#2:さあ、狩りの始まりだ....
【前話のあらすじ:現代の知識と最強のステータスを持って異世界に転生したレイ。平穏な村での暮らしは、500人の盗賊の襲来によって終わりを告げる。】
陽光がシレハの村を不機嫌に照りつけていた、ある日の昼過ぎのことだ。
空はどこまでも高く、澄み渡っているというのに、この地に流れる空気だけは、湿り気を帯びた粘りつくような熱を孕んでいた。
村の境界に位置する、原生林の鬱蒼とした影が広がる『黒岩の森』。
その『黒岩の森』から、一人の村人が、まるで獣に追われる手負いの獲物のように転がるようにして走り込んできた。
彼は広場の中心で膝をつくと、喉を掻き切るような掠れた声で、魂を振り絞るように絶叫した。
「盗賊だ……ッ! 黒岩の森の奥、あの忌々しい根城から、奴らがここを目指して動いているぞ! 武器を持っている! 略奪だ、皆殺しにするつもりだぞ!」
その声がシレハの村に響き渡った瞬間、平穏という名の薄氷は粉々に砕け散った。
人口わずか五十人。
細々と、けれど懸命に大地を耕して生きるこの小さな共同体にとって、「500」という数字はもはや相手にすらならなかった。
それは、一方的な蹂躙であり、抗いようのない死神の鎌そのものだった。
「静かにするのじゃ! 慌ててはならぬ!」
村長であり、俺の養父でもあるオルヴァンのしゃがれた声が広場を圧した。
彼は、年老いていたが、その分、彼の言葉には長年この過酷な地をまとめてきた重みがひしひしと感じられた。
「10歳以上の男子は全員、広場へ集まるのじゃ! 急げ!」
集まったのは、俺を含めてわずか20人ほどだった。
10歳の子供から、腰の曲がった老人まで。この20人で、10倍以上もの盗賊を迎え撃たねばならない。
広場に集まった男たちの顔には、一様に死の影が差し、握りしめた鍬を握る手は、隠しようもなく震えていた。
即席で行われた会議は、絶望と怒りが入り混じり、いつしか怒号や恐怖を体現する場へと変わりつつあった。
「徹底抗戦だ! 農具を持って、一人でも多く道連れにするしかない!」
「無理だ! 相手は戦慣れした人殺しの集団なんだぞ! 隣の村に、あるいは大村長に援護を頼むんだ!」
「馬鹿を言うな! 隣の村まで走って、援護が来たって、焼け石に水だ!きっと、俺たちは全員首を撥ねられて、女子供は攫われちまう!」
怒号が飛び交い、思考が停止し、ただパニックだけが増幅されていく。
その喧騒の中で、俺—―10歳のレイは、一人だけ冷めた頭で状況を俯瞰していた。
前世の病室で、俺は何万回も戦史を読み、兵法を脳内でシミュレートしてきた。
戦いとは、数だけで決まるものではない。
情報、心理、地勢。それらを支配した者が、最後に勝つのだ、少なくとも俺はそう思っていた。
俺は、震える男たちの輪の中で、静かに声を上げた。
「……落ち着きましょうよ....まず、無意味な抵抗はやめた方がいいと思います。奴らが来たら、全員、素直に捕まるんです」
沈黙が流れた。
それは驚愕というより、絶望を超えて、呆れに近いものだった。
「何を言っておるんじゃ、レイ! 捕まれば殺されるか、良くて一生家畜のように扱われる奴隷にされるだけじゃぞ!」
代表してオルヴァンがそう叫ぶが、レンは冷静に答えた。
(ついに、前世で夢想した幾重もの戦術や夢にまで見たこの5年間の鍛錬の成果を試せる時が来たのだ.....この機会を逃すわけにはいかない....)
