スゥの一日
スゥの朝は早く、太陽の輝きが空気に取り込まれる前から始まる。
神殿でのおとつめを終えると、スゥは図書館に向かい、カギを開けた。
本が色あせないよう、薄暗く保ってある図書館に少しでも新しい空気を取り込むための、朝の大切なおつとめだ。
開館まではしばらくある。その間にスゥはハタキで棚の上の埃を落とし、ほうきでゴミとチリを拾っていく。
まだ時間がある。
スゥには、ひそかな楽しみがあった。
それは、開館前にコーヒーを淹れて飲むことだ。
優しくもほろ苦い香りが、スゥの鼻をくすぐる。
もちろん、本のあるところではできない。香りが移ってしまったり、万が一こぼしてしまったら本が台無しになってしまう。
スゥの仕事場である司書の棚の後ろには、小部屋がある。ここでコーヒーを楽しむのだ。
コーヒーのお供は、自分のノート。物語のかたちにはならなかったけれど、物語のカケラにはなってくれた、大切な大切な言葉のカケラ。
このカケラを、もっと才能ある人に渡して、素敵なお話にしてほしい、スゥはそんなことを考えたことがあった。
もっとも、それは間違っていることなのだが。自分の物語は、大切な大切な自分だけの物語。短くても、出来が悪くても、それだけはゆずってはいけないのだ。
*
開館すると、だんだんと人が入ってくるようになる。
スゥはあまりひとを凝視することなく、仕事にとりかかることにした。
司書の仕事は多岐にわたるが、一番の仕事は調べ物を手伝うことだ。
どの本にどんなことが載っているか? このようなことが載っている本はないか?
ひとつひとつの相談事に、スゥは真摯に答えていく。
大変でもあるが、楽しい。
利用者に、新しい本や知識、物語を届けることができるということが、スゥの何よりの喜びになっていた。
カウンターから呼び声がする。貸出希望の利用者の声だ。スゥはパタパタと駆けていき、手早く貸し出しを済ませる。貸し出しカードにはびっしりと名前が書かれている。先日出版された人気作だ。
スゥはにこやかに手続きを済ませ、母親と歩いていく子どもを見送った。
決して賑わってはいないが、静まり返っているわけでもないこの図書館の雰囲気が、スゥはとても好きだった。
閉館しても、仕事はある。乱れた本の並びを変えたり、砂ぼこりで汚れてしまった床を掃いたり。
全てがおわったことを確認して、スゥは大きな閂とカギをかける。
神殿に戻り、シスターにカギを返し、今日一日の仕事を振り返って説明をする。今日は特に問題は起きなかったので、話すことも少なかった。
スゥは自室に戻った。スゥはさまざまな国の字――とりわけ古代文字が読み書きできる数少ない人間なので、比較的良い部屋をあてがわれていた。
もっとも、スゥは図書館で働くことができて、時折ノートに自分のための物語を書き続けることができるだけで、十分満足なのだが。
今日はもうじゅうぶん働いた。夢の中で物語が紡げることを期待して、スゥは柔らかなシーツにもぐった。
スゥの銀色の髪を、月光が優しく照らしていた。




