは言った。

「これはチウスに攻撃された跡だね。傷の数が多いし出血も多い」


ちみどろっ!?


今までそうでもなかったのに、聞いたとたん痛み出してくるのは何故だ?

そしてさっき姫抱っこしようとしたのを、おんぶでないと嫌だ、とか我が儘いってすみません。あ、でもどっちにしてもユーリちゃんの服にも血はつくか。

私に負担の少ない運び方にしようとしてくれたんだな、申し訳ないです。

私の膝から下の部分に掌をあて、少しずつ動かすとほんわりとした暖かさが広がっていく。

これが回復魔法ってやつ?


「これを見た瞬間、頭に血がのぼって……、怒鳴ってしまってごめん」

やんわりと手を動かしながら、彼は言った。

「チウスの子供の事も、親たちが隠れて様子を窺ってたから返さないと、と思って……。でもリコに話してからにするべきだった。リコは自分が何を抱えてるかも知らなかったんだから」


さっきまでの高圧的な態度と裏腹に、そんなふうに言われると、いやいやこちらこそ、と言いたくなるのは日本人だから?


「私こそ、面倒かけてばかりでごめんなさい。家から出ないってユリアスさんと約束したのに……」

と、大人の態度で謝って、ついでに嫌がらせもやめようと呼び方を元に戻したら、彼の掌が私の足首の辺りでピクリとした。


んん?


「ユリ……「……で、いい」

問いかけようとしたら、被せるように何か言われた。

「え? 何……」

よく聞こえなくて戸惑う私に彼はもう一度言った。

「ユーリ、でいい。リコにそう呼ばれるのは嫌じゃない」


えええっ!?


口をあんぐりあける私に、再び手を動かし始めた彼は言った。

「それに喋り方も。さっきみたいなほうがいいな。その方がリコらしい気がする」


ユーリって呼ぶようにと言ったときは、ちょっと怒ったみたいなぶっきらぼうな口調で、私の喋り方のときは、一転して揶揄うみたいな口調で。


なにこれなにこれ何これ!?


