二十八:御褒美
※セエレが少しアレな描写があります。
ご注意ください。
「今回の件で、もしかしたら我ら深淵の館、そして深淵の森が、世界に名を知られる事態になるかもしれません。」
セエレは此方を見て、一口珈琲を飲み、続けた。
「この世界で、純血の龍は、もはや伝説上の生物であり、誰も踏み入れた事のない秘境に生息していると言われています。
龍のハーフは、ほんの僅かですがおりますが、それも誰かに飼われているのが殆どで、クロムのようなものは数名しかおりません。
つまり、この場所に龍が7体もいる事が、何を示すのか。
まあ、想像は付きますよね。
その上で、相手は私たちが何者なのか、この場所も原初の地と言われるだけあってどの様な生態系なのかも知らずに、人間が大挙してくる。
最悪、襲い来る人間を全て滅ぼす必要が出てきます。
そうなれば、平穏とは無縁の生活になるでしょう。」
うん、それは、ハッキリと言って超迷惑だ!!
それが顔に出ていたのか、セエレはくすくす笑って続ける。
「ふふ、ご心配なく。ご主人様がそういうのを嫌がる事は承知しておりますから。
そうならないよう、クロムを焚き付けて事を動かしております。」
「ありがとう、セエレ。何だか頼りっぱなしだな。」
素直に感謝すると、セエレはにっこりと笑って言う。
「いえ、きちんとご褒美が貰えるからこそ、この手間も俄然愛しいですよ?」
ああ、そういえば、ご褒美が欲しいって言ってたっけか。
そんな事をぼんやり考えていたら、いつの間にかセエレがこちらへ近寄り、アタシの足を跨いで向かい合わせに座ってきた。
「ふふ、そろそろ、御褒美が・・っ、欲しいのです、ご主人様ぁ・・・」
耳元でそう言われて、アタシは悩む。
そう言われても、セエレには何をあげたらいいんだ!?
考えてもわからないので、直接聞こう、うん。
「セエレは、何が欲しいんだ?」
「ふふ、それは、ご主人様の童て」
「却下」
「・・・手強いですね。では、欲しいものは・・・幾つかあるのですが、どうしましょう?」
「うーん・・・3つまでなら、聞けるかも?」
魔法のランプとかも願い事は3つだし。今回街に行ってから凄くがんばっていたからなぁ。まあいいでしょう。
そう言うとセエレは少し喜んでいた。
「では、先ずは・・・私を、第一婦人になれなくても、愛人としてでも良いので、これからもずっと離れる事なく貴女の側に居させてください。」
凄く真剣だったので、アタシは頷く。
側で一緒に生活する位なら、別にどうって事はないだろうし。
「次に、私のもつ音声を保存できる水晶に、ご主人様の声を幾つか吹き込んで欲しいんです。気落ちした時に、がんばれるように。」
ああ、よくあるよね。アタシも亡き愛犬の声を着メロにしてた事あるし、元気付けられるよね。
これも、気持ちがわかるのでOKする。
「そして、3つ目は・・・まず先に声を撮ったあとで、言っても良いですか?」
「ああ、わかった。」
「では早速、これを言っていただきたいのですが・・・」
セエレの綺麗な文字で書かれた台詞を、アタシはアフレコ的に読み上げ、録音して行った。
なお、文面は以下の通りだ。
『セエレ、がんばれ!』
『セエレ、我慢だ。』
『セエレ、行け。』
『おはよう』
『おやすみ』
『セエレ、いい子だ』
『セエレ、がんばったね』
あれ?何だか、なんとかモンスターの台詞っぽくないか?
