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【12345!】──『It’s Sunshine GO!』──➂


 皆が己の個性を引き出す衣装を着ている中で、清蘭も例に漏れず自分らしさを発揮したもので観客の目を惹きつける。

 橙色のスパンコールドレスは照明の光を浴びてキラキラと輝き、スカート部分はフリルとなっていて。編み込み式のブーツは今時の女の子らしさの演出に一役買い、胸元のリボンも可愛さのアクセントになっていた。

 ヘアスタイルはいつものサイドテールではあったのだが、唯一異なる点は虹をかたどった髪留めをしている部分で。

 それは、5人それぞれの光や輝きを意味しているものであった──。


「いっくよーーー皆ーーーっ!!」


 ピアノソロが終わり、訪れた僅かな空白の時間。

 そこで清蘭が叫んだのは歌詞ではなく、自然と口から出た呼びかけの言葉。

 音唯瑠ねいる白千代しろちよ、エデン、エルミカという大切な仲間達と。

 今日ここに来てくれた観客達に向けての、合図の言葉で。

 直後、ピアノソロから一転して曲調はギターが唸りを見せる明るいものへと変貌した。同時に、穏やかな"舞い"から、皆のそれもまさにアイドルらしい"ダンス"へと様変わりする。

 爽快なギターポップスミュージックのBGMに合わせ、ステップを刻んでフォーメーションを変えながら、5人は移動していく。Aメロの始まりだ。


「どこまで行けるんだろう? どこまでだって行ける! そう思って そう信じて 全てが始まるんだ」


 その歌い出しを務めたのは白千代しろちよだった。

 清蘭に代わってセンターの位置となり、その歌声を皆に届ける白千代しろちよ。彼女らしいのんびりさと共に、しっかりとこれまでのレッスンで鍛えられたことも合わさって耳触りの良い心地よい歌声に聞く者は癒されていく。


「この胸のドキドキも これからのワクワクも 全部全部持って行こう」


 白千代しろちよとハイタッチをしてバトンを受け取った清蘭もまた見事な歌いっぷりであった。

 "UMフラッピングコンテスト"で披露した歌唱力はさらに上達しており、清蘭らしい明るさ全快の歌声であると同時に、元々の旋律を崩すことなく歌い切る技術がしっかりと伴っていた。


「始まりはどんな時? その時は今この時! そう決めて そう信じて 全てを始めるんだ」


 男性の声かと疑いそうになる凛々しい歌声、エデンのそれが不意打ちのように訪れる。

 元々高い技術を持っていたエデンの歌唱力は、レッスンを経てさらに素晴らしいものとなっていた。女性らしさと男性らしさの融合、ジェンダーレスな歌声には男女を問わず魅了されるほどに。


「この胸のトキメキも これからのキラメキも 全部全部楽しもう」


 そうした姉の次に歌うことで、エルミカの純粋無垢な声は落差とインパクトを生み出す役割を果たしていた。

 エデン同様、高い技術を既に得ていたエルミカの歌声。レッスンや皆からの刺激を受けて、可愛さをさらに引き出したうえで声量も上がっていたのだった。

 

 4人のソロはそれぞれの色や味を十分に表していて、観客は湧かずにはいられなかった。これが初めてのデビューライブとは思えない程、立派な歌いぶりを披露する皆。

 しかし4人ということは。

 あと1人、ソロを歌っていない者がいる。 

 今もなおステップを刻み、笑顔でダンスを続ける4人のその後ろに。

 最後の1人──音唯瑠ねいるは控えていた。


(こんなに多くの人の前で歌うなんて、初めてだ)


 今もなおダンスをしながら、ふと音唯瑠はそんなことも同時に考えていた。

 これまでのこと──清蘭や白千代しろちよ、エデンやエルミカと共に積み重ねてきたレッスンの日々、そして……自らが一度歌うことをやめなければならなくなった"あの日"のことも思い出していて。胸に言葉では言い表せられない感情が去来する。


(届けたい。これまでの全部を、今ここにいる人達に──!)


 歌えなくなった悲しみも。

 再び歌えるようになった喜びも。

 現実を思い知らされた悔しさも。

 大切な人達に支えられてここにいられることの嬉しさも。

 全てを込めて、音唯瑠は遂に──自らの声を響かせる。


「曇り空を切り裂いて 蒼い世界に飛び立とう 1人だけだと怖いけれど あなたがいるなら羽ばたける」


 その歌声は、まさに"羽ばたく"という表現がぴったりで。笑みを浮かべて口を開いた音唯瑠は、会場の隅々まで行き渡るような綺麗な声を響かせていた。颯爽と吹き抜ける風に、白い羽根がいくつも乗って飛んでいく様が、その声に聞き入った観客全員に浮かぶ。

 "UMフラッピングコンテスト"で魅せたあの時よりも、強く、確かな輝きを放つ歌声。それまでの4人も素晴らしい歌声を響かせていたが、音唯瑠はそれよりもっと人々の心を打ち、音色を優しく染み入らせていく。

 その歌声はあの【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】のアリスやかなでに比肩し得る程のものであったが、音唯瑠のそれを聞いた観客の顔には彼女達の顔は浮かばなかった。

 既に、能登鷹音唯瑠は能登鷹音唯留としての唯一無二の輝きを、放ちつつあったことで──。 


(歌える……私……歌えてる……!)


 心に残っていた緊張は、欠片となって残滓となって、仕舞いには消え失せていて。

 音唯留の顔はさらに笑みが深まり、満面のそれとなる。"UMフラッピングコンテスト"の時に感じた以上の幸福、喜びに笑顔になるのを止められなくなる。


「どこまでも一緒に行こう 歩んだ先に輝きがあるから」


 ビブラートやこぶし、そういった技術を遺憾なく発揮する音唯留。

 しかし彼女の歌声の真の魅力はそこに在らず。

 能登鷹音唯留の歌声の真価は"歌うことが大好き"だという気持ちそのものだ。そして、今の音唯留の歌声には、それが十分を超えて十全に込められており。

 観客はおろか、隣で一緒にパフォーマンスをしている皆の気持ちにも感動を呼び、胸を熱くさせていたのだった。


 再びフォーメーションチェンジの時間となり、ダンスを踊りとステップを刻みながら最終的にターンをして自分達の位置に向かって行く皆。

 清蘭をセンターに、再び最初の立ち位置になると──ここからが、全員で歌うサビのパートであった。


 5人の少女達が放っていたそれぞれの輝きは。

 ここで重なり、更に眩しく、熱く、光る輝きとなる──。



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