表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/18

#5:僕が父さんの想いも、背負っていくよ....

「~本日の投稿、最後となる第5話です!ここまで、お付き合いいただき、ありがとうございます!明日も、お付き合い、よろしくお願い致します!~」

【前話のあらすじ:次期村長候補として、国の制度を利用して、王都で勉学に勤しむレイ。シレハ村のために、そして自身が世界に名を刻むために、レイは、本を読み漁るのであった.....】

俺が血眼になって、情報の海から掬い上げようとしていたのは、この世界の「物理法則」と「魔法エネルギー」が交差する、目に見えぬ接点だ。  

簡単に言うと、仮に、前世の科学知識をそのまま持ち込んでも、この世界では致命的な不具合が生じる。

なぜなら、ここには「魔力」という、既存の熱力学やニュートン力学を軽々と捻じ曲げる、未知の変数が常時存在しているからだ。  

植物の成長速度、土壌中の微生物の代謝効率、水分の毛細管現象。

それらすべてに、空気中に漂う魔力の磁場が干渉し、その性質を根本から変質させているのである。

(……見えてきた。この世界の『慢性的な不作』の正体は、単なる栄養素の枯渇ではない。魔力が地中に不自然な渦を巻いて滞留し、それが土壌粒子を魔法的に、分子レベルで『硬化』させてしまっているんだ。これを解消するには、現代農業における『深耕』や『堆肥の投入』だけでは物理的に不可能だ。物理的な撹拌に加えて、魔法的な磁場を打ち消す『中和放電』、あるいは『共鳴粉砕』の工程が不可欠になる……)


俺は、王都の農作業目録の内容と、前世で母から借り受けて、読み耽った「現代農業白書」や「土壌微生物生態学」の知識を、脳内で高速で融合させていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

現代農業の根幹は、土壌組成の厳密なバランス管理にある。  

窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)。

この「肥料の三要素」という概念は、この世界ではまだ神話の向こう側の話だ。

しかし、俺がシレハ村の荒地に鑑定(S)を使った結果、この世界の魔力特性はこれら三要素と驚くほど密接に、かつ幾何学的にリンクしていることがわかった。  

たとえば、この世界で「不吉な残滓」として忌避される『火の魔石』の廃材粉末は、適切な魔導処理を施せばリン酸成分を爆発的に活性化させる強力な触媒となり、『水の魔石』から抽出した特殊な残渣は、空中窒素を固定する微生物の活動を、魔法的なブーストによって数千倍、数万倍にまで加速させる。

ちなみに、『火の魔石』や 『水の魔石』というのは、魔法アイテムの一種で、詠唱した術式をあらかじめ埋め込んでおくことで、自動で、該当魔法の術式が発動するという代物だ。

加えて、一般的には、貴族の邸宅や戦争に使用されることが多いため、高額なのが特徴だ。


(これだ……。前世の『化学肥料』の理論を、魔導触媒というこの世界固有のエネルギーによって代替・超越する。そうすれば、あの不毛なシレハの荒地は、一季にして王領の特級農地さえも塵芥に見えるほどの、肥沃な大地へと生まれ変わるはずだ....)


村長に俺が就任するのは、もう少し先だろう。というのも、次期村長候補は、原則、現村長が死ぬまで、村長になることはないからだ。

俺は、『賢者の書館』に通い詰めた。

図書館の一階から五階まで、計三万冊を超える蔵書をすべて完読し終えた時、俺の頭の中には、村を救うための「シレハ村・強化計画」が、完膚なきまでの解像度で構築されていた。

無論、「計画」である以上、状況や環境に応じて、変化・適応させる必要はあった。

しかし、それ以上に、俺の頭の中には、シレハ村に施したい”こと”が星の数ほど渦巻いていた。

すべてが、俺の描いた完璧なシナリオ通りに進んでいる—―そう確信していた矢先だった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

滞在先の宿舎に、村で見かけた鼠族の子供、ロブが、血の気が引いたような沈痛な面持ちで訪れた。

ロブの表情を見た瞬間、俺の強靭な心臓が、かつてない不吉な鼓動を打ち始めた。  

手渡された手紙。

封を切る指先が、微かに震える。

送り主はニーナ。

乱れた筆跡、所々が涙で滲んだその文面は、俺の明晰な思考を、一瞬にして凍てつかせた。

『レイ、ごめんね。オルヴァンおじさんが、倒れた。冬の急な冷え込みで肺を痛めて、もう、意識が混濁してる。……お医者様も、匙を投げたの。レイ、お願い。一目だけでも、会って.....早く帰ってきて。』