頭に血がのぼるのを感じて狼狽えた。

どうしよう、顔が熱い。


「ふふ、リコ顔が真っ赤だ」

おでこをピンッと弾かれて、あたしは咄嗟に、

「ユーリちゃん! 趣味悪いんじゃないのっ!」

と、わめいてしまった。

だってあんなふうに怒鳴り散らしてた方がいいとか、趣味悪過ぎるでしょ。


けど。


「そう! それそれ。『ちゃん』は、いらないけどそんな風に喋ってね」

ユーリちゃんがあんまり楽しそうに笑うから、私もとうとう一緒になって笑ってしまったのだった。


呼び捨てとか、私にはちょっとハードルが高いんだけど、ユーリちゃんが喜ぶなら頑張ってみようと思う。





***   ***





リコのくるくる変わる表情を見ているのは楽しい。

早く包帯が取れればいいのに。

包帯を取るときは師匠も来るって言ってたな。診察も必要だし、リコも喜ぶだろうから反対する気はないけど、本当はあまり師匠には会わせたくない。

リコを師匠に取られそうな気がする。


師匠は無自覚の女たらしだからな、と僕はため息をついた。






今日は朝から忙しかった。

王太子殿下からの急な呼び出しで王太子宮へ行ってみれば、殿下の爺こと春宮殿警備隊長のダナトス殿が先に来られていた。


「おや、今日は随分珍しい顔を見るものですな」

お互い顔は知っていても話したことはない。

なのに顔を合わせるなりそんなことを言い出す彼にうんざりする。

「ダナトス殿はお元気そうでなにより。私もたまには顔を出さないと珍獣扱いされてしまいますからね」

と、嫌味で返した。

「筆頭殿は、暫く見かけないうちにまた細くなられたのではないですかな? 幾ら魔法使いといえど、それでは折角の騎士の資格も持ち腐れですぞ」

「ふふ、あいにく私は筋肉にさほど重きを置いていないのですよ。勿論、最低限騎士を名乗れるだけのものは保持しておりますが」

お互いに針でつつくような会話を交わしていたら、現れた王太子殿下が余計な事を言い出した。

「なんだ、今日はユリアス殿の猫ちゃんは連れて来なかったのか?」


楽しみにしていたのに、とニヤニヤ笑う殿下の言葉は絶対どうなるか分かっていての面白半分だったと思う。

その証拠に殿下の言葉を聞いたダナトス殿の態度が突然変わった。

「なんとなんと、筆頭殿は猫ちゃんを飼われているのですか? あれはいいもんですな。癒しですなぁ」

たちまち友好的になった警備隊長殿には内心呆れ返る思いだ。


「うちの子はチェリーといいましてな、2ヶ月でうちに来たのですが、それはもうやんちゃでやんちゃで……」


ダナトス殿の話は当分終わりそうになかった。

話の合間合間に、筆頭殿の猫ちゃんの名前は? とか何歳ですかな? とか色々聞かれたけど面倒になってきたので、リィですよ、とか、人間でいったら18くらいでしょうか? とか、適当な返事を返していると、殿下が笑いを堪えて顔を真っ赤にしているのに気づいた。涙目になっていたのは、見なかった事にするべきか。




打ち合わせが終了し退出しようとすると、ダナトス殿に引き止められた。


「リィちゃんとチェリーちゃんが、同じ女の子なのが残念ですなぁ。どちらかが男の子なら仲良くなったかもしれんのに」

そんな面倒くさい事にならなくてよかった。


「ですが女の子同士でも仲良くなったらきっと、2匹で転げ回って可愛らしいでしょうなぁ」

……ソウデショウナァ。


「そうそう、猫ちゃんグッズなら、女神通り商店街の『ニャンギラス』が充実しておりますぞ。猫じゃらしとオヤツの種類が豊富でしてな」

そんなのいらないよ。いや、猫じゃらしで遊ぶリコは可愛いかも!?


「次のときは、筆頭殿のリィちゃんもぜひ連れて来られるといい」

なんだ?このパターン。


すっかり猫友達に認定されてしまった?


ちらりと殿下をみると、息も絶えだえになっていた。

珍しいものを見せてもらったのでよしとするか?



