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【12345!】──『It’s Sunshine GO!』──⑥


 切実さすらも伝わってくるようなCメロを終えて。

 再び、5人が希望や明るさといったものが込められた笑みを観客に魅せると、それに伴って曲調も変化する。穏やかだったピアノソロは今や過去のものとなり、徐々にヒートアップしていく音色はステージを鮮やかに彩る七色のスポットライトと共に観客に無理やり分からせていた。

 いや……そのようなものがなくとも、今もなお涙を流している観客達は本能的に感じ取っていた。

 ここから、彼女達が自分達の持つ"輝き"を最高潮にしていくことを──。


「さぁ 行こうーーーっっっ!!」


 ほんの一瞬だけの静寂と暗闇。

 それらを光溢れる世界に変貌させたのは、5人の高らかなシャウトだった。喜びの産声、とでも言うべきその叫び声は会場の隅々まで駆け抜けて行き、興奮を暫し忘れていた観客の心に再び火を点けていた。 盛大な歓声。最後のピースが埋まると。清蘭きよら達5人の最高の輝きが、今まさに解き放たれていた。


「It’s Sunshine GO! 輝きになれるんだよ It’s Sunshine GO! 時代を創っていこう どんな時だってあなたは 自分らしさで進めるから」


 最初に歌ったサビとメロディーラインは同じだった。

 しかし、盛り上がりはその時の比などではない。清蘭達の魅力は完全に観客全員の心に火を点け、熱を溢れさせている。冷房が効いていることなど一切感じないほど、寧ろ真夏の炎天下真っ只中にいるような身体の熱に、観客は汗まみれになっていた。

 同時に、清蘭達もその端麗な顔に汗を浮かべている。それもそのはず、これまで清蘭達は全身全霊のパフォーマンスを続けて来たのだから。体力配分が分からず最初からトバしてしまう、デビューライブをする者にはありがちなそれだ。

 だが……清蘭達の流す汗は、爆速で繰り返す鼓動は、疲労から来るもの以上に。

 ただひたすらに、楽しさや嬉しさ、幸せという感情が溢れに溢れてどうしようもならなくなった結果だった。自分で止めることなど叶わず、寧ろ止めたくない。

 ずっとこの時間が続けば良いのに、とさえ思えるほどの衝動が全身を駆け巡っていたのだった。


「It’s Sunshine GO! 溢れてくる輝きで It’s Sunshine GO! 時代をぶっ壊しちゃおう 自分らしく輝けるから」


 これまでも前向きな歌詞で、調和の取れたダンスで、弾けるような笑顔で、観客を魅了してきた5人。

 最早、七色のスポットライトに照らされる必要もないほど、観客の目には彼女達の姿が虹色の輝きに包まれているように見えていた。

 【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】のように、寒気を覚え凍り付けにされたように身体が動かなくなる魅力ではなく。

 清蘭達のそれは、まるで太陽のように人々の心に熱をもたらしていた。

 そして、消えることのない眩しさと希望に満ちた"輝き"を──。


「It’s Sunshine Go!!」


 曲の終わり。盛大な締めのBGMと共に清蘭達はその声をどこまでも高らかに歌い上げた。この会場全体に、さらには星々の煌めく七夕の空にも届くようにと、精一杯に喉を震わせて。

 そうして、清蘭達── 【(イッ)(ツサ)(ンシ)(ャイ)(ンゴ)(ー!)】のデビュー曲、『It’s Sunshine GO!』は締めくくられた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 空に向かって人差し指を立てる。そんなシンプルな決めポーズも保てなくなりそうなほど、清蘭は疲弊していた。清蘭のみならず、音唯瑠(ねいる)も、白千代(しろちよ)も、エデンも、エルミカも、全員が同じ状態で。

 どう見ても誰もが明らかに肩で呼吸し、疲労の色を隠せずにいた。今にも途切れそうになる意識を繋ぐのがやっとで、他のことなど考えられそうにない……そのはずだった。


 ──鼓膜を、身体全体を震わす空間の轟きが伝わってくるまでは。


「……え?」


 必死に酸素を取り込む隙間を縫って、その疑問の声は漏れた。身体にビリビリと伝わってくるその空間の揺れも、耳を塞ぎたくなるくらいの大きな音も、どちらも正体が分からなくて。

