貴族の事情
翌日になるとさっそくアミルが魔導具の試作品を持って来た。
「アリスさんのアドバイスをもとに、まず燃料を生成するようにしました。発射機構を削除したのでかなり小型化もできましたからこれなら持ち運びも楽だと思います」
「ふむふむ。なかなかコンパクトにまとまってるじゃない。それで、どうやって使うの?」
「地面に設置します。それからこのようにレバーを握りしめて魔力を送り込み……点火!」
かまどのような装置から盛大な火柱が上がった。
「おー」
「火力は申し分ないでしょう!」
「それはそうだと思うけど……これ、使ってる間ずっと魔力を流し込み続けるの? それだと他のことができないと思うんだけど」
「あ……」
ようやく気づいたらしい。
「そ、そうでした……なんで気づかなかったんだろう……」
「まあ、一つの問題に気を取られてたらよくあることよ。最初にしては上出来なんじゃない? 次、がんばってみよー!」
慰めつつも発破をかけておく。
頑張れアミル。
それからも、アミルは何度も改良を繰り返しては魔導具を持って来た。
「魔力を溜めておけるようにしました! これで離れても使えるように──」
「フライパン溶けてるんだけど……」
「ああああああっ!?」
さらに翌日──
「見てください! この“火力にも負けないフライパン”を作りました!」
「わーすごいわねー……うん。 そ う じ ゃ な い 」
どこかズレたアミルにツッコミを入れまくりながら、学業の合間をぬって魔導具の改良を重ねていった。
これまでとは打って変わった平穏な日々。
フイディールの街での忙しい生活は楽しかったけど、こういうのも悪くない。
しばらくはのんびり学生生活をおくるのもいいかもしれない。
なんてことをぼんやり考えるようになったある日。
いつものように“勇者科”の敷地をコソコソと……もとい、人目を忍んでうろついていた時だった。
なんでそんなことをしているかって?
もちろん偵察のためだ。
「ククク……今日も勇者のたまごどもをじっくりたっぷり覗き見してやるわよ……」
不審者ムーブをしている自覚はあるが、あくまで偵察が目的だ。
そこは誤解しないでほしい。
「さーて、今日はどの子にしようかなー……って、アレは……」
見覚えのある人だなと思ったらルエイムの妹エレノアだった。
こんなひと気のない場所に……と思ったらどうやら誰かと密会中のようだ。
「あらあらまあまあっ。やるじゃないエレノア。これも“勇者”どものことを調べるためだから仕方ないわよねー」
などと自分に言い訳をしながら耳をそばだててみる。
「おまえには失望したよ。なんのために紹介したと思っている」
「申し訳ありません……」
あれ? なんか思ってたのとちがう感じ?
「婚約が破談になれば、困るのはおまえの方ではないのか?」
「おっしゃる通りです」
「なら、少しは役に立ってみせろ」
相手の男、いやーな感じだわ。
エレノアもどうしてあんなのに謝ってるんだろう。
うーん……わからん。
結局、その場ではエレノアを叱責していた相手の素性も状況もよくわからず。
後でアミルに聞いてみることにした。
「それは、おそらく婚約者のボリス様ですね」
ボリス・プレシューズ。
プレシューズ侯爵家の長男で勇者科の生徒だそうだ。
なんとエレノアの婚約者らしい。
「どうしてあんなに偉そうだったのかしら? エレノアの家の方が格上なんじゃないの?」
「それはいろいろ複雑なんです。ランフォード家は公爵とはいえ“文官”貴族です。対してプレシューズは“騎士”貴族。それも円卓の一席であるクラレント家の派閥に属していますから学園内でも有力貴族と目されています。逆にエレノア様は……」
「エレノアがどうかしたの?」
「ええと、その……」
なぜかアミルはやたら言いにくそうにする。
「エレノア様は、いわゆるその……妾の子という立場でして……」
ルエイムとあまり似ていないと思ったけど、そういうことか。
私の見た限り、ランフォードの屋敷では酷い扱いをされてるような感じではなかった。
兄のルエイムとの関係も悪くはなさそうだった。一線は引いているようだったけど。
「なるほど。爵位は上でもいろいろあって婚約者に強く出られないってわけね」
「そういうことです」
「にしても、アミルはほんと貴族の事情に詳しいわねー」
この国では勇者=貴族らしいから、貴族社会を知ることは勇者について知ることに他ならない。
私としてもアミルの知識は大いに役立ちそうだ。
「僕の家は、そういうやり方で生き残ってきた家系ですから……」
「そういうやり方って?」
「情報収集です。貴族社会の“醜聞”を集め、交渉や誰かに取り入るための道具にすることでその地位と立場を守ってきたんです。そんな家で育てば、自ずと貴族社会の事情にも詳しくなります」
アミルの言葉には自分の生家を蔑むような雰囲気があった。
「聖遺物を継承できなかった遺失貴族が生き残るにはそれしかなかった……それはわかります。でも、そうまでして爵位にしがみつく一族を、僕はひどく“醜い”と感じてしまう」
「もしかして、魔導具を作りたいのは……」
「爵位なんかなくても、聖遺物に頼らなくても、何か成せると証明したかったんです」
いつものおどおどしたアミルとは違い、強い意思を感じた。
「そういうことなら、例の魔導具完成させないとね。そんでもって、エドワードのところに売り込みに行きましょう!」
「はい! 頑張ります! ……って、えええええっ!? エドワード殿下に売り込む!?」
「あれ? 私、言わなかったっけ?」
「初耳ですよ!」
いや、そういう流れだったと思うんだけどなー。
「まあ、いいじゃない。目標ができてやる気も出てくるってもんでしょ」
「ぼ、僕に殿下に献上するような出来の魔導具を作るわけが……」
「いや、献上じゃなくて“売り込む”のよ。きっちりお金はいただくから」
「余計に責任重大じゃないですか!」
「がんばりましょうね、アミル!」
「む、無理ですうううううううううっ」
泣き言は聞かなかったことにしてあげよう。がんばれアミル。
私の借金返済のために!




