#4:今は、ただ、努力しなければ……
「引き続き、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!」
【前話のあらすじ:ついに500人もの盗賊をたった一人で殲滅したレイ。その功を以て、レイは10歳にして現村長であり自身の養父でもあるオルヴァンから、次期村長に指名されるのであった……】
冬の足音が微かに聞こえ始めたシレハ村に、柔らかな陽光が降り注いでいた。
数日前、シレハ村に押し寄せた500人の盗賊が、一晩のうちに跡形もなく消え去った。
その事実が村の空気を心地よい穏やかなものへと変えていた。
そんな中、次期村長に指名されたレイに、大きな転機が訪れようとしていた。
王都外の村々の次期村長候補を対象とした、王都での学習期間の提供である。
これは、貧しい村と豊かな村の情報の格差を埋めることで、国全体の統治能力を底上げしようと、王家が設けた、唯一の実利的な慈悲政策だった。
例えば、シレハ村のように、貧しく、本すらない村は、幾つもあり、そんな村々では、村長としての統治能力を養うことは困難だった。
王都への移動費、滞在費用を国が負担し、さらに、王都の大図書館『『賢者の書館』への入館許可を得ることができるというこの制度は、豊かな村の次期村長候補まで、この制度を利用するほど、充実した制度だった。
前世は、病室で、白く冷たい無機質な天井を一日中見つめながら、命の灯火を削るようにして本を読み、知識だけを唯一の武器として詰め込んできたレイにとって、これほどまでに心躍る招待状は存在しなかった。
出発の朝、村の入り口はまるでお祭りのような賑わいを見せていた。
「レイ、無理しちゃダメだぞ。王都は広い。悪人も、たくさんいるはずだ。困ったことがあったらすぐに手紙を書くんだぞ」
オルヴァンが心配そうにレイを見つめる。
「……それと、おまえの大好きな干し肉も、昨晩のうちに私が一番良い部位を選んで仕込んでおいたからな」
そう言って、オルヴァンは、使い込まれた皮の食料袋を、俺の手に握らせる。
オルヴァンは、別に、前世の物語に出てきたような特別な力を持った賢者でも、かつて戦場を駆け抜けた伝説の英雄でもない。
いつも温厚で、争い事を嫌い、土の匂いを愛し、血の繋がらない捨て子の俺を、実の息子以上に慈しんで育ててくれた、心優しい「父さん」だった。
「わかってるよ、父さん。そんなに心配しなくても、必要な知識を吸収して、立派な次期村長になれるように精進するから。それに、村の冬支度も気になるし、王都の華やかさにあてられないように、時々、こっちに帰ってくるからさ!」
オルヴァンは困ったように、眉を下げて笑った。
「おまえは昔から賢いからな。だがな、レイ。おまえは、少し根を詰めすぎるところがある。王都では、勉強だけをせず、ちゃんと夜は寝て、栄養のあるものを食べるんだぞ。おまえが元気でいることが、わしにとっては何よりの喜びなんだからな」
オルヴァンは、俺の頭を大きな、節くれ立った温かい手で何度も、何度も撫でた。
心地よい温もりが、手のひらから伝わってくる。
「父さん....」抱きついた俺を、オルヴァンはやさしく抱きとめた。
本当の父ではない。
それでも、オルヴァンは俺の「父さん」だった。
「ちょっと! レイ! 待ちなさいよ!」
馬車に足を乗り込もうとした時、鋭い声が響いた。
幼馴染のニーナだった。
俺と同い年、11歳になったばかりの彼女は、快活な少女で、人族でありながら風のように野山を駆け回り、大人顔負けの脚力を持っている。
「まだ、朝早いぞ……」
「うっさいわね!わざわざ、見送りに来てあげたんだから、王都の面白い土産話、最低でも100個、やっぱり、1000個は用意しておきなさいよね! あと……これ、受け取りなさいッ!」
ニーナが、俺の手に不格好な青い紐を巻き付けてくる。
どうやら、ミサンガのようだ。
「王都で寂しくなった時に見なさいッ!私が一晩中、指を何回も刺しながら、痛いの我慢して作ったんだから。絶対、変なところに置き忘れたり、なくしたりしないでよ!」
「……ありがと。大切にする。それから、父さんのこと、頼んだぞ」
