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センター発表


 アリス達【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】の面々は去っていった。

 緊張の糸がほぐれ腰を抜かす音唯瑠ねいる、「何とかなったね~」と声を発する白千代しろちよ、ホッと安堵の溜息をつくエデン、「怖かったデスー!」と涙目で叫ぶエルミカ。

 各々が自分らしい反応を見せる中で


「やった、勝ったッッッ!!! あたし達に恐れをなして尻尾巻いて逃げやがったわアリスのあんちきしょうっ!! よっしゃあぁああぁああああぁああっ!! アハハイヒヒヒヒウフフフフエへへへへへオホホホホホッホーーーーッッッ!!!!!」


 最も自分らしさを爆発させていたのは、拳を突き上げて歓喜する清蘭きよらだった。

 解釈はともかくとして、アリスからあれ以上反論させたなかったのも1つの事実で。これまでしてやられっぱなしだったこともあって清蘭の喜びようは凄まじく、1人リオのカーニバルを開催しかねないテンションのアゲっぷりだった。

 

「勝ったかどうかは分からないけど……清蘭さん、凄くかっこ良かったです」


「えっ?」


 喜びの舞を踊っていると、音唯瑠から突然そう言われて清蘭は固まった。顔だけでなく、喜びの赴くままに舞い踊っていた身体も驚愕によってぴたりと硬直して。


「清蘭ちゃん本当に凄かったよ~。ボクはアリスちゃんに身も心もブルブルしてたのに、清蘭ちゃんのおかげで今はメラメラだよ~」


「これしか言えませんが……本当に凄かったです。あのアリス様にも怖気づかずに真正面から立ち向かえるなんて……改めて清蘭先輩を尊敬しました」


「皆さんの言う通りデス! 清蘭先輩はとーってもとーっても凄いデーーースっ!!」


「私達が言えなかったことを全部言ってくれて、本当にありがとうございます」


 音唯瑠をきっかけに、皆は清蘭に己の気持ちを伝えていく。最後はきっかけとなった音唯瑠の微笑みで締められていた。

 全てを凍りつかせるような威圧感を発したアリスに、何も出来ずただただ飲み込まれてしまった。その不甲斐なさもあるが、それは心の隅だけにあって。

 それよりも、今はただ伝えたかった。アリス相手に恐怖を押し殺し、立ち向かった清蘭の凄さを。自分達の気持ちを全て言葉にして、心の底から感情を込めて叫んでくれたことへの感謝を。

 しかし、こうも手放しで称賛してはさぞ清蘭は鼻高々に「そうでしょそうでしょ!!」と天狗になるに違いない。

 ましてや、今はアリスを退けたことで有頂天になっている。次の瞬間には盛大な喜び声が響き渡る──そう思い、皆は心の準備をした……のだが。


「ひぐっ……ふええんっ」


「「「「!!??」」」」


 誰が予想出来ようか。いや、出来るはずがない。

 誰よりも自意識過剰で、誰よりも自己中な甘粕あまかす清蘭きよらという少女は。

 皆から褒められ、皆から感謝されたことに、しおらしく涙するなんて。


「えっ、ええっ!? き、清蘭さんどうしたんですか!?」


「ど~したの清蘭ちゃん~? どこか痛いの~? 痛いの痛いの飛んで行け~」


「ち、違うのっ……ぐすんっ。ただ……安心してっ……」


「安心とはどういうことです?」


「だ、だってぇ……あたしだって怖かったんだよーっ! 何なのアリスってば怖過ぎでしょーーーっ!!」


「ぐ、ぐええええっ!! 苦しいデスっ!! 身長差考えてくださ清蘭先輩ーっ……!」


「エルミカ……今は諦めて清蘭先輩の慰み者になってくれ」


 清蘭もまた同じようにアリスへの畏怖を抱いていた。それが、今の涙とエルミカが絶叫するほど抱き締める理由だった。


「よしよし~怖かったんだね清蘭ちゃん~。よく頑張ったね~」


「すみません清蘭さん……。そんなに怖かったのに、アリスさんに立ち向かってくれてたんですね……」


「だってだってぇ~~~っ!! アリスは怖かったけど、それ以上に皆が怖そうにしてるのが嫌だったからっ……我慢出来なかったからぁ……びええええん~~~~っっ!!」


 エルミカの口から魂が抜けかかってる中、清蘭はひたすら泣きじゃくった。

 誰よりも自意識過剰で、誰よりも自己中な甘粕あまかす清蘭きよらという少女は──最早過去のものであった。

 本格的にグループとしてのデビューはまだしていない。しかし、今までに苦楽を分かち合い、共に頑張ってきた音唯瑠、白千代、エデン、エルミカは……清蘭の中で自分と同じ、いやそれ以上の存在となっていた。

