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【12345!】──『It’s Sunshine GO!』──①


「──」


 隔たれた壁の向こう側。

 そこにあるのは紛れもない現実であり、同時に真実で。

 それを目の当たりにした瞬間、清蘭きよら達は言葉を失い、目を見開いていた。



 ──誰一人いない客席。ではなく、数え切れないほどの人に埋め尽くされた光景に。



「あっ、出て来た!! 甘粕あまかすさんだーーーっ!!」


「きゃあああぁあああっ!! 甘粕さんこっち見て下さいーーーっっ!!」


 両サイドに広がるスタンド席も、目の前の立見席も、所狭しと人がいる。自分達を見に来てくれた観客だ。

 割れんばかりの歓声、その中の一部には清蘭に向けたエールを送る者達がいた。私立秀麗樹(しゅうれいじゅ)学園の生徒達だ。

 普段の学校生活でも清蘭に送られる賛辞は枚挙に暇がない。しかし今は、それ以上に瞳を輝かせて清蘭に声援と賛辞の言葉を叫び続けていた。


能登鷹のとたかさんだー! 実物凄く可愛いー!」


「パフォーマンス、楽しみにしてますよー! 頑張ってー!」


 音唯留ねいるへの声援も響く。

 もちろんそれは秀麗樹学園生の声が多かったが、中には"UMフラッピングコンテスト"で音唯留の歌声に聞き惚れた全く見ず知らずの者もいて。

 彼らも変わらず音唯留に激励の声を上げていた。歌声を含めて、音唯留の奏でるパフォーマンスの全てに期待を込めて。


「すごーい! 本当に大山田おおやまだグループの娘さんだーっ!!」


「シローっ!! 頑張ってねーっ!!」


 白千代しろちよにも、歓声が聞こえていた。

 "大山田グループの社長令嬢"という物珍しさから興味本位で自分を見に来てくれた者もいたが、多くの観客のごく一部に自身と同じ大学のゼミに所属する者の姿もあって。自分の立場上あまり接することが出来なかったにも関わらず、他の者に負けないくらいの声援を送ってくれていた。 


「エデン様ーーーっ!! 今日もお美しいですーーーっっ!!」


「エルミカたそマジ天使ィィィィィッッッッッ!!」


 エデンとエルミカも、黄色い声援に包み込まれた。

 秀麗樹学園生の中でも"学校一の美少女"である清蘭にではなく、女声らしい気品と男性らしい凛々しさを兼ね備えるエデンに心惹かれ集った者達。同じように天真爛漫で純真無垢なエルミカに庇護欲をかきたてられ集った者達。両ファンクラブの会員達が、熱狂の声を放ち続けていた。


 今宵、【BEGINING(ビギニング) STUDIO(スタジオ)】に集まった観客は総勢2780人。

 無論【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】に比べればその数は及ばないが、デビューライブにして最大収容人数の2600人をも超える人々が集まったのは、初の快挙である。倫人りんと達の【アポカリプス】も、アリス達の【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】も成し得なかった偉業を、既に清蘭達は成し遂げていた。

 しかし、そんなことなど露知らず、ただただ清蘭達は圧倒されていた。目の前の光景に、既に興奮と熱狂を抑えられない観客の皆に、形容できない謎の感情が込み上げて来て。


「っ──」


 瞬間、清蘭達に動きがあった。

 いてもたってもいられず、横一列から飛び出して駆け出したのは清蘭で。

 ステージの端まで全力疾走し、落ちる寸前で立ち止まると──おもいっきり叫んでいた。


「皆ーーーっっっ!!! 今日は見に来てくれてありがとーーーっっっ!!!」


 大勢の観客の歓声、それらをマイクがあるとは言えども上回るほどの声量で、清蘭は素直な今の気持ちを口にしていた。


「あたし達、今日はすっごくすっごくすーーーっごく頑張るから、絶対に見ててよねーーーっ!!!」


 自分達の自己紹介、これから披露する曲がどのようなものなのか。

 そういった基本的なことを全てすっ飛ばし、清蘭はただただ頭を経由せずに言いたいことを観客に向かって叫ぶ。

 しかし、だからこそと言うべきか。

 瞳を輝かせて言ったその言葉は。

 頭ではなく心が選んだその想いは。

 真っ直ぐと観客の心を掴み、刹那の沈黙の後に更なる盛り上がりを生み出していた。


「皆……」


 歓声と拍手を一身に受け、身体の奥底から何かが込み上げて来ていた清蘭。

 が、気がつけば後ろに置いてけぼりにされていたはずの4人は、自身の隣に並んでいて。再び、一列となっていたのだった。


「ふふっ。あの場で飛び出していくなんて、清蘭さんらしいです」


「でも〜置いてけぼりは寂しいよ〜。ボク達だっているんだから〜」


「そうですよ。もう清蘭先輩は1人じゃないんですから」


「そうデス! ワタシ達が傍にいるんですから、置いてけぼりは許さないデスよ!」


 言葉をかけてくれた音唯瑠、白千代、エデン、エルミカ。いずれも、その顔は笑みに染まりきっており、清蘭もまたぽかんとしていたがつられて同じ顔に自然になると。


「じゃあ、次に言うことはせーので言おっか!」


 と、提案していて。その言葉に皆は笑顔のまま首を縦に降る。

 長らく続いていた歓声は、その''何か''を察して次第に止んでいった。

 ''何か''が始まる気配。

 ''何か''が生まれる気配。

 ''何か''が──動き出す気配を。


「それじゃあ聞いててね! せーのっ──」


 今一度、清蘭が観客の皆に負けず劣らずの声で叫んだ後、先の約束を果たすべく合図の言葉を口にすると。

 5人は寸分の狂いもなく、同時に、精一杯に、そして元気と笑顔を貫いたまま──輝き始めていた。


「「「「「【(イッ)(ツサ)(ンシ)(ャイ)(ンゴ)(ー!)】で、『It’s Sunshine GO!』ですっっっっっ!!!!!」





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