「任せなさい! じゃあね、次期村長様! たまには顔を見せなさいよッ!」
ニーナの大声と、オルヴァンの穏やかで、そしてどこか哀しげな眼差しに見送られ、俺は、王都から派遣された馬車へと乗り込んだ。
車窓から徐々に小さくなっていく村の景色を眺めながら、俺は腕に巻きつけられたミサンガに触れる。
鮮やかな青色。
「シレハ村を"幸せ"にしなきゃな……」
エルメリア王国の王都、セント・エルメリア。
数千年の歴史を積み重ねたその都市は、石畳が整然と敷き詰められ、魔法の灯火が夜をも昼に変えている。
立ち並ぶ店の華美な装飾。流行の最先端を走る服を纏った貴族たち。
そんなものに、心が動くことはなかった。
『賢者の書館』。
華やかな装飾が施されながら、どこか古めかしさを感じさせる造り。
こうして、俺の王都での生活が始まった。
朝一番、開館を告げる重厚な鐘が鳴ると同時に館内へ飛び込み、閉館を知らせるベルが鳴るまで、一歩も外に出ない。
食事も睡眠も最小限。
父さんには悪いが、やっぱり、知らないことを知る時間が、俺は好きだ。
多分、「特殊スキル」などという類のものを所持していたわけではない。
ただ、前世で動かない不自由な身体を抱え、ただ脳の機能だけを極限まで、酷使し続けた結果だと思う。
パサッ、パサッ、という微かな音が等間隔で響く。
1頁、1秒にも満たない。
読んでいるという感覚より、脳に、完全なデータとして、取り込んでいるような感覚だった。
「おい、見ろよ。あの辺境の泥臭い村から来たガキ……。また、無茶苦茶に頁をめくってるぜ!どうせ、1文字も理解できてないぜ! 本の重さを量りに来たにちげぇねぇ!」
「ああ。あれは、見栄を張っているだけだろう。僻地の村長候補など、自分の名前が書けるだけでも奇跡だというのに。高度な魔法理論の棚に居座るなど、滑稽を通り越して哀れだな……」
代々続く名家出身の令嬢たちや自身の才能を吹聴する令息の嘲笑など、どうでもよかった。
今日も、雑音は、俺の耳を左から右に抜けていった。
シレハ村を、"幸せ"にする。
そう思えば、知識を詰め込むのは、もっと楽になった。
(今は、ただ、努力しなければ……)
―――――――――――――――――――――
【今話の極小情報】:国について。
この世界には、様々な種族がいて、多くの国が存在する。
人族の王が治める国が8つ、魔族の王が治める国が1つ、竜人族の王が治める国が2つ。
人族の王国の中でも、特に軍事において、レイの属するエルメリア王国は最弱。
豪華な装飾に隠されがちだが、エルメリア王国は圧倒的に、内政も乙っていて、軍事は既に最底辺である。
いわば、”飾る”ことに、財を投じている、”オワコン国家”である……
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、「別れ」です……
ふっと二言:「筆者が、脳を酷使しても、露ほども記憶できませんが、レイは違うようです……ちょっと哀しいです……」
~これからも、応援・お付き合い頂ければ、幸いです!~
—―—―—―—―【他作品もよろしければ!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
—――・『神々の審判ー選定された最強の「駒」は、五度目の「今世」、「神」を屠るー京亮ver』
「そろそろ、終わらせようか?神々の遊戯。会いたい人がいるんでね」
理不尽な運命を、圧倒的な力で覆す!
【無双×成り上がり×転生×最強×ゲーム】—―「普通」を演じることを辞めた俺の叛逆の先には!?
―――
・「一生を病室で終えた俺、呪いが解けて、天下獲る~貧村に捨てられたけど、"最強"に魔改造します~ 」
「俺だけが自由なんて意味ないよ。天下も自由な場所にならないとさ」
不自由だった前世を、自由を得た今世で破壊する!
【戦×無双×成り上がり×領地経営】 —―自由を得た俺の天下取りの果てには!?
⇧※本作です。これからも、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!




