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九頭竜倫人、再びの記者会見。


 7月10日、金曜日。

 花の金曜日とはよくも言ったもので、誰もが休日への期待に胸を膨らませるのが普通だ。

 だが、都内にある某ホテルの一室に詰めかけたマスコミは、休日に抱くそれとは全く別の期待に胸を膨らませている。

 これからここで開かれる記者会見、それがあまりにもセンセーショナルな()()になるからだ。


「あっ……!」


 誰かがそうやって声を漏らしたのが聞こえたのと同時に、眩いばかりのフラッシュが焚かれる。

 パシャパシャカシャカシャ、各マスコミがこぞって一斉にシャッターを切る音が会場を埋め尽くす中で、全員の注目はこの俺──九頭竜くずりゅう倫人りんとに向けられていた。

 スーツ姿に身を包んだ俺はマスコミの皆様に向かって一礼をすると、自身の席に向かった──()()()()()()()()

 その様に、明らかにマスコミの動揺の声が聞こえて来た。

 とは言え無理もない。マスコミがイメージしていたのは、車椅子に乗った姿の俺だったはずだ。

 それがまさか、松葉杖も使わずに自分の足で立つだけでなくまともに歩くだなんて誰も想像も予想もしていなかったことだろう。


「……ふぅ」


 自らの席に座ると、誰にも聞こえない声量で俺は溜息を漏らす。

 俺自身、先月に続いて今月も記者会見をするだなんて思っていなかったが、ある意味では今回の方が少し面倒そうだと思ったが故の溜息だった。

 何せ……未だに自分自身でも信じられないんだから。今のこの状態が……()()()()()()()()()()()


「皆様、本日はお越し下さり誠にありがとうございます。【アポカリプス】の九頭竜倫人です」


 席に座ったまま自己紹介をして深々と一礼、再びフラッシュが大量に焚かれた。

 しかしもう慣れたもので。礼を止めると顔を顰めることなく真剣なものにして、俺は手っ取り早く本題に入った。


「本日、私がこうして記者会見を開かせて頂いたのは、皆様に重要なご報告があるからです。単刀直入に申し上げますと……右足に負っていた複雑骨折等の症状が完治しました。そして7月10日の今日、私は退院する運びとなりました」


 論より証拠、先ほどその目で見たのだからいちいち言う必要もなかったかもしれないが、それでも説明責任ということで俺は今の自分のことをしっかりと言葉にして伝える。三度みたび、フラッシュと共にどよめきが沸き起こった。

 誰もが信じられないといった顔をしている。そりゃあそうだ。前回の記者会見で俺はハッキリと右足の複雑骨折や筋肉断裂等の状態を告げ、さらには全治には半年間かかり、その間は活動を休止するとまで言ったんだ。

 それが、たった1ヶ月程度での退院。ともなれば誰だってあんな顎が外れそうなくらいの驚き顔をするに決まってる。というか本当に外れてしまって必死に治そうとしてる人もいるけど大丈夫か?


「先月開かせて頂いた記者会見で、私はハッキリと皆様にお伝えしました。右足の複雑骨折等により全治半年間、さらにはその間【アポカリプス】としての活動も休止する、と。しかしながら、私はこうして治りましたので、まずそれを撤回させて頂きます。私は……九頭竜倫人は、明日から【アポカリプス】の活動を再開致します」


 まだまだ驚いている中で申し訳なかったけど、俺は淡々と二の矢を飛ばす。またも顎が外れた人が増えた。

 退院直後は流石に様子見……かと思いきや、まさかの翌日からの活動再開。その事実を今更ながらに理解したマスコミから時間差でどよよっとした声が上がっていた。

 今エゴサしたらどうなってるんだろう……いかんいかん。油断したら入院生活ですっかりと染みついてしまった"ツブヤイタラー"根性が働いてしまう。記者会見(これ)が始まる前に「本日 重大発表があります」っていう呟きの反応も見たい気持ちが蘇って来そうだ。しばらく考えないようにしておこう。

 ともかく、記者会見はまだ終わってない。ここからが、面倒臭い時間だ。

 そう……マスコミとの火の玉豪速球でよキャッチボール、質疑応答の時間だ。


「皆様ご静粛にお願い致します。では、ここからは質疑応答の時間とさせて頂きます。ご質問のある方は挙手して頂きますと、係の者がマイクを持って伺います。その際、お名前と媒体名を仰ってからご質問をお願い致します』」


 今回は俺の隣にではなく、司会進行役として離れた位置にいる支倉はせくらさんの声が会場を通り抜けると、一斉に誰もが挙手をしていた。

 まぁ、そりゃそうだよな。あの時以上に信じられないような内容だもんな今回の記者会見。こうなることは予想済みだったが──


「では、まずはそちらの方、お願いします」


「どもども~''週刊しゅうかん春文しゅんぶん"の~文野ふみのはじめと申します~」


 流石にこれは予想出来るか!

 まさか最初の相手がこの場にいるマスコミの中で一番厄介なこのオッサンって……かなりキツいんだけど。と、不満の視線を支倉さんに一瞬送るも、マスコミから見えない位置で親指立てて謎のドヤ顔をしてきやがった。チクショーめぇー!

 いや、逆に考えると最初の内にこのオッサンの相手を済ませておけば、後はもうヌルゲーということの裏返しか? あのドヤ顔には「信じてるぜ、倫人!」と言ったメッセージが込められているようにも思えるし……何はともあれやるしかねえ!

 かかって来やがれ春分砲! わざわざ"ツブヤイター"で裏アカ作って、俺の悪口言ってたアンチと論戦を繰り広げることで鍛えられたレスバ力見せてやらぁ!

 

 心の中では舌を出してファッキューの念を込めて中指を立てつつ、文野さんに真剣な眼差しを俺は向けていたのだった。



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