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幻騒のカルネヴァーレ  作者: 武石まいたけ
chapter.7 Kindness is never wasted
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プロローグ

紅茶とMONSTERを組み合わせたら最強の飲み物が出来るのでは? とか考えながら書いたお話がこちらになります

ダディ、ママン、ケニー。お元気ですか、僕は元気です。


この街に転属する事になった時、正直に言うと嬉しかったんだ。本当だよ。

悪い噂は当然耳に入っていたけど、僕にとっては本当に憧れの街でもあったんだ。

もしかしたら、もしかすると、この街でなら……


そう思っていた時期が、僕にもありました。


僕の今の気持ちを正直に言います、帰りたいです。ダディ、ママン、帰りたいです……。

それでも、もう少しだけ頑張ってから決めようと思います。僕にもきっと、この街で出来る事があると思いたいから。


ダディ、ママン、ケニー。デュークはこの街で何とか生きています。



大きめに設定した目覚ましのアラームで目が覚めた。


最近、目覚めが悪いから大きめにしないと効かないんだ。本当に泥のように眠ってしまっていて、アラームが鳴っていても聞こえないまま寝てしまう事が増えてきたくらいだから。


「……ぐぐぐっ、動け。動くんだ、俺のボディ……!!!」


しっかり寝ているはずなのに、疲労感が全く取れない。俺のボディはそれ程までに疲れてしまっているんだろうか……。


「うおおおおおっ!!」


うつ伏せで寝ているボディを起こそうと、両腕に力を込めて勢いよく飛び起きる。


「あ、痛っ。イタタタタタタッ!!!!」


すると、両肩と腰に鋭い痛みが襲った。あまりの痛みに身悶えし、そのままバランスを崩して安物のベッドから転げ落ちてしまった。


「……今日も、最悪だ」


ふらつく体を起こし、とりあえず背伸びをした。すると今度は背中に痛みが走った・・・・・・どこまでボロボロになっているんだ、このボディは。


「時間は……7時前か。コーヒーを飲む時間くらいはあるな」


俺が住む部屋はリンボ・シティ9番街にある安アパートで借りた一室だ。あまり物を買ったりしないから散らかってはいないけど、これはこれで殺風景かもしれない。


本もあまり読まないし、映画も見ない。音楽も携帯端末で事足りるからCDも買わない。趣味らしい趣味といえば……何だっけ。どうしよう、趣味らしい趣味が見当たらないぞ。


「うーん、まぁ……いいか」


段々と頭が冴えてきたところで、何やら外が騒がしい事に気づいた。といっても、この街で静かな朝を迎えるというのは転勤してから一度も無かったけど。


要するに、この街来てから毎日何かしらが起きている。


冗談抜きで人が殺せてしまう異界の玩具ではしゃぐ子供や、魔法の実験が失敗して部屋ごと爆発する魔法使いの卵、どちらかが死ぬまで終わらない異人同士の喧嘩に、異世界に繋がる大きな穴が突然開いて中からヘンテコな生き物が出てきたり……。


ひどい街だろう? 悲しいかな、それに段々と慣れちゃってる自分がいるんだ。


朝から憂鬱な気持ちを抱えながら、俺は窓のカーテンを開けてみる……すると外では


「ダァァァァァミアアアアアアアアアアン! もうだめよおおお!! 私たち、これでおしまいよ!!!」

「落ち着くんだ、ベレース! 話せばわかる!! 誤解なんだ、僕は浮気なんてしてない!!!」

「嘘つきぃ! そんな言葉信じないわぁあああ!! 私とは遊びだったのねぇえええええええ!!!」


ええと、何やらおっかないチェーンソーみたいな凶器を振り回す顔が猫になってる異人の女性と、多分人間の男のカップルがアパートの前の道路で口論をしていた。あのおっかないもので何をしようというんだろう……物凄い嫌な予感がするぞ。