 呼吸が整い始め、霞んだ視界がハッキリとしてくると……清蘭達は呼吸を忘れた。


「すっげええええぇえええええっっ!!」


「物凄くかっこいいし物凄く可愛かったーーーっ!!」


「ヤバひ! マジパネェ!! ホントのホントにマジパネェんだけど!!」


「スゴすぎるッッッ!! 圧倒的だッッッ犯罪的だッッッ!!」


「ンゴォォォォこりゃたまらンゴォォォォォォ!!!」


 観客から届けられる惜しみない拍手と歓声。

 誰もが手を動かして賞賛の音を鳴らし、誰もが笑みを浮かべて口々に感想を述べている。自分達を讃えてくれる言葉を、なんの躊躇いもなく言ってくれている。


「ッッッ〜〜〜!」


 突如、清蘭達の唇が震え出す。

 目の奥も熱くなり、呼吸が詰まりそうになる。

 再び、涙が込み上げてきたことで。

 ここはまだ、スタートラインに過ぎないと皆分かっている。音唯瑠も、白千代も、エデンも、エルミカも、清蘭でさえも。

 始まったばかり、だ。別に''日本一のアイドル''になれた訳でもない。本当に、初めの第一歩を踏み出しただけだ。

 それでも……これだけの人に。

 感動してして貰えた。

 笑顔になって貰えた。

 ──''輝かせる''ことが出来た。


 その紛れもない目の前に広がる事実(人々)に、清蘭達は抑えきれずに涙を溢れさせそうになる……が。


「みんなっ、改めて今日はありがとうーーーっっっ!!」


 声の震えを抑えきれないまま、観客に向かって清蘭が叫んでいた。


「あたし達、今日が初めてのライブで、今日まですっごくすっごく大変だったんだ! レッスンはキツいし、プロデューサーは色々と口うるさいし、学校では寝ちゃって先生に怒られるし……本当に色々大変だった! 正直、やめようかなって思ったこともあったんだ! プロデューサーにセンター向いてないとか言われたし!」


 特に内容など考えることなく、頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしていく清蘭。

 しかし、それに音唯瑠達が口出しをすることもなく。また、観客も清蘭の言葉に黙って耳を傾けていた。


「でもね、今日こうして皆にあたし達の歌を届けられて、本当に良かったなって今思ったんだ! 皆がそんなに笑ってくれて、喜んでくれて……本当にあたしは、あたし達は嬉しいっ!! 本当に本当に本当にっっ、ありがとうねっっっ!!!」


 嘘偽りのない、心からの笑顔。

 それを見せて、突然話し出した清蘭の言葉は終わった。

 オチも特に考えられたものなどでもなく、ありふれた感謝の言葉だった。それでも──次の瞬間には、再び先と同じような歓声と拍手が清蘭達を包んでいたのだった。

 歓声に包まれたまま、清蘭は隣を見る。

 自分と同じく、汗を止めどなく溢れさせながらも満面の笑みを見せる音唯瑠、白千代、エデン、エルミカがいて。

 もう、疑うことなどありえなかった。隣に立ってくれているこの4人は、自分と同じ……いやそれ以上に──大切な存在であると。

 

 最早、感謝の想いが溢れすぎて身体がウズウズしてくる始末。

 よって、清蘭は……さらに思いもしないことを発してしまうのだった。


「よっしゃーーーっ!! 今夜は寝かせないわよ皆ーーーっ!! 続いて2曲目いっくよーーーっっっ!!!」


「えっ!? 2曲目!? 待ってください清蘭さんっ、そんなのないですよ!?」


「ないなら今作れば良いじゃん! よーっし、そうと決まればタイトルはむがごご!?」


「決まってませんから清蘭先輩! 落ち着いてください! ライブはこれで終わりですので!」


「むー!! むむむーむむーむむ!!」


「あ、あははは! それでは皆さん失礼しましたデスーーーっ!!」


「失礼しましたっ! あ、あのっありがとうございましたっ!!」


「おぉ〜皆はけるの早いね〜。とゆーわけでじゃあね〜見に来てくれてありがとぉ〜〜」


 ありもしない2曲目を清蘭が敢行しようとした所で、その口をエデンが押さえて連行。

 その後に続いて音唯瑠とエルミカも退場し、最後はマイペースに白千代が締めくくっていて。


 そのコントぶりに会場からどっと笑いが溢れ出しつつ、こうして【(イッ)(ツサ)(ンシ)(ャイ)(ンゴ)(ー!)】のデビュー曲、『It’s Sunshine GO!』のデビューライブは終了したのだった。


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