「いいえ、父さん。500人の盗賊を相手に、今の僕たちが正面から戦っても、一分も、もたずに犬死にするだけです。それは勇気ではなく、ただの無謀です」
オルヴァンの目を、真っ直ぐに見据える。
「隣の村の援護を待ったとしても、結果は変わりません。ですが、死ななければチャンスはあります。奴らも最初から皆殺しにするつもりはないはずです。略奪が目的ですから、運ぶ荷物や、後で売り飛ばすための『商品』として、私たちは生かされるはずです。とにかく今は、人命を優先すべきです」
「だが、それでは……!」
「僕に考えがあります。父さん、この村を、そして皆を守るために、一度だけ……僕を信じてくれませんか...?」
オルヴァンは、レイの瞳に宿る、到底10歳児とは思えぬ、威厳に満ちた態度に賭けようと思った。
座して死を待つよりはましではないか、そう思ったのであった。
オルヴァンは、数秒の沈黙の後、深く、長く、肺の底にある空気をすべて吐き出すように溜息をついた。
「……わかった。皆、レイの言う通りにしよう....物資は倉庫に隠せ。奴らが来たら、抵抗の意思がないことを示すんだ。……レイ、わしらの命をお前に預けるぞ」
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夕刻。シレハの村を、沈みゆく血のような夕日が赤く染め上げる頃。
地響きと共に、下卑た笑い声と荒々しい軍靴の音が村に雪崩れ込んできた。
略奪の始まりだった。
盗賊たちは、まるで獲物を見つけた飢えた狼のように、民家を次々と破壊し、蓄えていたわずかな食料や家財道具を放り出していく。
村人たちは次々に、村のはずれにある墓地で頑丈な縄を打たれ、冷たい地面に座らされていった。
「ぎゃははっ! 案外簡単にいったぜぇ! 辺境のゴミ溜め村は、骨抜きにされた家畜ばっかりだな!」
「おい、このガキ共、王都の奴隷商に売ればいい値になるぞ!」
「騎士団が来るまであと数日はかかる。それまでここを拠点に好き勝手やらせてもらおうじゃねぇか!」
広場の中央には巨大な焚き火が焚かれ、盗賊たちは略奪した酒を煽り、気勢を上げていた。
レイは木によじ登り、広場の中央の盗賊たちを見渡せる位置につくと、脳内で静かにシステムを起動させた。
(—―『探索(A)』、および『鑑定(S)』、同時発動)
視界が瞬時に切り替わる。
網膜に走るブルーの幾何学模様が、暗闇を透かし、壁を透かし、そこに存在するすべての「情報」を可視化していく。
探索(A)によると、どうやら村に押し寄せてきた盗賊たちは300人ほどで、残りの盗賊たちは、黒岩の森の砦で待機しているようだった。
鑑定(S)は、盗賊たち全員の上にランクと数値を表示し、さらには彼らの心の奥底にある「利害関係」までも、複雑に絡み合った糸のように浮き彫りにした。
(……やはりな。五百人という数は脅威だが、中身はボロボロだな....所詮は烏合の衆だな.....一枚岩じゃないどころか、常に互いの背中を狙い合うような不信の衆の集まりだな....)
レイの鑑定眼が、その勢力図を正確に切り出していく。
頭目カルー。
筋骨隆々とした大男で、斧を背負っている。彼の派閥は70人。
副頭目ベイリー。
細身で狡猾そうな目をした男。彼の派閥は50人。
さらに、小柄だが敏捷そうなドッスの派閥が40人。熊のような体躯を誇るジョルジの派閥が40人。
そして、それ以外の約100人は、金や恐怖で繋がっているだけの無派閥の荒くれ者たちなようだった。
(カルー、ドッス、ジョルジの三人は、昔からの付き合い.....だが、副頭目のベイリーは頭目の座を狙っているようだ....彼は無派閥の連中を言葉巧みに抱き込もうとしているが、カルーたちはそれを不快に思っている……。そしてカルー派は個人の実力が高い「質」の集団だが、ベイリー派は数で対抗しようとしている。……これほど崩しやすい壁もないな.....)
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夜が更け、宴の喧騒がピークを過ぎる。
数多くの略奪した酒で泥酔した者たち。
今や、広場の見張りは、極度の油断によってスカスカになっていた。
俺は、亜空間魔法(A)の亜空間から、前世の知識を元に自作した、槍を取り出した。
【槍(D級):ボロい。多少、壊れにくい。】
鑑定しても、御覧の通り、あまり出来栄えはよくない....
が、盗賊ごとき、この程度の武器があれば十分なのだ!
「……『隠蔽(C)』」 そう呟いた(別に呟かなくてもいいんだけど、なぜか呟いてしまった....)。
自分の気配が、音も、体温も、存在感すらも夜の闇に同化したように消え失せていく。
最初のターゲットは、黒岩の森の砦—―盗賊たちの本拠地に残る連中へ「村を占拠した」と知らせに行こうとしていた伝令の男だ。
彼は村の入り口付近で馬の準備をしていた。
「へへっ、俺だけ一足先に砦の酒を……」
しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
死角から滑るように近づき、彼の背から槍で一気に貫く。
地面に倒れる衝撃音を生じさせないために、絶命した彼の身体を、そのまま『亜空間』へと収納する。
死体も、血痕も残さないように細心の注意を払う。
次に、広場の外縁で見張りに立っていた無派閥の男五人。
彼らは焚き火の方を向き、仲間の宴を羨ましそうに眺めていた。
「クソッ、俺たちも早く代われよな……」 その呟きを合図に、俺は動いた。
(さあ、狩りの始まりだ....)
体術(A)による爆発的な踏み込み。
一人目の首元を斬り、二人目の心臓を貫き、三人目と四人目が声を上げる前に、その頭を激突させて脳震盪を起こした上で頸動脈を斬る。 最後の五人目が振り向いた瞬間には、俺の槍が彼の眉間に埋まっていた。
そして、五体の死体もまた、絶命と同時に亜空間へと消していく。
広場には、ただ静かな夜風が吹き抜けるだけだった。
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【今話の極小情報】:集落の規模について。村→大村→町→大町→区→大区→市→大市→領→大領→国の順で規模が大きくなり、各規模に、村長、大村長、......大領長、国王というように、とりまとめの「長」が存在するのだ。村5つで大村になるため、大村には、村長4人と大村長1人がいるわけだ.....
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【お読みいただきありがとうございます!ついに、次話は、レイの無双回!!
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