【12345!】──『It’s Sunshine GO!』──④
「……」
清蘭達の魅せる輝きに、会場の誰もが熱狂する中。
その誰もがの中に、ただ1人だけ含まれない者は無言で彼女達のパフォーマンスを見つめ続けていた。
(確かに凄いな。初めてでここまでのパフォーマンスが出来たら上々だ)
冷静に感想を胸の中に抱きながらも、それを決して言葉にしたりはしない。そもそも、それも感想というよりかは分析に近かった。
他の観客は皆が総立ちで、彼だけが唯一立っていないのは未だに熱狂には至っていないことと理由はもう1つあって──まだ満足に立てる状態ではなかったからだ。
(音唯瑠の歌声は圧巻の一言に尽きる、白千代さんの柔和な笑顔は見る者を否応なく癒すし、エデンの男らしさと女らしさの融合も素晴らしい、エルミカはマジ天使ぶりに磨きがかかっているし、清蘭は……あの自己中がよくもまぁあそこまで皆とシンクロしたパフォーマンスを出来るようになったもんだ。皆、想像以上だ)
車椅子に座り前のめりになりながら彼は──九頭竜倫人は皆に意識を傾ける。手で顎を支え、何かを考え込んでいる時のような姿勢で、彼女達のパフォーマンスを分析していた。当然、身バレしないようにサングラスとマスクで対策はきっちりしてあった。
自分で思っていた以上に、清蘭達のパフォーマンスのクオリティは高かった。その証が、今のこの会場の熱狂であり、自分の胸に湧いてくる感慨のようなものでもある。
しかし、それでも倫人は一観客として、"日本一のアイドル"として、まだまだ清蘭達のパフォーマンスが【アポカリプス】に及ばないことを実感していた。【アポカリプス】のみならず、今日清蘭達よりも先にライブを行った【Cutie Poison】にも。
ただの九頭竜倫人としてはもちろん清蘭達のことは心の底から応援している。それでも"日本一のアイドル"の九頭竜倫人としてはそうはいかない。
彼女達の魅せる"輝き"がどのようなものなのかを見届け、"日本一のアイドル"である自分達にも届き得るものなのか見極める……。
(ここから先は体力もなくなってくる。その中で自分達の"輝き"を弱くさせず、さらに眩く光らせることが出来るかどうか……見てるぞ、皆)
倫人の目は観客とは思えない程の鋭さを宿し、清蘭達を真っ直ぐに見つめていたのだった。
サビ──CMで曲の宣伝がなされる場合には最も使われるパートで、人々の耳に残りやすい。
大抵は曲の中で一番の盛り上がりがある部分であり、アイドルソングにおいては花形と言っても良い。 これから清蘭達が歌うのはその部分だ。観客のボルテージ、期待がますます上がり、ともすれば最高潮というべき佳境。
それは裏を返せば、生半可なものは許されないということでもあった。これまでの熱狂を超える大熱狂、興奮を超える大興奮、それらを生み出さなければならない。これまで以上に心を揺り動かし、感動させなければならない。それが出来なければ興ざめという結末が待っている。
自らの体力の限界も近づきつつある中、そういったプレッシャーとも戦わなければならず。清蘭達の顔からは余裕がなくなり、遂には……笑顔が奪われる──
「皆あぁああぁあーーーっっっ!! いっくよぉぉぉおおぉおおおーーーっっっ!!!」
──だが。
音唯瑠、白千代、エデン、エルミカ。4人に等しく訪れようとしていた重圧は、清蘭の声によって吹き飛ばされていた。
ピアノソロが終わった時と同じような言葉で。同じような笑顔で。清蘭は皆に声を投げかけていた。どこまでも真っ直ぐに、前にいる観客の方を向きながら、汗を流しつつも楽しさがいっぱいに溢れ出しているその笑顔。
4人の顔に表れかけた不安は一瞬にしてなくなり、清蘭と同じような笑顔を浮かべることが出来たその時──5人全員で歌い出すサビが始まっていた。
「It’s Sunshine GO! 輝きを目指していこう! It’s Sunshine GO! 輝きに向かっていこう! どんな時だって太陽は 空のど真ん中にあるから」
飛び出すように前進しながら、"GO!"のタイミングで跳び上がる。拳も一緒に突き上げ、太陽を目指していることを意味するポーズ。
跳ぶタイミングも着地するタイミングも全くの同時で、5人の動きのシンクロ率はなおも完璧。しかしそれ以上に、5人の合わさった声のハモリが観客の耳を、心を満たしていく。5人それぞれが全く異なる声質を持つにも関わらず、全員同時の合唱では音程のブレもなく、見事な1つの声となっていて。
疲れた様子を見せることもなく、さらに笑顔を弾けさせた清蘭達に、観客もハイテンションにさせられ、男女関係なく歓声を轟かせていた。
「It’s Sunshine GO! 輝くことが出来るから It’s Sunshine GO! 自分らしさを胸に持って どんな時だってあなたは 私の心で輝いているから」
次の"GO!"の時には、清蘭達のみならず観客も一緒に跳んでいた。
会場全体を巻きこみ、溢れんばかりの輝きを魅せていく清蘭達。
空間がビリビリと揺れる感覚は、倫人も覚えていて。
サビが終わったその瞬間、倫人はギプスで守られている右足をピクッと動かしていた。