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異世界で幸せめざしてみた!!  作者: ひなもとプリン
四章 過去編 たまゆらの記憶
21/92

5 毛玉を見つけました。

「なんでまた、こんな事になってんの?反省って言葉、知ってる?」


額に恐らく青筋をたてているであろうユリアスさんに負けじと、私は噛みつくように言い返した。

「反省はしている!!でも私にも訳がわからん!」



ことの起こりはこうだった。




あの、ユリアスさんがこっそり出掛けてなかなか戻って来なかったあの日。


あの時の私も変だった。木登りしてしまった時のように。


子供のようにワンワン泣いて、泣いて泣いて泣き疲れて寝てしまって、物音で目が覚めたらユリアスさんが帰っていた。

私を呼ぶ声が聞こえた。

彼が、私の名前を呼ぶのは初めてだ。二人だけだから問題はなかったけど、一応何でかな?と気にはしていた。だから、名前を呼ばれて──。

彼の部屋にいた私は、慌てて出ようとして何かにぶつかって、吃驚してしゃがみこんだ。

ユリアスさんの謝る声が聞こえて、私も何か言わなきゃ、と思ったら何でか私も謝ってた。あと、置いていくなとか、独りにするなとかも言ってた。

何だ?そりゃ。

別に行き先と帰る時間だけ言っといてくれたら、全然構わないんだけど?

子供じゃあるまいし。


でもあの時の私は、まるっきり子供だった。困惑する様子の彼にしがみついて、ごめんなさい、と置いていかないで、を繰り返し、また泣き喚いた。



そして、フッと我に返った。



この気まずさをわかっていただけるだろうか。



泣き喚く私にしがみつかれて、シャツか何かわからないが私の涙と洟と涎でべちょべちょにして、それでもユリアスさんは怒らずに私の後ろにまわした手でポンポンと背中を叩いてくれていた。


そんな優しい人から、急に正気に返ったからって、いったいどうやって、どんな顔して、どうすればさりげなく離れられると思う?


私は……何一つ思いつかなかったですよ。


腕の中で、突然カチーンと固まった私に彼は、柔らかな声で言った。

「リコ、落ち着いた?」

うつ向いたまま、コクコクと首を振る以外に私に選択肢はあったでしょうか。


人生って辛いものですね……。



そしてそれ以降、彼は外出するときは必ず行き先か帰宅時間を教えてくれると約束してくれた。

実際すぐ近くであっても、家から離れるときはそうしてくれた。


どうすればリコは不安にならずにすむの、と聞かれて私が答えた結果だった。


何かあったときは連絡がとれるように、とお守りみたいなのもくれた。

中に糸のような物が入っていて、緊急の時はそれを燃やすか、引きちぎるように、と。


至れり尽くせりで、ありがたいやら申し訳ないやら。


そんなこんなで数日が過ぎて、ユリアスさんに再び王都から呼び出しがかかった。

何やら、これからしばらくの間は忙しくなって、王都へ行く回数も増えるらしい。

今回は帰宅が遅れた時のために軽食まで用意してくださって、こないだのアレが相当恐怖だったのでは、と推察される。


彼を見送り、一人になると家の中はシンと静まりかえった。

ソファーで丸くなって膝を抱えると眠気が差してくる。

最近なんだか夜ちゃんと眠れてる気がしない。朝起きてもボーッとしてるし、こんな風に昼間眠くなることもしょっちゅうだ。

そういえば昨日だったか、ユリアスさんにも、ちゃんと寝てる?って訊かれたんだった。

そんなに眠そうな顔してたかなあ?

