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夢の続き  作者: 中島 遼
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見舞い1

 胸騒ぎがした。

 それはどんどん強くなる。

「圭介」

 玄関でベルが鳴ったあと、母親が部屋に入ってきてそれはピークに達した。

「萌ちゃんと村山先生がお見舞いに来てくださったけど……」

 高津は布団を頭からかぶった。

「風邪を伝染すといけないから、帰ってもらってよ」

「ほんとに風邪なの?」

「嘘をつく必要がどこにあるのさ?」

 母親は不審気な声で、わかったわかったと言いながら去っていった。

 だが、何もわかってなかったことは数分後に明らかになる。

「圭介、大丈夫か?」

 村山の声に高津はさらに布団の奥にもぐる。

「う、うん」

「ちょっと診せてみろ」

「駄目だよ、風邪が伝染るから……」

 いきなり布団がはがされる。

「風邪が怖くて医者が勤まると思うか?」

 どうしてか村山は右手に銀色の薄く平たい棒を持っている。

「何それ?」

 村山が先端を握りこんでいたので最初はわからなかったが、良く見るとただのスプーンだ。

「お前のお母さんに借りた。大丈夫、手もスプーンも十分洗ってある。上体を起こして。口あけて」

「え?」

 彼は空いた左手で、ポケットから小さな懐中電灯を出した。

「……何でそんなもの持ってるの?」

「夢を見て以来、こいつを手放せない」

 びっくりして村山を見ると、彼は嫌な顔をした。

「ほら、さっさとあけろ、こじ開けて欲しいのか?」

 仕方なく口を開くと、彼は少し舌を眺めてから、スプーンの平たい柄で舌を抑えて喉を覗き込んだ。

「……へえ」

 彼はティッシュペーパーでスプーンをくるんで下に置き、目の下側の皮膚を引っ張り、そして首の両側を触った。

「薬は飲んでないってお母さん、おっしゃってたけど」

「うん」

「……熱も特にないようだな」

「体温計で測ったら朝はあったんだよ」

 村山はじっと高津を見つめる。

「何で仮病?」

 突如、胃がきゅるきゅると物欲しそうな音を起てたので高津は赤くなった。

「仮病じゃないよ。ほんとに具合悪くて……」

「病院が休みの日曜日の朝、待ち合わせ時間の五分過ぎにインフルエンザだなんてメール飛ばすだけで怪しすぎだろ」

 どうやらその時点でばれていたらしい。

「……なにかあったのか?」

 高津は慌てて首を振る。

「何もないよ」

「誰かに脅された?」

 びっくりして村山を見上げる。

「何で萌が俺を脅すんだよ。俺が勝手に……」

「……萌?」

 高津は村山から目を逸らした。

「いや、その」

「はっきり言え」

 しょうがないので真実を話す。

「こないだ俺が村山さんと二人で行動したことを萌が根に持ってたから、今日は俺、席外そうと思ってさ」

「は?」

 言ってるうちに腹がたってくる。

「俺なりに気を利かせたんだ。いいじゃん、別に」

 村山が吹き出す。

「ほんと、お前たちはバカップルだな」

 バカはお前だと怒鳴りたい衝動を必死でこらえる。

(……仮病をメール一つで見破るくせに、なんで俺の気持ちとか萌の気持とかに無頓着なんだ?)

「萌には言わないでよ」

「わかった、わかった」

 村山は笑いながら、ふと高津を見つめた。

「ところで、前から少し気になってたことがあるんだ」

「何?」

「お前が元気だってわかったから、ちょっと試してみるけど」

 言葉を返す余裕すらなかった。

 村山の左ストレートが高津のボディに突き刺さる。

「っ!」

 咳き込みながらも、あまりのショックに彼は腹を抱えて茫然自失のまま村山を見つめた。

「ご、ごめん、大丈夫かっ?」

 加害者が被害者に大丈夫かはないだろうと心の片隅に思う。

「ごめんじゃないよっ! 頭をどうかしたの?」

「ごめん、ホントにごめん」

 思いきり睨み付けると、村山は何度も高津に頭を下げた。

「最悪でも避けるかどうかすると思ってたから」

「どういう意味?」

「いつものお前なら、俺が悪意を持った瞬間に逃げるだろ?」

 村山はまじまじと高津を見つめる。

「……本当にスランプなんだな」

「味方だって安心してたのもあるけど、スランプのせいだけじゃないよ。」

 高津は直撃を受けた腹を手でさすった。

「普通の人は、こいつって思ってから殴るまでに少し時間があるけど、村山さんの場合は色が変わったって思ったときにはげんこつが当たってるんだもの」

「まあ、少しそれを意識したのは確かだが……」

「意味、わかんないんだけど」

「やっぱりあれは幻覚だったのかな」

「はあ?」

「ほら、暁の家に行ったとき、奴らに襲われたろ? あのとき、男がナイフを突き立てた瞬間、お前が消えて遠くに移動したような気がして……」

 高津は瞬時黙った。

 そして村山を見上げる。

「圭介?」

「やっぱり俺、そうだったのかな」

「え?」

「なんだかそんな気はしたんだ。突然違う場所にでちゃったって感覚があって」

 村山は目を見開いたが何も言わなかった。

「刺されたって思ったのに、何の痛みもないから目を開けたら、村山さんがあいつを羽交い締めにしてた。だからてっきり助けてもらったんだと思ったんだけど」

 高津は眉間にしわを寄せた。

「でも、よく考えたら風景が変わってた気もするんだ」

 村山は頷く。

「明らかに五メートルは移動していたように思う」

「やっぱり」

「……やっぱりってことは、初めてじゃない?」

「現実には初めてなんだけど、前にロールプレイングゲームに紛れ込んだときに、同じようなことが起こってはいる」

「って?」

「やっぱり同じように殺されかけた時。化け物の攻撃を避け損ねた時だったかな。気がついたら戦線から離脱してたんだ。かなり離れた場所にぽつんと一人でいて」

「テレポテーション……か」

「え?」

「瞬間移動能力だ。だとすると……」

 村山は押し黙った。

 そしてじっと考え込む。

「そんなに真剣に考えないでよ。今のところ、どうやってやったかも、次にまた起こるのかもわかんないしさ」

 高津はばたりとベッドに倒れ込んだ。

「あったところで、村山さんが殴って逃げられない程度の力なんだから」

「ごめん」

 村山は再び申し訳なさそうに頭を下げ、そして立ち上がった。

「じゃ、とりあえず萌にインフルエンザじゃないって言ってくる。ただの風邪だから入っても大丈夫ってね」

「え?」

「玄関先であいつ、待ってるから」

「…ちょ、ちょっと」

 頓着なしに村山は出て行った。

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