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「覚えてること」

『甘いやつ好きだったよね』

レシートの裏の文字

凛は視線を逸らせなかった

ミルクティー

確かに好きだった

昔、よく飲んでいたやつ

その“知ってる感じ”が、一番気持ち悪い

母親も表情を硬くする

「……誰なの、これ」

凛は答えられない

心当たりがないわけじゃない

でも

考えたくなかった

一ノ瀬が低く言う

「これ捨てる」

神谷も頷く

「触らない方がいい」

現実的な声だった

一ノ瀬が袋を玄関の外へ戻す

ドアの鍵を確認する音

ガチャ

その小さい音だけで、凛は少し安心する

母親が静かに言う

「今日、お父さん帰ってくるまで起きてようか」

凛は小さく頷いた

一人じゃない

それだけで違った

リビングへ戻る

テレビはまだ流れている

でも、誰も内容を見ていなかった

神谷がソファの背にもたれて言う

「学校、しばらく送り迎えした方がいいかも」

母親がすぐ頷く

「お願いしてもいいかな」

「全然」

一ノ瀬が軽く返す

その自然さに、凛の胸が少し熱くなる

そのとき

テーブルの上で、母親のスマホが震えた

全員の空気が止まる

母親がゆっくり画面を見る

数秒

そして、小さく息を吐いた

「……お父さん」

凛の肩から力が抜ける

ただの家族からの連絡

それだけなのに、安心してしまう

神谷が小さく笑う

「もう通知音だけでびっくりするな」

凛は少しだけ苦笑した

本当にそうだった

普通の音まで怖くなっている

そのとき

ふと、一ノ瀬が窓の外を見る

「……あれ」

低い声

凛の呼吸が止まる

カーテンの隙間

向かいの電柱の下

誰かが立っている

白でも黒でもない

暗い色のパーカー

顔は見えない

でも

こっちを見ている気がした

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