視界が、一瞬だけぐらりと大きく揺れた。  

俺は即座に荷物を掴み、王都を飛び出した。  


村へ向かって全速力で駆ける馬車。  

その揺れの中で、俺は静かに、窓の外に広がる冷たく無関心な月を見つめていた。

ロブも、俺の心情を察したのか、何もしゃべらなかった。

悲しみで喉が張り裂けるほどに叫び出したい、そんな感情ではなかった。

ただ、あの温かい、土と草の匂いが染み付いた大きな手が、もう二度と俺の頭を撫でてはくれない。

名前を呼んでくれることもない。

その絶対的な事実が、重く、静かに俺の心臓の肉を削り取っていった。  

オルヴァンは、優しすぎたのだ。

村人たちの小さな悩み事さえ自分の痛みとして背負い、自分の体の不調など、村の平穏の前では常に後回しにしてきた。  

彼は、俺という「得体の知れない異物」を拾い上げ、俺がこの過酷な村の未来を真に背負える強さを手に入れるまで、必死に、削り取られるような思いでその命の灯火を繋いでいてくれたのではないか。

そんなことを考え始めると、余計に心臓が軋んでいくようだった

(……待っててくれ、父さん。父さんの愛したシレハの村は、俺が、俺がこの手で必ず、世界中の神々さえも嫉妬するような、幸福に満ちた楽園に変えてみせるから。だから、まだ逝かないでくれ……)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

しかし、俺の願いが天に届くことはなかった。  

シレハの村に辿り着いた時、オルヴァンはすでに、永遠の安らぎの中へと眠りについていた。  

冬の入り口の、穏やかで風ひとつない、そんな時分に、穏やかな笑みを浮かべて、眠ったらしい。

オルヴァンの眠った顔は、深い皺が伸ばされ、なんだか肩の荷が下りたような、そんな表情を浮かべていた。  


葬儀には村人全員が参加した。老いも若きも、男も女も、皆、涙をこぼしていた。

オルヴァンがいかにこの村の土を愛し、人々を慈しみ、そして頼りにされていたか。

広場を埋め尽くす白い花々と、絶望に沈んだ人々の表情が、それを無言で、けれど鮮烈に物語っていた。


ニーナは、俺の姿を見つけるなり、これまで必死に堪えていた感情の結界が決壊したように駆け寄ってきた。

「レイ……! ごめん、私……私がもっと早く気づいてあげていれば……っ! ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「……いいんだ、ニーナ。ニーナのせいじゃないから......オルヴァンは.....父さんは……最後、苦しまなかった?」

「うん……。『レイなら、もう大丈夫だ。あいつは、私の自慢だ』って。……優しそうに微笑んでた……」  

俺はニーナの、小刻みに震える肩を、そっと抱き寄せた。  

誰かがそばにいないと、泣きそうだった。今、きっと、一人でいたら、俺は泣いてしまう。

そんな確信があった。  

村長。

その重みが今は、苦しいほど重くのしかかっていた。

村人を束ねる、そう思っていた。

村人を背負う、それがあるべき村長の姿だと思い知らされた。

悲しみに身を委ねる贅沢な時間は、今の俺には、一秒たりとも許されないように思えた。 

俺が歩みを止めれば、オルヴァンが、父さんが、その一生をかけて守り抜こうとした、この村の鼓動が止まってしまうから。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その日の夜。

俺はオルヴァンの書斎—―今日からは、俺がこの村の運命を操舵する執務室となる場所—―へと足を踏み入れた。  

古びた木の机の上には、彼が倒れる直前まで、書き続けていた村の備蓄記録が、そのままの形で置かれていた。  

俺はその記録を静かに引き継ぎ、自身の王都で学んだことを注ぐことを決意したのであった。

(父さん....僕が父さんの想いも、背負っていくよ....)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【今話の極小情報】:種族について。種族ごとに、魔法・武術・技術について、”相性”のようなものが存在する。例えば、「エルフは風魔法や弓術に優れている者が多い」とかドワーフは「鍛冶に優れている者が多い」といった具合。種族は、人族、エルフ族、ダークエルフ族、竜人族、魔族、ドワーフ族、オーク族などがいるが、最も面倒な種族は、獣人族である。何が面倒かというと、いわゆる、”族”が多いのだ。多すぎるがゆえに、主な”族”の名称だけ列挙しておこう。犬族、鼠族、狼族、熊族、獅子族、虎族、巨人族、黒猫族、鳥族、鯱族、海豚族、白猫族、小人族....etc。 種族特徴はまたその都度ということで.....

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【お読みいただきありがとうございました!】


「ここをもっと詳しく知りたい!」などの感想や、誤字脱字の報告(あれば……!)など、気軽にいただけると嬉しいです。

続きが気になった方は、【ブックマーク】や【評価(★)】で応援していただけると、めちゃくちゃ執筆の励みになります!


次話は、いよいよ「内政チート」が動き出します。

レイがどう村を変えていくのか、楽しんでいただければ幸いです。


【ふっと二言:

設定を詰め込みすぎて、極小情報のコーナーがだんだん本文を侵食し始めています(笑)。

せっかく書き溜めたので、明日も一気に5話分くらい更新しちゃおうと思います。

もしよければ、明日も覗きに来てください!】


~明日(1/20)も、時間は未定ですが、準備ができ次第ガシガシ投稿していく予定です!

もしよければ、明日もお暇な時に覗きに来てください!~


どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