↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

十七話:貴族の責務

 ギュンターは俺の秘密に気づいているだろうか? まず確認すべきはそこである。殺しは避けたい。

 一礼したリビはすぐに表情を無くし一歩下がった。静かな雰囲気で、仕事人っぽい感じがする。


 「その女、何故あんな場所にいたんだ? お前の命令か? ギュンター」

 「ハレ、私は自己紹介しなくてよろしいんですか?」

 「わざわざ敵に情報を与えるな馬鹿が」


 小声で俺に聞くベルに罵倒を返す。今俺たちが何をしているのかこいつは把握していないのか……?

 底抜けの無能、歩くだけで過失を生む失敗生産機が。今ここでコイツを含めて皆殺しにすべきか……?


 「聖女、ベル・ライトハウス様でございますね? 此度はよくぞいらっしゃいました、ですが次からは使いを出していただきたいものですね、こちらにも準備というものがありますので」

 「ハレハレ、バレてます」

 「……クソが」


 まあベルのような目立つ奴ならバレたって不思議はないだろう。聖女なんだ、どっかで面識があったり知られたりすることもある。


 「さて、リビがなぜあの裏カジノにいたのか、だったね? リビ」

 「はい、数年前から急速に成長する裏カジノ、裏社会、そしてクェロプールへ対抗するため、ギュンター様の命により潜入し、スパイとして働いていたためでございます」


 なるほど潜入任務……だが、ならば……。


 「魔王軍の計画についてはもう知っているのか?」

 「無論だとも、だが知ったのは今日だ、前々から不審な兆候は見られたから準備はしていたが、肝心な部分で尻尾を掴めなかった、君がヴエロとクェロプールを殺してくれたのは、正直言って助かったよ」

 「はっ、そりゃどーも。なら対策はもうしてんのか? キングオクトは……」

 「それも、無論だとも。君達の納得のいく回答ではないかもしれないが、十分な策があるよ」


 意外な返答だった。それはギュンターの答えそのものに対してもそうだし、ギュンターの態度についてもそうだ。まさか、本当にどうにかできるのだろうか? 勝てる策があるのだろうか?


 「どうすんだ? 勝てるわけねーだろ」

 「ああ、勝てない。だがまあ、傷を負わせることくらいはできるだろう?」

 「……ああそーかよ」


 領主は再び、なんの躊躇いもなく返した。


 「待ってください、勝てない……? なら、住民はどうなるのですか? 避難の準備は――」

 「ベル、黙ってろ」

 「いいえ黙りません、今の発言は聞き捨てなりません、今の、諦めたような言葉は……」


 ベルは静かに、しかし強い怒りでギュンターを睨みつけた。

 ギュンターは涼しげに、ただ薄い笑みを浮かべるばかりだった。


 「……答えなさい、何故、あなたは領主という立場に立っていながら、何もしないのです。無辜の民が大勢危険に晒され、何故あなたは平然としているのです」

 「……どうやら、何か誤解があるようですね」


 ギュンターは変わらず穏やかだった。ベルの発する怒気に一切反応を見せず、ただ静かに告げた。


 「私は人類の味方ですよ。それだけは決して嘘ではございません、ただ、結果として街の住民を殺すことが必要になっても、それが必要な犠牲だと判断出来たのであれば、私はそれを選択することになんの苦悩もしません。私は今、人類のために行動している。ただ、それだけの話ですよ」

 「なっ……!?」

 「キングオクトを追い詰められるのか? どういう手段で?」

 「多数の攻城兵器の用意がある。それと生贄による大悪魔の召喚と、街を囲う大聖結界による封鎖に、生命変換射出による――」

 「待っ……待ってください! 話を進めないで!」


 ベルが大声で俺とギュンターの会話を止めた。実に面倒である。


 「……もう一度聞きます! 何故、避難を進めないのですか!」

 「効果が薄いからです」

 「効果……?」


 理解していない様子のベルに補足してやる。


 「そもそもこの街は大きい、人もそれだけ多く、避難をしようにも避難先が無い、外には魔物が多く、新たに開墾するのも難しい。食料も足りない、魚が多く取れるが痛みやすく、数日すればダメになってしまう。避難の完了は難しい」

 「加えて言うのならば、そもそも避難勧告を進めるのにも多分な苦労が予測されます。制限時間は三日、断行すれば脱落者は多数出るでしょう。この街の人口は四万強、旅人や他からの旅行客も多く、統率は取れているとは言い難いですからね」