 自らの気持ちを押し殺してでも、皆の為の行動を取った。なんて、倫人りんとが聞けば耳を疑い耳鼻科を受診するほどのことではあるが。とにもかくにも、清蘭の精神的な成長は疑いようのないものとなっていた。

 そして──


「……ありがとうございます。清蘭さん」


「清蘭ちゃん、改めてありがとうね~」


「清蘭先輩、本当にありがとうございます」


 音唯瑠、白千代、エデンの3人は子どものようにわんわんと泣く清蘭を囲むようにして静かに抱き締めていた。

 アリスに叫んだあの時に貰った"熱"を優しさに変えて。口から魂の飛んでいったエルミカを抱く清蘭に、慈悲に満ちた抱擁をしてあげていたのだった。



「……随分と長い休憩だったね、皆」



 と、そこに誰かの声。

 ようやく泣き止んだ清蘭と魂が還って来たエルミカを含め、皆は声のした方に振り向く。

 するとそこには見覚えのある男の姿。間違えることなどなく、それはプロデューサーの雄和太おわただった。


「プロデューサー、き、聞いてっ! 休憩が長くなったのは──」


「大丈夫だよ清蘭ちゃん。既に聞いてたから」


「既に……えっ?」


「ひょっとして、アリスさん達とのやり取りを……?」


「あぁ。最初から最後まで、一言一句も漏らさずにね」


 休憩時間をとっくに過ぎていたことには言及しない辺り、どうやら怒ってはいない様子の雄和太。

 頭の中ではアリス達との間に起こったことを思い出しつつも、瞳はしっかりと清蘭達を見据えて話を続ける。


「とりあえず清蘭ちゃん」


「ん? な、何?」


「暴力沙汰は駄目だからね。アリスはあぁ言ってたけど、アイドルとしてとか以前に人として暴力に頼っちゃ駄目だからね」


「……はーい」


「良い子だね。それじゃ、センターの発表(・・・・・・・)といこうか」


「センターの発表かー。センター……?」


「「「「「……」」」」」

 

「「「「「センター!?」」」」」


 5人は沈黙の後、同時に驚愕の声を発していた。

 というのも、レッスンの日々を送っていたが今日に至るまで「センターはまだ決めてないよ」の一点張りだった雄和太。そんな彼から唐突にセンターが誰なのかを告げられるとなると、心の準備があまりにも出来ていなくて。


「ほ、本当にセンターを発表するんですかプロデューサーさん!?」


「そうデスよ!? 今ここでデスか!?」


「あぁ。今ここで、だ」


 エクスカリス姉妹の念押しに、雄和太は澱みなく答える。

 誰がこのグループの、【(イッ)(ツサ)(ンシ)(ャイ)(ンゴ)(ー!)】のセンターとなるのか。アリスの時とはまた違った緊張が流れ、空気が張り詰める。



「センターは……──君だ、清蘭ちゃん」



 答えはさほど続かなかった沈黙を破り、これまた突然に降って湧いていた。

 皆はもちろん、名指しされた清蘭も目をぱちぱちとさせて「あたし……?」と信じられないような面持ちでいた。


「あぁ。清蘭ちゃんがセンターだよ」


「で、でも前にプロデューサーはあたしには無理だって言ってたじゃん?」


「確かにそうだね。でもそれはあの時の清蘭ちゃんの話だ。俺は……しっかりと"今"の清蘭ちゃんを見て、決めたんだ」


「今の……あたし?」


「そうだよ。グループの皆のことを想い、グループの皆の気持ちを汲み取り、グループの皆の為に行動して、グループの皆を照らす、輝きそのもの──それらが、センターには必要だからね」


 確信を持って告げる雄和太に、未だに信じられないといった顔をしている清蘭。

 と、気がつけば肩に手が4つ添えられていて。振り返れば、4つの微笑みが自分に向けられていた。


「……私も、センターは清蘭さんが良いなって思います」


「ボクもそう思うよ~。清蘭ちゃんが良いな~」


「前の清蘭先輩も尊敬していましたが……今の清蘭先輩はもっと尊敬しています」


「清蘭先輩以外には、考えられないデスよ!!」


「っ……!!」


 微笑みを向けて、背中を後押ししてくれる皆に再び目の奥が熱くなる清蘭。

 一度は相応しくないと拒絶され、否定され、心がぐちゃぐちゃになってしまうまでに落ち込んだこともあった。

 それでも、皆の支えがあって、皆の存在が大切になって、大好きになって。

 そうすると、自分のことも好きになれていた。以前よりも、もっともっと。

 ……今なら。

 皆と一緒なら、何だって出来る。本当の意味で、そう思える。

 

「……分かったわ。あたしにっ、任せておきなさいっ!! みーんなを輝かせるセンターになるからねっ!!」


 声に涙を滲ませながらも。


 しかしその顔は、いつもの清蘭らしいドヤ顔を存分に浮かべていたのだった。




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