俺の気持ち、俺の決意。
俺は九頭竜倫人
日本で名実共に全てのアイドルの頂点に立つ"日本一のアイドル"【アポカリプス】のメンバーの1人だ。
神に選ばれた、あるいは神に愛されたと言う他にない超絶端正なルックスを生まれ持ち、それを最大限に生かせるアイドルという職業は俺にとって天職と言わざるを得なかった。
数あるイケメンの中でも粒揃い、珠玉ともされる他のメンバーを押さえ、俺は【アポカリプス】における不動のセンターを務めている。だが、俺は仲間を見下したことなど一度もない。
イアラも、鬼優も、ShinGenも、東雲も、誰もが"日本一のアイドル"と呼ばれるに相応しいルックス、実力、そして心を持っている。
……それでも。特に"日本一のアイドル"という呼称は、俺に──九頭竜倫人に対して使われている。その理由は偏に"圧倒的に神々しい"からだそうだ。
見飽きてしまった自分の顔は見る者全ての心を掴みどころか、神が目の前に現れたが如く光に包まれていて目を離せないらしい。
ファンの中だと反応は二分される。発狂するか号泣して崇めるかのどちらかだ。どのみち俺の顔は良い意味での顔面凶器を超え、顔面神器と例えるべき超イケメンフェイスだった。
しかし、それだけでは圧倒的がつくほど神々しいとは言えない。
であれば、他の要因とは?
そう問われた時、誰もが口を揃えてこう言う──「倫人様は、いつだって倫人様でいらっしゃる」と。
世間が抱く"九頭竜倫人"のイメージは、【いつ如何なる時も全力のパフォーマンスを見せ、その輝きで見る者を照らし、輝かせる】というものだ。
それが超満員の国立競技場であろうとも、それが地方営業のショボい市民ホールであろうとも、''九頭竜倫人''は全身全霊を魅せる。
確かに俺は、いつだって全力のパフォーマンスをして来た。手を抜いたことは、記憶の限りでは一度もなかった。
俺自身、特別意識してやっていることじゃない。毎回頑張ろうとスイッチを入れる時はあるが、特別感情を高めるようなことはしていない。
ただ俺は……もしもこの場にあいつがいたら──そう思って、いつもパフォーマンスをやっているだけに過ぎなかった。
俺にはただ1人の幼馴染がいる。
そいつは物心ついた時から一緒にいて、常に俺の隣にいた存在で。
そして……笑うことよりも、泣くことの方が多かった。
幼かった俺は、そいつが笑顔になってくれる方法を必死に考えた。変顔したり、テレビで見たお笑い芸人の真似をしたりとか、子どもなりに精一杯頑張った。
そうすると、そいつは笑ってくれた。泣いている時の顔ももそれはそれで可愛らしかった。俺と同じように、そいつは生まれついての神に愛された容姿の持ち主だったから。
それでも、泣き顔よりもやっぱり笑った顔の方が断然可愛かったのを俺は覚えている。子供の頃から忘れたことはない。
幼馴染──甘粕清蘭の笑顔を。
あの誰もが目を奪われる美少女足る清蘭は、確かに神に愛されていた。
けれども、一番愛して欲しかった人達に……両親に、愛されてはいなかった。どうして清蘭のことを愛さなかったのか、その理由は分からない。清蘭はただただ何も知らないまま、両親から愛されなかった。
ただ俺は、両親に見捨てられて泣いていた清蘭を笑顔にしてあげたかった。
それが俺のアイドルとしての原点だった。
今となっては清蘭だけじゃなく、泣いている誰かがいるのなら誰だって笑顔にしてあげたい。そんな願いが今の俺を……【アポカリプス】の''九頭竜倫人''を形作っている。
だが、運命とは残酷なものだ。
【アポカリプス】の''九頭竜倫人''として、"日本一のアイドル"として眩い輝きを放っていたこの俺が、全治半年間にも及ぶ大怪我を負うなんて想像も出来なかった。
神様ってのは本当に身勝手だ。
俺に人類を超越した容姿を与えたかと思えば、アイドルの活動が出来なくなる程の大怪我を負わせる。何なんだ全く、気まぐれすぎやがる。まぁ怪我を負ったのは半分自分のせいでもあるから、一概に神様とやらのせいにも出来ないんだけども。
ともかく、俺は"九頭竜倫人"としての活動が出来なくなった。
"九頭竜倫人"として、人々に希望や輝き
を与えることが出来なくなった。
ただただ人々が悲しみに暮れるのを眺めることしか出来ない日々は本当に歯痒かった。
入院生活は普段注目され続ける日々から解放されたこともあって最初の内はリラックス出来ていた……。が、それも長くは続かなかった。
俺は、誰かを笑顔にすることが自分の存在意義にもなっていたことに気づかされた。
誰かを笑顔にしないと 俺は……いてはいけないような気さえもした。
全く、誰のせいでこうなっちまったんだか。てめえのせいだぞ! と思わず文句をつけてやりたい。
年を経るごとにどうしようもないほど可愛くなっていって、同時に手がつけられないほどワガママで自分勝手になっていった、あの幼馴染に──。
だが……運命とは奇妙なものだ。
だって、泣き顔じゃなく笑顔にしてあげたくて俺はアイドルを始めたって言うのに。
昨日、俺が目の当たりにしたのは──俺と同じようにステージに立って、己自身の輝きで以て皆を輝かせていたアイドルとしての清蘭の姿だったのだから。
しかも。清蘭だけじゃない。
ほんの少しだけ、俺が背中を押した音唯瑠も。
真正面から、俺がその想いを断ったシロさんも。
直接この手で、俺が育て上げたエデンとエルミカも。
皆が、アイドルとしての輝かしい光を放って。熱を与えて観客を燃え上がらせていた。
とにかく、凄かった。
言葉で言い表すことすら出来ない、その圧倒的な輝きと熱は……俺の心に今でも確かに在る。
思い出すだけで、全身が熱を帯びて思わず駆け出したくなるほどの衝動に駆られそうになる。
そうして、気がつけば。
俺の足は、治っていた。
あり得ない。
そんな感情が湧く前に、俺は心の中心から全身に広がった熱を感じながら、思い出していたんだ。
清蘭達が魅せてくれた笑顔を。
清蘭達が魅せてくれた歌声を。
清蘭達が魅せてくれた踊りを。
清蘭達が魅せてくれた熱を。
清蘭達が魅せてくれた輝きを──。
その時、俺は自然と口角を上げていた。
胸の中に生まれたときめきは、どうしようもなくて止められずに。
ただ、俺は七夕の夜の煌めく星々を見上げて。その輝きに清蘭達の顔を思い浮かべながら……困った笑みをしていたんだ。
「……好きになる、ってこういう事なんだな」
胸の鼓動の高鳴りを感じながらも、俺は決意した。
清蘭
音唯瑠
シロさん
エデン
エルミカ
5人へ抱くこの熱い想いの決着は、今年中にしてみせる──と。