 「なっ……な……ハレ! どっちの味方ですか!」

 「俺は常に正しい方の味方だ」


 ベルが裏切られたかのように愕然としているが、アホなのだろうかこいつは。否、アホなのだろうなコイツは。


 「百人の超天才がいたとして、避難には一人四百人担当する必要がある。例えば足を悪くした老人だとかその辺ほっつき歩くガキの統率補助に、食事に水に野宿に着替えの準備に……人手が足りねえ、物資も足りねえ。三日だぞ三日、短すぎんだよ」

 「そもそも半端な距離なら逃げても追いつかれますからね、まあ目的が殺戮でなかった場合はその限りではありませんが」

 「で、ですが……ほ、本当にダメなのですか? 少しでも生き残れはしないのですか?」


 ダメだろう。いや、ある程度は生き残れは出来るだろうが……。


 「……今なら最大限努力して、四割は生き残らせることができるかもしれません」

 「なら……!」

 「ですが、それは敗北です、聖女様。この街の人間の生存という観点ではなく、人類全体で見た時、それは悪手ですよ」

 「……?…………?」

 「……ベル、お前は一旦黙っていろ」


 ベルは納得は出来ていないようだが、口を出すことは諦めたらしい。ただむっつりと黙り込んでしまった。

 ……ベルの言うことも分かる。本来ならば、こうなる前に対応すべきだったが。


 「……計画をもっと早くに知ることは出来なかったのか?」

 「難しい。決まったのが十日前だったらしいが、その間、潜入したリビは最大限の努力で計画の把握に努めてくれた、だが、どうしてもね……」


 確か魔王軍と取引したのはヴエロだったか、もう殺したが、なかなかのやり手だったらしい。


 「そもそも、四天王が来ると決まった時点で詰みだと言っても良い、本来ならばこんな複雑な企て、不要なはずだからね」

 「……目的はこの街の消滅ではない、か?」

 「おそらく勇者だ。人類側に裏切り者がいる」

 「密告者か。勇者の行先を……街の支配か? 洗脳や催眠による乗っ取り、勇者を待ち構える罠とする……」

 「可能性は高いだろう」


 たしか、十日と少し前、誰が言ったか知らんが勇者パーティーの行き先はいくつかの街を経由したのち、この街へ辿り着く事に決まった。

 不審な点は無かった。だが、恐らく勇者パーティーに内通者がいて、そいつが決めたのだろう。


 「……あの、なんの話をしているんですか?」

 「魔王軍が勇者を早期に殺そうとしているのかもって話だ。勇者の旅の予定は誰も知れないように隠されてる。魔王軍にバレないようにな。ここまではいいか?」

 「はい」

 「今回、ヴエロ達裏社会の奴らは魔王軍に依頼され街のいたるところに転移石を置いた、だが、キングオクトが一体いれば街の制圧だとか皆殺しだとかは可能なわけだ、分かるな?」

 「……はい」

 「二つの事を組み合わせて考えると、キングオクトは勇者パーティの裏切り者から密告を受け勇者の来るであろう街を乗っ取り、何も知らない勇者を待ち構えぶっ殺そうとしている可能性が高いような気がする、という話だ。確か歴代の勇者でも同じようなことがあったはずだぞ、死んだり逃げれたり色々あったらしいが」

 「た……大変じゃないですか!」


 うんうん大変だな。だが裏切り者が誰であろうがもうパーティーは解散したし関係が無い……のだが、そんなことはベルは知る由もないのであった。俺が早々に生き埋めにして勇者パーティーと関わらせなかったからである。


 「は、ハレ、それでどうするのです? あなたの策は……?」

 「それを今話そうとしているんだ、すまん、ちょっと黙れるか?」

 「あ……! はい! すいませんでした!」

 「うんうん」


 俺の心の慈愛の精神が輝いている。バカに何かを期待することは、愚かなことである。なら何かできない事に対して怒るのも、また愚かなことなのである。俺は賢いから学んだ。


 「……話を戻す。この街を罠として、キングオクトを殺す。それがお前の結論か?」

 「殺せないだろうがね」

 「前線では未だ熾烈な争いが続いている。四天王の一人を足止めできるのなら、その分最前線が楽になるだろう、そうだな?」

 「そうだ、故に私達はここで待ち構える。転移石も、直前まで破壊は止めよう。万が一察知されて計画の時期をズラされたらたまったものではない。キングオクトがどの経路から来るかは分からないが、どこかの転移石か、直接海から来ることは間違いない。相手に悟られないまま全兵力を集中させて叩き、可能な限りダメージを与える」