王太子宮を出て、一般区画へ入ると同時にフードを深く被り、髪と瞳を隠した。

王宮深部は王族と一部の貴族しか出入りを許されないけど、この辺りは貴族だけでなく御用達商人などの平民も出入りする。

うっかり顔を見咎められたくない。


俯き加減で、埋没するように周囲の速度に合わせて移動した。


大門の横の警備員詰所を訪ね、入口近くの男に声をかける。

「ここにアーチ……、アーチ・フィンってまだいる?」

男はうっそりと立ち上がった。

「んー? 誰だ、お前さん。アーチに何の用だ?」

「学生時代の友人。ユーリって言えばわかる」

男はいきなり詰所の奥に向かって声を張り上げた。

「おーい! アーチ、友達来てんぞ!」

奥の方のテーブルにいた男が振り返った。

「誰……っ。ええっ!?」

僕が僅かに持ち上げたフードの中を見るなり弾かれたように立ち上がり、駆け寄ってきた。

7~8年振りくらい? 全然かわってない。

「ユーリ? マジで!?本物? いつ帰ってきたん?」

しがみつかんばかりに詰め寄ってくる男、アーチを押しやり僕は言った。

「相変わらず賑やかだね」

「そりゃ人間そう簡単には変わらないよ、ユーリも相変わらずじゃん」

ニヘラッと笑う、そばかすが目立つ顔は妙に愛嬌がある。

「なんか用事があって来たんか? ちょっと待って、俺深夜勤だったからもうすぐ上がり……「あー、アーチはもう上がっていいぞ。どうせあと10分だしな」

「おおっ!隊長太っ腹」

「おだてても書類(事務処理)仕事しか出さねーぞ、久しぶりなんだろ? サッサと行けや」

「書類はいらねー、さんきゅっス。お疲れっ!」

叫ぶなり、飛び出てきたアーチに呆れて、

「凄い職場。あんなのでいいの?」と聞くと、へーきへーき、と答えが返ってきた。

「養成学校中退した俺なんか雇ってくれて有りがたいし、何より俺に合ってっだろ?」

合ってるかといわれれば、ドハマリだとしか言いようがなかった。

「んで何の用さ? 時間あるなら昼メシくおーぜ」

「いや、急いで帰らないと」

アーチは目を丸くした。

「ずいぶんせわしないなー、じゃこの辺でいっか?」

路地裏の目立たない辺りで歩みを止めた。


「単刀直入にいうと、情報が欲しい」

僕がそういうと、アーチは半眼になった。

「俺、情報屋じゃないぜ?」

「もちろん。仕事関係の情報を寄越せと言ってる訳じゃないよ」

アーチは首を捻った。

「じゃあ何?」

「何ていうか……新聞とかに大きく取り上げられた記事の、記事にならない裏側とか……、反対に小さくしか取り上げられなかった事件の詳しい内容とか? 街に流れてる噂程度でいいんだ」

アーチは目を見開いた。

「何のために?」

「田舎に引っ込んでるから情報収集、で納得して欲しい」

「……情報の種類は?」

「お前が気になった事、で構わない」

アーチは考え込んだ。

「例えば、……こないだまで、豪華な金髪のお姉さんばかり狙ってた誘拐団が、一度も成功しないままこの王都から逃げ出した。けど実際は誘拐された娘がいる、って噂がある。そんな感じ?」

思った通り機転が利く。

僕が頷くと、アーチはツンツンはねた茶色い頭に手を突っ込んでかきまわした。

「なんつか、危ない事にはなんねーよな?」

「? もちろん。危険な目に遭うような事はしなくていいよ」

「ばーか! 俺じゃなくてお前だっつの! そんな情報集めて何すんのか知らんけど、危ない事すんなよ?」


本気で吃驚した。魔法使い最強の、『筆頭』の称号をもつ僕を心配するなんて。


思わず小さく笑いながら、報酬は何がいい? と聞いたらこっちがのけぞる勢いで迫ってきた。

「看板、くれ!」

「看板?」

「そう!『筆頭 御用達』の看板! 俺の実家って菓子屋じゃん。今、看板流行りでどこもかしこも『御用達』看板あげてんだよ。おかんが悔しがってさぁ」

ああ、そういう事。

僕は学生時代に差し入れられた、彼の実家の菓子の味を思い出した。あれなら。


「三年でよければ、もっといいものをあげられると思うよ」

アーチは僕の言葉に瞬きした。

「三年って? ……え!? ……まさか……?」

「次、王都に来るとき連絡するから、お勧めのお菓子を、……そうだね、二包み用意しといて」

言いおいて、唖然とするアーチを残しその場に転移の魔法陣を描いた。


早く帰ろう。リコの処へ。


帰った先で、足を血塗れにしたリコが木にしがみついてるなんて、この時の僕は予想だにしなかったのだけれど。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



【猫自慢】


「先日の事ですが、チェリーちゃんときたら、猫ハウスの上に登ったのはいいが降りられなくなりましてな。どうするかと様子を見ていたら、恐々頭から降りようとしてそのままクルンと前転で下に降りてしまいまして、何が起こったのかわからずキョロキョロする様の愛らしいこと」

「うちのリィは……先日外に出てしまったときに木に登って降りられなくなりまして、私が迎えにいくまでずっと泣いていたのですよ。助け下ろしたときにしがみついてくる、あれはたまりませんね」


ユーリちゃんは負けず嫌い。

そして、レヴィンくん笑いすぎて悶絶。

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