ここは、警察関係者として何とか説得を


「聞いてくれ! 僕は君を世界で一番愛しているんだよ!! ベレェエエエエース!!!」

「信じられないわダミアァァァァァン、ゴゥトゥヘェェェェェェェェル!!!!」


完全にヒステリーに陥った女性は男性の言葉に耳を貸さず、そのおっかないチェーンソーみたいな凶器を振り上げ、猛烈な音を立てながら男の右肩に斬りかかった


「あびゃああああああああああああああ!!!!」

「愛しているわ、ダミァァァァアアアアアン!!!!」

「わぎゃぁぁぁぁあああああああああ────ッ!!!!」


凄まじい絶叫と血をまき散らしながら男の体は右肩からバッサリと両断され、司令塔とサヨナラした右肩から下の部分は数歩後ろに下がった後に倒れた。目の前でまた一つ尊い命が失われてしまった事に俺は心を痛めた。


聞いてよママン、この街に来てから嫌な予感が過ぎったら大体的中してしまうようになってしまったんだ……何も嬉しくないよママン。


「あぁああああああ! ダミアアアアン!!」


例の女性はというと、自分でぶち殺したダミアンさん(故人)に縋り付いて泣いている。


さて、この状況どこから突っ込めばいいんだ? 雲一つない爽やかな快晴、そして素敵な朝日が注ぐほっこりした朝7時という時間に大きな道のど真ん中で起きた悲惨な殺人事件。


目撃者は多数、てか道を歩いてた通行人全員が目撃者。通行人の半数は悲鳴は上げているものの、残り半数はとくに気にも留めずにスルーしている。おまけに誰も通報しない。しろよ、人が死んでるんだぞ。


どういう事だよ、本当に何なんだよこの街は。


人の命が軽いとかいう次元じゃねーぞ! そこの頭がカニみたいになってるオジサン、頭下げてお悔やみ申し上げてる場合じゃないよ!! その女が犯人だから!!!


「朝から最悪だよ、ママン」


わずか数秒の間に色んな感情が頭の中を突き抜けていったが、当然このまま見過ごす訳にはいかない。俺だって警察関係者だ、あのヒステリックな異人女性ベレースさんを逮捕しなければ。


俺は急いで着替えを済まし、部屋を飛び出ようとしたが


「酷いじゃないか、ベレース!!! 僕だって切られると痛いんだぞ!!!!」


何か聞こえた気がした。この声は確かさっきジェノサイドされたダミアンさん(故人)の声だ。再び嫌な予感がしたので窓の外に視線を向けるとそこには……


「だってダミアァアアアン!! 貴方が悪いのよおおおおおお!!!」

「僕の話を聞けって! 浮気なんて絶対しないよ!!」


どういうわけか右肩から上が無くなっていた筈のボディから、新しいパーツが生えてきたダミアンさんがベレースさんを説得していた。足元には先ほど切り落とされた、ダミアンさんの右肩から上部分が転がっている……何だこの状況。女性の方はというと再び例の凶器を手にして立ち上がり


「ダミァアアアアアン!!! 私たちはもうおしまいよおおおおおおおー!!」

「僕が愛しているのは君だブォッ!」


ダミアンさんの首をそのまま刎ね飛ばした。首から血を噴き出して倒れるダミアンさん……そして彼の死体に縋り付いて泣くベレースさん。暫くすると死んだはずの男性の体が痙攣し出し、首元から何かが生えてくる。血まみれの丸くて小さな何かは徐々に大きくなり、やがて目と鼻と口が出来て……