 悪くない。逃亡が難しい選択である以上最善と言っても良いだろう。


 「子供と、一部技術者は近くの農村へ逃すよう準備を進めている。これ以上に何か手立てがあるのなら――」

 「ある」


 ――だがそれは、最善であって最高じゃない。


 「……ほう? なら聞こうか。どのようにしてキングオクトを撃退するのか」

 「言うわけねーだろ。お前に許されんのはただ頷くだけだ」

 「……」


 ギュンターは目を細め俺を睨みつけた。背筋が凍る。

 蛇に睨まれた蛙のように、喉が締め付けられ体を恐怖で震えさせる。


 「……言わないのなら、信用は出来ないね」

 「お前の信用なんざ求めちゃいねーよ。これは命令だギュンター・ハイハーン。今すぐ町民の避難を進めろ」

 「逃げてもどうにもならないのに、か」

 「だからなんだ? 二度も言わせんじゃねーよ、お前に出来るのは頷く事だけだ」


 おどろおどろしい殺気が部屋に満ちる。だが、こっちにはベルがいる。殺されはしない。


 「……撃退、出来るのかな?」

 「三度目だ。お前は、ただ、頷け。お前に許されてるのはそれだけだ」

 「……ハレ」

 「ベル、俺が行けと言ったら領主を殺せ。この屋敷の他の奴らもだ、皆殺しにしろ」


 交渉などする気は無い。圧倒的な力で従わせる。ベルならばそれが出来る。


 「……」

 「……」


 ギュンターはじっと俺を見つめた。脳裏まで見通す様な眼光は僅かにも揺れず、冷静に思考を巡らせていると分かる。


 「……その方が、良い選択なのかな」

 「そうだ」

 「……」


 俺の言葉に、ギュンターは更に目を細めた。


 「……どうして?」

 「答える必要があるのか?」

 「知りたいのさ」

 「心当たりはないか?」


 思考の一切を漏らさず、表面上は何の気なしに、そう問いかける。もしもギュンターに心当たりがあるのならば、回答はそれに準じる。ベルのスキルは嘘を封じるのだから。

 もし、心当たりがあるとしたら、俺はギュンターを始末しなければならない。俺の秘密は誰にも、知られてはならない。


 「……」

 「……」


 ピリピリとした重苦しいプレッシャーが部屋を満たした。ギュンターは黙りこくっている。

 リビは顔を青ざめさせ、息を荒くしている。

 俺も、息が重い。平気そうなのはベルだけだ。


 「……分からないよ、君がどうやって事態を解決するつもりなのか」

 「そうか」


 内心でそっと安心する。少なくとも、今殺す必要は無い。


 「だが、君の選択がより良い未来をもたらすと言うのなら、それを拒否する理由は無い。嘘でないことは、間違いないわけだしね」

 「……なら」

 「いつまで街から離れていればいい? キングオクトはいつ退けられる?」

 「日が昇る頃には」

 「了解した。住民の避難を進めよう。明日明後日で全住民の退去を完了させる。三日後の深夜に魔王軍が降臨するが、時期を早められないよう魔王軍と内通している可能性のある組織は今夜私が全て潰そう。聖女様を借りても?」


 ベルのスキルは強力だ、裏切り者を探すのにも役立つだろう。


 「構わねえよ、ベル、良いよな?」

 「は……はい!」


 ベルは勇足で返事をした。


 「連絡が無いことが計画を早める原因になりうるが……」 

 「避難を知られるよりもマシだろう」

 「だろうね、他に要求は?」

 「三日後に魔王軍と戦う戦力が欲しい、キングオクトの出現に合わせて転移石を破壊する人員と、合わせて出現するであろう魔王軍を減らす奴らが」

 「禁則事項はあるかい?」

 「ねえ」

 「了解した、手配しよう」


 ギュンターは返答した。約束した。ならばこれ以上長居は無用だろう。嘘は決して吐けない。


 「ベルはここに残す」

 「明日朝、君たちの宿屋まで送ろう」


 ベルを置いて踵を返し、出口へと向かう。扉を開く前に、ふと思い出して振り返った。


 「ああ、それと……今回の領主邸への侵入は許してくれ、指名手配も無し」

 「もちろん構わないよ。ただ、最後に確認だ」


 ギュンターは相変わらず冷静に、俺の目を見据えた。


 「……これは約束だ、ハレ。もし君が人類の味方でなかったのなら、私は命に換えても君を殺す」

 「……はっ、おっかねえ」


 扉の閉まるその瞬間まで、ギュンターの目は俺を見つめ続けた。








 「そういえばギュンターさん、全てが終わってからで構いません。六里光園へ――」


 扉が閉まる直前に聞こえた声は無視した。一切、聞こえないふりをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。