でも今寝ちゃうとマジで時間がわからなくなっちゃうんだけど。

暫く脳内で格闘したのち、私はあっさり負けた。

最初から目を開けられない時点で負けてるようなもんだし。


吸い込まれるように眠りに落ちて、トロトロと目覚めた。


体感では殆ど時間はたってないんだけど、これが全く当てにならないこともよくわかっていて。

誰か、触ったら時間を喋ってくれる時計を開発してくれないかな。


半分寝惚けたまま周囲の音に耳を澄まし、それに気づいた。

何処からか聞こえるフミィー、フミィーという頼りない鳴き声。

猫?こっちの世界にも猫っているの?

鳴き声を頼りにヨロヨロ移動すると、キッチンの窓の下辺りから声がする。


鳴き声からすると相当赤ちゃんだと思うんだけど、猫っぽいと勝手に思っているこれが本当はどんな生物かわからない、と考えるだけの分別は私にもあった。……ので窓の内側に腰をおろし、様子を窺う事にした。


その猫モドキは哀れっぽく鳴いたかと思えば黙りこみ、しばらくするとまた鳴き出す。弱々しく鳴いてみたり、クンクン鼻を鳴らしたりもした。

親はどこ行った?どう考えても赤ちゃんだよ。


やがて猫モドキの声は完全に聞こえなくなり、私は焦りを隠せなくなった。

何処かに行ったのならいいけど、もう鳴く気力もないくらい弱っていたら?


そしてまた、ザワリ、と私の中に寄り添っている誰かがうごめきだす。




鳴かなくなった猫もどきが気になって、見えないのを承知で窓から顔を出した。

すると、また聞こえてくるフュミ……という弱々しい声。


ああ、まだいたよ……。

今何時だろう、ユリアスさんが帰って来るまであとどのくらい?


ミルクは飲むだろうか。風があるから寒いのかな、部屋の中に入れた方がいい?

私の中で、この子はすっかり仔猫ちゃんになっていた。

でも保護しようにも、今日も玄関は魔法で閉ざされている。

例外は窓だ。



いやそれはさすがに無理でしょ。目が見えてないのに窓枠乗り越えるとか、どんな無理ゲーだよ、ユリアスさんが帰って来るのを待つべきだよ、と私の理性は言っている。

言っているのに、何故だ!私の両腕には全体重がかかっていて、左足を窓枠に持ち上げている。

私の意思に反して身体が動く、という訳ではなく私の中に、窓枠を越えるよ大丈夫できるよ、という私とそんなの無理無理という私がいるのだ。


いつから私はこんなことになっちゃってるんだろう。


両足を窓の向こうに持っていったものの、どこにいるのかわからない仔猫の上に降りてしまったら大変だ。

私は慎重に爪先で地面ギリギリの所を探り、何もないことを確かめて足を下ろした。

それからそーっと腰を屈め、手探りで小さな体を探す。

万が一にも潰してしまわないように、僅かずつ移動して探した。

その時、目の前から少し右側でまた、ニァオ、と鳴いた。


見つけた。


手にのせたソレはふわふわの毛玉のようで、撫で回してみるとどうも猫ではなさそうだった。


猫でないなら一体何?ミルクは飲める?

