雨の日
雨が降ると心安まる
きっといつだってそうなのだ
洗い流す
先は見えずただただ濡れる
乗り込んだバスの窓外は白く曇り
どこに向かっているのかわからない
通路を挟んで右斜前に座る男の子が指で何か描いている
小声で歌い、窓に浮かび上がる線を曲げたとき
不意にバスが左に曲がった
連動したか思うと不意に口元が緩む
バスの振動と暖房の温かさは眠気を誘い
湿気が立ち込め窓の外は何も見えない
白いガラス窓につつと伸びる
男の子の指軌道が緩やかな弧を描き
この大型バスもそれに敏感に捉えたが如く
車体を揺らす
男の子はこの全方位白く覆われてたガラスの先の道が見えていて
指を使ってバスを動かしているのではないだろうか
いや、道が見えているのではなく道を作っているのかもしれない
その道を歌で伝えて連携をとってこの箱は進んでゆくのだ
その実、車掌ですら実は年端もいかない幼子なのだ
はっと思い直す
視軸を男の子から前方の座席シートに巡らせた
何も見えない
4.5歳かと思われる彼は一人で乗ってきたのだろうか
隣はシートの青をぼんやりとした天井ライト下に晒しているだけだった
後ろを振り返る
亡霊のような人型シートが狭い通路を挟み左右二つずつ並んでいる
そこに人影はない
己は長身と呼ばれる類には属していないが
座席にちょうど頭が収まる
それ即ち己より背丈を持ちうる者、これ即ちシートからはみ出るさだめ
冷たい汗が背中を流れる
前に向き直り座席という名の亡霊の列がどこまでも続いているのを眺める
幾何学的に美しく
何一つとして形を妨げるものは見受けられぬ
どことも知れぬバス停で降りた
目を瞑ってかけたバスの上の道での
靴の鳴らす甲高い音だけが耳に残っている
早くなった心拍数は
雨音により徐々に鎮まる
先は見えずただただ濡れる
洗い流すよう
雨が降ると心安まる
きっといつだってそうなのだ