「だからさぁ! 君は本当に話を聞かないな!!」

「だってぇええええ!! 貴方が昨日、女の人と仲良くお話しているのを見たのよおおおおお!!!」


ダミアンさんの新しい頭が出来上がった。どうやら彼は不死身の肉体を持つようだ、さっき切り落とされた部分からも同じように新しいパーツが生えてきたのだろう。


さて、どうしよう物凄い嫌なものを見てしまったぞ。また暫く赤身肉が食べられそうにない。


「あれはいつものシギラダ乳屋さんだよ! いい加減顔を覚えろよ!!」

「ダミアンはミルク嫌いじゃないのぉおお!!」

「だから断ってたんじゃないか!」

「嘘にしては見苦しいわダミアァアアン! やっぱり死んでぇえええええ!!」


あ、もう時間だ。警察署に向かわないと……後ろから何かが聞こえたけど多分気のせいだ。


俺は着替えを済まし、洗顔と軽い歯磨きをして部屋を出た。外に出るとお隣に住んでいるダカラージャ・田中・モヘスさん(200歳。男性)の姿があった。彼も丁度これからお出かけのようだ。田中さんは上半身こそスーツを着こなした黒髪のナイスミドルだが、下半身が鹿に似た4足獣の姿になっている。


「あ、おはようございます田中さん。お出かけですか?」

「ああ、ニコールソンさん。おはよう、これから仕事ですよ」

「そうですかー、俺もですよ。じゃあ……気をつけてくださいね」

「ははは、お互いにね」


笑顔で軽く挨拶を交わすと、田中さんと別れた。確かに最初は混乱したけど、慣れちゃったら下半身がちょっと個性的なだけのナイスミドルだから。時々、差し入れもしてくれる本当にいい人なんだ……下半身が個性的だけど。



「おはようございます」

「おう、おはようさん」

「おはようー」

「おはよう、デューク君」


警察署についた俺は挨拶をすまし、自分のデスクにつく。俺が働くリンボ・シティ中央警察署には異人がいない。署員みんなが人間なんだ、凄いだろう? その理由は今のところわかってないけれど……。


「だいぶこの街にも慣れてきたか?」

「正直に言っていいですか、警部」

「だろうな。異人に慣れても、リンボ・シティの暮らしに慣れるかどうかは別だからなあ」

「ええ……」


アレックス警部にはとてもお世話になっている。この街で何とか頑張っていられるのも、この人と出会えた事が大きいだろうね。前の部署じゃあ……うん、この話はやめておこう。


「さて、早速で悪いが巡回に行くぞ」

「え、今日はブッカーさんとじゃないんですか?」

「ブッカーは今朝、病院に運ばれた。」

「何で!?」

「ストレスによる急性胃炎でな」

「……」


一緒に働く人達が人間ばかりというのは安心できるけど、正直に言うと不安もある。だってこの街はリンボ・シティなんだから。俺達、人間が出来ることは限られてるんだ……。


情けないけど、この街じゃ普通の人間は力不足だ。例え銃を握っても、それは変わらない……相手の規格外さを改めて知らしめられるだけだ。


その相手がどんな奴だって? そりゃもう化け物だよ。


「安心しろ、今週は(ポータル)の発生率も30%未満だ。まだ気が楽な方だろ」

「……それって低いんですか?」

「低いね」

「前は20%未満だったのに門が

「細かいことは気にしないのが長生きするコツだぞ」


この街で一番気をつけなきゃいけないもの、それがこの(ポータル)と呼ばれる現象だ。


偶発的に開く異世界に繋がる黒い穴で、中からよくわからない生き物や物体が出てきたりするんだ。この街に住む異人達の多くが、門からこちら側にやってきた異世界の住人なんだ。リンボ・シティがおかしな街になったのも、彼等が持ち込んできた異世界の道具や文化による物が大きいらしい。


……勿論、彼等だけが原因じゃないだろうけど。


実は門が開いたら絶対に何かが出て来るという訳でもなくて、穴が開いただけでそのまま何も出てこないまま閉じてしまう事の方が多い。


「今日は何処を回るんですか?」

「10番街周辺をぐるりとな」

「……また二桁番街(ダブルナンバー)ですか」

「またとか言うなや」


俺は自分の頬を両手で叩き、なけなしの気合を入れてからデスクを立った。


確かに、俺達人間は非力な存在だ。だからといって何もできない訳じゃない。非力な俺達にも出来る事は沢山ある……少なくとも俺はそう信じたい。


俺達は非力だけど、決して無力なんかじゃないと思っているから




chapter.7 「Kindness is never wasted.」 begins....


割と美味しかったです。一口目は。

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