困惑した私が考え込んだとき、しゃがんだ足元を何かが走った。

吃驚して思わずヨロヨロと立ち上がる私。

ヒュンと音をたて、足元をすり抜けるように飛び去ったそれはすぐに戻ってきて、今度は反対側から私のふくらはぎを掠めていった。

何が起きたかわからないうちに、立ち竦む私のまわりでヒュンヒュンと凄い音が鳴りだす。

音は足を掠め、ぶつかり、時には腰の辺りに届く時もあった。一つ一つの衝撃は軽かったけど、そんな事は問題じゃない。

相手の正体がわからない時点で、私にとっては恐怖でしかない。

しかもこの生き物?一匹じゃないよ、たくさんいる。


飛び交う何かに押されるように、2~3歩踏み出し、たたらを踏んで、またしても私は家の方角を見失った。

いつかの木登りの時と一緒だ。


違うのは、今度は自分の意思でなく何かに追いやられるように、ヨタヨタ進んだ結果何処かの木にたどり着いたことだろう。


この家のまわりは極狭い広場になっていて、例えばユリアスさんに手を引かれて歩いたとすると、たちまち森の中に入ってしまう。

けれど自分一人で歩くとなると、おっかなびっくり歩くせいか、方向感覚が無いせいか、同じ距離の筈がとても遠く感じる。

この時もそうで、裸足の足の裏に木の根っこを感じたとき、私はもう随分と家から離れてしまったような気がした。

これ以上離れちゃ駄目だ。

森の中に入っちゃったら、帰れなくなる。

本能的な恐怖に、胸に抱え込むようにしていた毛玉を手探りで探し当てた木の太い枝に移し、落ちないでね落ちないでね、と唱えながら気づけば私も木の上にいた。

自分の位置が安定すると同時にまた手探りで毛玉を確保。


木の下の方でヒュンヒュン飛び交う何かは、木登りはできないようでホッとした。



そしてどのくらいの時間が過ぎたのか。




ユリアスさんは初っぱなからハイテンションだった。


空気の揺らぎを感じて、ああ魔法陣だ、と思った。

ユリアスさんだ、助かった……とホッとした。

そこにいきなり、一体何やってんの!と怒鳴りつけられた。

いつもは耳触りのいい声が、地を這うように低い。


少し落ち着けば私にもわかった筈だった。

ユリアスさんはきっと心配してくれていた。心配のあまり怒鳴ってしまっただけだ。

帰ってみたら、家の中にいるはずの私が何故か外にいて、再び木にしがみつき、何かに襲われているのだから。


けど私も、疲れとホッとしたのと怒鳴られたショックとなんか色々ない混ぜになって、思わず怒鳴り返していた。

「見ればわかるでしょ!ユリアスさんは見えるんだからっ!」

「は!?」

気温が確実に数度下がった、と思う。

きっと私が逆らうとは思っていなかったんだろう。

足元から上ってくる冷気を感じて、私は比喩でなくブルリと震えた。

その頃にはあの怪しい何か達は、すっかり気配を消していた。

「自分の目が見えないって自覚があるなら!」

ユリアスさんがゆっくりと近づいてくる。

「なんでまた、こんな事になってんの?反省って言葉、知ってる?」


反省?もちろん知ってるともさ。けど理由も何も聞かずに上から怒鳴りつけられた事で、私の中でも何かがプツンと切れていた。

額に恐らく青筋をたてているであろうユリアスさんに負けじと、私は噛みつくように言い返した。

「反省はしている!!でも私にも訳がわからん!」


ここでようやく話は冒頭に戻る。


間抜けですね、私は。

木にしがみついて偉そうに言うセリフじゃないですね。

けどなんだかもう、引っ込みがつかない。ユリアスさんだっていつもと全然違うじゃない。いつもなら、怒るときはあってもこんな風に怒鳴ったりはしない。これじゃまるで……。


唐突にジェニーさんを思い出した。


そうか、ジェニーさんといる時のユリアスさんはこんな感じに近かった気がする。言いたい放題で、感情表現が豊かで。

ズルい、ズルいずるい。ジェニーさんはずるい。私だってずっとユリアス様を見てきた。私がそんな風にユリアス様と喋りたかった、笑いあいたかった。あれ?また何か混じってきてる。名前を呼びあって、同じ時間を過ごしたかった!!


「ユーリちゃんのバカ!」


私の中の誰かは唐突に叫び、存在をくらませた。



おい、この始末、どうつけてくれる……。





感情の高ぶりが去ってビクビクする私に、彼は手を伸ばした。

私が後生大事に抱えていた毛玉をヒョイと掴んで、無造作に何処かへほうり投げた気配がした。

同時に少し離れた茂みがガサガサと音を立てる。

ああっ、と声をあげた私に、少し話をしようかリコ、と彼は言った。

読んでいただいて、ありがとうございます。

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