第8話 : 疑惑
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修正版
アッシュはドアを開けた。
シュシロ先生のオフィスは、それ自体が静かな宇宙だった。ホログラムスクリーンが無音で整然と並び、青白い光が書類の山に沈む机を照らしている。空気には、インクとオゾンの匂いがかすかに混じっていた。
シュシロ先生は顔を上げない。ペンの動きは止まらない。
「入れ、アッシュ」
ドアが柔らかな音を立てて閉まる。それきり、何も聞こえない。
アッシュは入口のすぐ内側に立つ。聞こえるのは、ペン先の走る音とディスプレイの低い唸りだけだ。
「このファイルを手伝ってくれるか」シュシロ先生は顔を上げないまま、隣の机を軽く指す。
――そういうことか。
アッシュの表情は動かない。手も揺れない。シュシロ先生に必要なのは書類仕事の手伝いじゃない。アッシュを監視する口実だ。静かな鎖。洗練された監視の方法。
アッシュは椅子を引き、座り、ファイルに手を伸ばす。
記録は機密扱いだった。詳細そのものだ。アカデミーの全生徒が、数値と評価に還元されている。
脈拍も表情も変わらない。
「生徒データを照合して、空欄のプロフィールシートに転記してくれ」
アッシュは答えない。スタイラスを手に取り、作業を始める。
視線は落ち着いた動きで画面を追う――名前、スコア、クラス――そして、止まる。
白銀夜
ポートレートの下、暗い紅色で一つの数字が光っている。
アクシオムエネルギースコア――6,102
アッシュはそれをちょうど一秒、見つめる。
それからスタイラスを画面に押し当て、書く。610。
一筆。鮮やかに。完璧に。最後の一桁が、最初から存在しなかったかのように消える。
夜のファイルを、処理済みの書類の束の下に滑り込ませる。呼吸は変わらない。
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食堂は騒がしかった。
エミリアのブーツが床から二フィート浮いている。彼女は空中で足をばたつかせ、口を開けたまま悲鳴をあげている――その声は夜のアクシオムエネルギーに飲み込まれていた。周りでは取り巻きたちが笑い、野次馬の何人かも笑う。緊張した笑いだ。どうか、自分じゃありませんように、という意味を込めて。
柱の陰で、ヒナはアヤメの袖を両手で握りしめている。
「まただ」とヒナがささやく。
「やめて」アヤメが優しく彼女を引き戻す。「聞こえたら、次は私たちよ」
二人は動かない。誰も動かない。
夜が薄ら笑いを浮かべ、とどめを刺そうと一歩踏み出す。
その瞬間、エミリアが落ちた。
彼女は床に柔らかい音を立てて落ちる。夜の笑みが即座に消える。技を解除したわけじゃない。何もしていない。ただ――重力が勝手に戻ってきただけだ。
彼は部屋を見回す。自分の力を打ち破れるような上級生を探して。誰もいない。
そのとき、それが来る。
突然の、完全な脱力感。胸の内で扉が閉まるように。オーラが揺らぎ、かすれる。力に手を伸ばすと、そこには虚ろだけがあった――かつて何かが広がっていた場所の、空っぽ。
彼は食堂の真ん中で立ち尽くす。笑い声が次第に消えていく。
「夜……一体何が起きたんだ!?」
レンが人混みを押しのけ、夜の肩を掴む。目を見開いている。
「わ、わからない」夜はしわがれた声で言う。声が裏返る。冷や汗が首を伝う中、自分の震える手を見つめる。「アクシオムオーラが……消えた。感じない。何も発動できない」
レンの手に力がこもる。「消えた!? 二秒前まで使ってたじゃないか! エミリアを浮かせてたんだぞ! どうやって消えるんだよ!?」
夜は答えない。他人の手でも見るように、自分の手を見つめ続ける。
沈黙が食堂を覆う。息を詰めたように。
生徒たちは見つめる――夜の震える手を、エミリアが落ちた床の擦り傷を。誰も声を出さない。誰も動かない。それが、なぜか一番堪えた。
ヒナが最初にエミリアの元へ駆け寄る。
「エミ」しゃがみ込み、ささやくような声で。「ねえ、大丈夫?」
エミリアはうなずく。小さく。静かに。まだ震えながら。
二人に引き起こされる――片側はヒナ、もう片側はアヤメ。彼女たちの腕が自然にエミリアの肩を探る。前もこうしたことがあったかのように。あるいは、本当にあったのかもしれない。
「行こう」アヤメが静かに言う。疑問形ではない。彼女は一瞬で部屋を見渡す――夜の仲間たち、見物する群衆、開いたドア――そして計算を終える。
エミリアを二人の間に挟み、歩き出す。
走っていると思われない速さで。しかし何かを誘うほど遅くもなく。ただ着実に、意図的に出口へ向かう。食堂の連中が見ているだけで何もしない中、エミリアを安全な中央に包み込んで。
ドアが背後で閉まる。
室内では、沈黙がもう少しだけ続いた。
それからゆっくりと音が戻る――スプーンが器を擦る音、椅子の動く音、誰かがまったく別のことで笑う声。食堂は、忘れ方を思い出した。
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一方、シュシロ先生のオフィスに戻ると、アッシュはデジタルスタイラスを置く。最後の書類が完成した。立ち上がり、ドアへ向かう。
「もう終わったか」シュシロ先生はホログラムスクリーンから目を離さない。
「はい」
二人の間に沈黙が落ちる。
するとシュシロ先生が立ち上がる。機械の唸りが変化する中、彼は部屋を横切り、アッシュの数歩手前で止まる。
