風鈴の音と続く日々
姉と姪っこの死は、静かに、ただ静かに執り行われる葬儀の中でたくさんの涙と共に、その冥福を祈った。
ジクジクと暑い。早川秋男は失った存在があまりにも大きく、妻の妹がわんわん泣く姿を目に焼き付けた。
自分は、泣くこともなく、ただ、受け入れていた。心は反比例するように、怒りと、苦しみと、それを凌駕する妻と娘への想い。
妻が受けた苦しみ、娘が受けた痛み。はらせる無念があるならば、はらしてやりたい。
今なら、彼女たちを救えるだろうか。ただ、心に空いた穴が、闇を突き抜ける。
仕事へ出勤すること。会社は休養するように伝えてくれた。ありがたく、その時間を使った。
毎日娘と言った公園。足を止め、誰も座らないブランコに座った。
隣の空いたブランコがゆっくりと、揺れる。風もない一日。暑さだけがジリジリとやく。ブランコから、楽しげな声が聞こえる気がする。
ーー娘は、あっちにいっても、楽しく遊んでいるだろうか・・
ブランコはゆっくりと止まる。視線の先にあった置いて行かれたボールがコロコロと転がる。
ーーそのあと、きっと砂場に呼ばれる・・・
秋男はブランコから立ち上がり、砂場に向かった。砂場の網がどかされ、砂にはいくつもの城だったり、山だったり。
『パパ、泣かないで』
そのたどたどしい文字は、娘の。
いつの間にか、彼は涙を浮かべ、娘の眼差しを探した。
暑いその陽差しは、空から降り注いでいて、きっとその向こうにいるのだろう。
帰路について、涙が止まらない秋男。玄関には、妻と娘が残したたくさんの思い出。そのまま時間が止まり、秋男は一つ一つを眺めた。
チリン チリン チリン
風のない玄関。妻は風鈴の音が好きで、風がないのに飾ると言って、秋男は笑いながらきっと誰かが鳴らしてくれるだろう、といった。あの幸せな時間。
チリン チリン チリン
「千里。お前が鳴らしているんだな・・・?」
チリン
秋男は崩れるように床に膝をついた。
鳴らされる音色には安らぎを与えてくれる。秋男の心には家族を失った傷を癒やすのに、必要な音色だった。
それから四日後。親子を殺した犯人は捕まった。別の家でも同じように家の人を襲い、殺そうとした、らしい。残念なことに、それは未遂で終わった。
警察は首をひねって言った。
『犯人が狙って犯行を及んだとしても、絶対に不可能な事ってあるんですよ。だって、自分自身を差し出そうなんて、ねぇ・・・?』
秋男にとって、犯人が昏睡状態であることや、二度と目覚めないほどに重体であることも、どうでも良かった。
ただ、あれからずっと考えていた。妻の千里と娘の詞音は戻ってこない。けれど、彼女たちはずっと秋男のそばにいる。きっといつまでも生活を共にしている。
秋男が、辛くならないように。
次の日、会社に出勤した秋男は、会社側のねぎらいも含め、温かく迎えてくれた。仕事も順調になり。
けれど、不安な気持ちは風鈴の音で満たされた。
帰宅したら必ず鳴る、風鈴の音。
チリン チリンチリン
今度は二度と黒い手が訪れないよう、鳴らされる。
チリン チリン チリン
死者はまだすぐそばに、イる。貴方の胸に空いた穴が埋まるマデ。
リン チリンチリン リン




