【Cutie Poison】──『Die Kill a 唯』──②
奏とリュー、それぞれのソロパートが終わり、テンポを刻む重厚なBGMに合わせて2人は踊る。
細かなステップを刻み、時折ターンを混ぜ、静と動といった緩急を自在に操る。毎度のことながら、素のダンスの上手さは一流と断ずるに余地がないほどの完成度であり、ファン達を酔いしれさせる。
だが、今回はその"いつも通り"に加え、今までにない妖艶なムードが放たれている。
これまでも【Cutie Poison】のパフォーマンスは他のアイドル達とは一線を画し、耽美なエロスを醸し出すというのが彼女達の世界であった。
もちろん、ファン達も普段から伊達に彼女達のパフォーマンスに魅せられているので、言ってしまえば"目が肥えている"のである。しかし、それでも。今回の、『Die Kill a 唯』は、そんな鍛え抜かれたファン達を以てすら、呼吸を忘れてしまうような妖艶さに満ちていた。
Aメロが終わり、続いてはBメロ。彼女達の魅せる新境地、そこに次に登場したのは──
「私 言ったよね? 裏切りは許さないって ねぇ?」
硬派で低いハスキーボイスを特徴とするリューから一転、あまりにも高低差のある"可愛らしい"声。
暗闇に浮かぶスポットライトが映し出さずとも、会場内の誰もが確信する。その声は"最強のロリ系アイドル"蕗莉野ロリィのものであると。
ただでさえ熱くなった全身や顔に、もうその彼女の姿はあまりにも毒であった。ロリィ推しのファンのみならず、会場にいた全ての者はロリィの姿を見ると耐え切れず鼻血を噴き出していた。
普段はマジ天使というイメージやキャラクターで通しているロリィ。しかし今宵の彼女はマジ"小悪魔"であった。衣装は他の皆と同じものだが、そのお尻にはぴょこんと悪魔の尻尾のようなものが生えていて。桃色の髪の頭頂部にも、悪魔のそれのような2本の角があった。
「あなたは笑って 『君が一番だよ』って 心も 身体も 私のスベテに 嘘をついて笑顔作って 裏切り以外にあり得ないじゃない」
どうしてもあどけなさは残ってしまうが、それでも見事に煽情的な声で歌いあげるロリィ。表情も狂おしそうな程に切ないものとなっていて、蒸気して火照っているようにも見えるその顔は、男女を問わず庇護欲と同時に身体に熱いモノを込み上げさせる。
か弱い少女と全く同じ見た目で腰をいやらしく振る様など、この場に集ったファン達でなければ耐え切れなかったに違いない。ある種、ロリィのパートはそれまでの奏やリューに比べて最も危険なものであった。
「あなた どうでも良いのね 私のことなんて ねえ?」
しかし、【Cutie Poison】の面々は手を緩める気など更々なく。4つ目のスポットライトが浮かび上がらせたのは、見た目で言えば最も煽情的な不知火透だった。
ボーイッシュなショートカットの白髪はそのままに、彼女もまたいつものそのイメージを刷新させ"女"を強調させている。何よりもそれを物語っているのが胸の部分であった。
普段はボーイッシュ担当として、元から大きい胸をそうは見せないような衣装を着込む透。だが今は、その"武器"を、惜しげもなく使用していた。ショルダーレスで胸の部分は少し谷間が見えるくらいだが、その大きさは一切隠すことなく彼女の動きに合わせて女性の象徴もまた揺れていた。
「私以上に 良い人がいたのね 心も 身体も 私のスベテで あなたは満足出来なくて だからもう捨てちゃうのね 要らないんだから」
胸もさることながら、やはりこれまでのメンバーと同じように艶のある声を透は響かせる。
彼女の地声はその雰囲気に違わず中性的で、リュー程ではないが女性らしさといった要素はあまり感じられない。しかし、今のこの声を聞いては逆に地声の方を忘れかねない勢いであった。
奏、リュー、ロリィ、透、4人の各ソロパートがあり、ならば次はあのアリス……かと思いきや、曲調の変化と共に訪れたのはミックスパートのCメロであった。
「そうね 私が馬鹿だったわ あなたみたいな男に惚れた 私も悪いのよ それでも『ごめん』だなんて言わないけどね」
奏×ロリィのパート。奏の透き通るような歌声とロリィの幼くあどけない歌声がハーモニーを織り成す。
メインはロリィでハモリを担当するのは奏。奏の歌唱力からするとロリィのインパクトが消えかかってもおかしくはなかったが、そこは上手く調節し絶妙なさじ加減で2人の声が混じり合う。
「私達は罪人同士 浮気者と馬鹿者なのかもね これには神様も両成敗? いいえ間違いなく そうじゃないわね」
リュー×透のパート。リューの男気溢れるハスキーボイスと透の中性的ボイスは先の奏とロリィとの落差を大いに演出し、聞き応えのある二重奏を生み出していた。
「やっぱり悪いのは あなただけよ 私を裏切って 嘘をついて 表面だけ満たして 自分だけ気持ち良くなって それでバイバイなんて ふざけないでよ じゃあ良いわ あなたに最後にこう言ってあげる」
コンビパートが終わると、4人は揃って歌いながら交差しつつ、離れていく。それぞれが元いた場所に正面を見ながら歩いて優雅に戻っていくと……再び暗転。
再び訪れる暗闇と静寂。しかし、見ていたファン達にとってはホッと一息をつけてちょうど良かった。4人の醸し出すあまりの色気に、そろそろ脳が許容限界を迎える所だったが故に。
──だが。ここで終わりなどではない。当然だ。
新曲『Die Kill a 唯』の放つ芳醇で濃厚な艶やかなインパクト、それを真正面から浴びて既に限界を迎えつつあったファン達は一時的に忘れてしまっていた。
音無奏
マッス・リュー
蕗莉野ロリィ
不知火透
ファン達の脳裏に深く刻まれるほどの個性の持ち主である彼女達を、遥かに上回る"猛毒の中の猛毒"という個性の持ち主……
アリス・天珠院・ホシュベリーが、満を持してその魔性の魅力を解き放つ時が来るということを。
「──大嫌い」
その時は、曲の初めに彼女が言い放った言葉と同じもので始まり。
瞬間、会場中は全身に寒気が走るほどの冷たさと、得体の知れない妖艶さに包まれていた。