ともあれ、とりあえずセエレの満足するものが録れたみたいだから、良いとするか。
で、だ。
残る3つ目は何かと聴くべく、膝の上に跨がるセエレを見上げると。
「3つ目は・・・魔力を、ください。」
そのまま唇を重ねられ、深く、深く貪られた。
少し驚いたが、それより吸い上げられる魔力の流れが多くて、それにも驚いた。
そういえば、セエレは古の堕天使だから、封印されていてとても魔力が枯渇していたのだろうか。
アタシ自身も、魂の記憶の中ではこういうキスは嫌いじゃないので、とりあえず受身のままでしばらく魔力を与えていた。
魔力を馴染ませる為か、時々セエレが体を震わせたり抱き付いてきたりしながらも、結構長い時間が経過して。
不意に、膝の上に置いていた録音水晶にセエレの手が触れたらしく、その声を聴いたセエレが口づけしながら身体を幾度か大きく痙攣させて、しばらくして唇を放した。
そして、そのままうっとりとした表情で肩に顔を埋めて、息を整えている。
かというアタシも、少し酸欠気味になっていたので、セエレが膝から落ちないように腰に腕を廻して抱き留めて息を整えた。
「・・・魔力は、足りたか?」
少しして、落ち着いたところを見計らってセエレに声をかけると。
身体を起こして、それでもまだうっとりとしながらセエレは答えた。
「はい・・・とぉっても、凄いご褒美、でしたぁ。
これからも、ご褒美は、これでお願いしますぅ・・・」
少し舌っ足らずになりながら、セエレがほわほわと言う。
魔力が充填されて、満ち足りている状態なのだろう。
セエレが立ち上がろうとすると、膝に力が入らないのか失敗しているので、セエレに録音水晶をきちんと持たせ、アタシはセエレを抱き抱えて、とりあえず近場のベッドに運んだ。
「魔力が馴染んで動けるようになったら、また一仕事頼むね。それまで、少し休んで?」
「ご主人様ぁ・・・愛していますぅ・・・」
まだ、ぼんやりほわほわのセエレを寝かせて、アタシはセエレの部屋を後にした。
減った魔力量といえば、大体三分の一くらいだろうか?
それでも、減少した感覚はないので、とりあえずそのままキッチンへ向かい、珈琲を淹れて飲んだ。
あー、やっぱりマンデリンは美味い。
そうしてまったりしていたら、メシアが戻ってきた。
紅茶を淹れて、フロランタンと一緒に用意して、メシアに渡す。
「おつかれ、女将」
「姉さま、ありがとっ!」
「いつも色々ありがとうな。ご褒美、何か欲しいものあるか?」
その言葉に一瞬きょとんとしたあと、満面の笑みでメシアは答えた。
「じゃあ、姉さまのハートっ!」
「心臓はあげられないだろ?死んじゃうよ?それ以外で。」
「む~・・・姉さまの鈍感。じゃあ、大人のキスして!」
大人のキス?
さっきセエレとしてたやつかな??
アタシはするりとメシアの隣に座り、見上げるメシアに口付けた。
魔力を流さない、感覚を味わうための、キス。
昔のアタシが培った技術を再現するように、深く、深くキスをする。
うん、やっぱり、こういうのが好きかも。
しばらくメシアを思い切り味わって、唇を離すと、メシアがうっとり見上げてきた。
昔はこのあと、押し倒してーー
と、思ったところで、ふと左を見ると、至近距離で木苺とフランがこちらを見つめていた!
「・・・メシア、これでおしまい。満足?」
「ふぅっ・・・足りない、けど、これ以上は子供達に毒だから、また今度ね?」
少し妖艶な雰囲気で、メシアは紅茶を飲み干すと、お菓子を木苺とフランにあげて自室へと戻った。
そういえば、着物のままだったから着替えないとだもんなぁ。
その姿を見送って、アタシはふと考える。
何だか、この種族になってから、番だ恋愛だ結婚だとかあまり意識しない・・・できない?状態にあるなあ、と。
普通は、魔物とかは発情期があるから、そういう時期がアタシにも来たら解るのか?
少し、この世界での自分の将来を、不安に思ったのだったーーー
フミエはキスが凄く好きだった模様です。
なお、セエレは、キスの形で魔力を貰うのは初めてだったという、衝撃の裏話が。
いつか、セエレの過去話をしてみたいですね。