「なぜ今日、お前をここに呼んだか分かるか」声のトーンが変わる。冷たく、より意図的に。
「質問があるなら」アッシュが言う。「聞いてください」
シュシロ先生の目が――ほんの一瞬――見開かれる。それから低い笑みが顔に広がる。
「ほう」首を傾げる。「その答えは予想外だった」
鋭い。実に鋭い。
普通の生徒を想定していた。書類をこなし、何も聞かず、何も見ない生徒を。だがアッシュは最初から見抜いていた。
笑みはシュシロ先生の顔から消えない。むしろ深まる。
「よかろう」声が低くなる。「本題に入ろう。お前は一体何者だ、アッシュ?」
アッシュは何も言わない。
「お前は今、全生徒の機密ファイルを見た」シュシロ先生が一歩近づく。「では教えろ――お前自身のファイルはどこにあった?」
答えはない。表情の変化もない。ただ、その暗く読めない瞳だけがある。
「お前のファイルはあの束の中になかった。私は探した――全領域、全国家、アクセス可能なあらゆるデータベースを」さらに一歩。二人の距離はほとんどなくなる。「お前はここに来るその日まで、存在していなかった」
彼は止まる。
「まるで誰かが、お前をこの世界に書き込んだかのようだ」
沈黙が流れる。
アッシュが口を開く。
「先生は、私が何者だと思いますか」
シュシロ先生はちょうど一秒、完全に止まる。それからゆっくりと、制御された息を吐き、腕を組む。
「なるほど。私の仮説が聞きたいのか」
彼は首を傾げ、まだ解けていない錠前を調べるようにアッシュを見る。
「疑問もある。仮説もある」間を置く。「だが、なぜお前のために手の内を明かす必要がある?」
アッシュは答えない。表情も変わらない。
しかし――瞳の奥で何かが動く。小さく、素早く、閉じたドアの隙間から漏れる光のように。名づけられる前に消える。
シュシロ先生は気づいた。
何も言わず、それを心に留める。
沈黙が二人の間に広がる――空っぽではなく、満ちている。互いに相手より多くを知りながら、今は何も言わないと決めた者同士の間に生まれる沈黙だ。
シュシロ先生は待つ。
アッシュも待つ。
どちらも先に動かない。
「わかりました」アッシュの唇が、かすかに――ほとんど見えないほどに――動く。壁に追い詰められてなお、その瞳に焦りはない。
「では、こう聞きましょう、アッシュ・ヴァレモント」
シュシロ先生が身を乗り出し、その名前を静かな部屋に錨のように落とす。
「お前は、いつまで本当の正体を隠し続けるつもりだ?」
「そう長くはない」アッシュが言う。
口調は平然としている。ほとんど退屈そうにさえ。シュシロ先生の視線をひるまず受け止める。
「だが私はスパイじゃない。どこかの敵対組織の工作員でもない」
シュシロ先生の目が大きく見開かれる。
ほんの少し。ほんの一瞬。すぐに仮面が戻る。
しかし内側で、何かが変わった。
分かった。
信じられなかった。この少年は質問に答えただけではない。シュシロ先生がまだ口にしていない質問に答えていた。
スパイのこと。作られた過去のこと。敵対組織のこと。
すべて。手の内を明かす前に、はぎ取られてしまった。
久しぶりに、シュシロ先生は言葉を失った。
そのとき、オフィスのドアに鋭いノックが響く。
「入れ」シュシロ先生は仮面を戻して言う。
ドアが開く。セレネが入ってくる。
「失礼します、シュシロ先生」声は落ち着いていて事務的だ。「ヴェン先生がお呼びです。お話があるとのことです」
話しながら、彼女の視線が動き――アッシュの暗い瞳とぶつかる。
彼女は彼を見つめる。見覚えのある文字を見るように――確かに何かを意味するはずなのに、それが何だったか思い出せない、という目で。口がわずかに開き、閉じる。後ずさりはしない。ただ……その場に止まる。部屋に入ったのに、何の用だったか忘れた人のように。
「わかった」シュシロ先生はうなずき、ドアへ歩き出す。敷居で立ち止まり、アッシュを振り返る。「もう行っていい」
そして消える。
セレネは、必要以上に一秒だけ長く留まる。それから廊下へ消える。アッシュには、彼女が今日一日、彼の顔を思い出そうとし、そのたびに記憶から滑り落ちていくような気がした。
アッシュは一人になる。
出口へ歩き出す。手がドア枠に触れ――止まる。
ああ。忘れるところだった。
振り返る。机の上の書類の束を見る。表情は変わらない。
手を上げ、指を鳴らす。
パチン。
無音の波紋がデジタルインターフェースを駆け抜ける。夜のプロフィールシートで、改ざんされたスコア――610――が歪み、書き換わる。
6,102に戻る。
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セレスティアとレオは廊下を歩いていた。磨かれた石の壁。足音が広い空間に淡く響く。
彼女がレオを見る。「さっきあなたと一緒にいたあの静かな子。どこに行ったの?」
レオは微笑む。「シュシロ先生がオフィスに連れて行きました。何か頼みたいことがあるみたいで」
セレスティアは小さくうなずき、表情を変えない。
そのとき、レオが気づく――前方の床に影が伸びている。長く、動かない影。すでにそこに誰かが立っている証拠だ。振り返る。
「ああ。アッシュ」
アッシュは数歩先に立っていた。その暗い瞳が二人の間をゆっくりと動く。何も言わない。うなずきもしない。ただ待っている――最初からそこにいたかのように。
セレスティアの視線が、必要以上に長く彼に留まる。
それから彼女は向きを変え、歩き出す。
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