表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/193

アリス、そして【Cutie Poison】


「あら、怖いわ。鼻血を出したまま、そんな風に睨まなくても良いと思うのだけれど」


 そうは言いつつも、いつもの余裕綽々の微笑みは相変わらずのアリス。

 実際は怖いだなどと微塵も思っていない。そう感じた清蘭きよらは余計に表情をキツいものにしていた。


「どうして、あんたがここにいるのよ」


「それはもちろん、私達もここでレッスン中だからよ。新曲『Die(ダイ) Kill() () ()』をリリースする7月7日まで、日が迫っているし」


「はっ、わざわざあたし達のデビューライブの日に被せて来るなんて、随分と焦ってるじゃん。そんなにあたし達が怖いの?」


「怖い? いいえ、あなた達には今も微塵も魅せられる(・・・・・)気はしないわね」


 淡々と話すアリスに、清蘭はぐぬぬと黙り込む。レスバでアリスに勝つのはどうやらまだ駄目のようだ。

 「それはそうと」と何かに気づいたようなアリスは、清蘭から今度は皆に意識を移す。

 無論、清蘭も音唯瑠ねいる白千代しろちよもエデンもそして意識を失ったエルミカも、全員が鼻血を現在進行形で流している。


「そろそろ、鼻血を止めないとね──」


「!!」


 そう言ったアリスの目が妖しく光ると、あの時と同じく凍てつくようなオーラが全身から発される。

 この場にいる者達のみならず【テレプシコーラ】全体を飲み込むような圧倒的なそれの正体は、アリス自身が普段は内包し抑え込んでいる"魅力"そのものであった。

 目に映る世界が太古の氷河期を思わせるような光景に染まる……かと思えば、それは気のせいで。清蘭達の目の前には再びアリスやその後ろでエルミカの蘇生を続けるロリィの姿があった。

 しかし──異変は確実に起こっていた。


「っ……鼻血が……!」


「と、止まってる……?」


「おわぁ~ホントだ~……」


「……もう出ない、ですね」


 溢れて仕方なかった鼻血が、ロリィに魅せられることで出ていた鼻血が止まっていたのだ。

 それは、同じ【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】だとしても、アリスの方が他のメンバーを超える魅力の持ち主であるということの証であった。


「ロリィ、もう蘇生しなくても大丈夫よ。もうこの空間は、"私の世界"になったから」


「アリスさん助かりましたぁ~! ロリィだけでは何とかならなかったかもしれなかったですぅ~!」


「ハッ!? ココハダレ!? ワタシハドコ!? ……ってわぁああぁああロリィたその顔が近いぃいいいいっていうか隣にアリス様ぁああぁああ!!?」


 無事に意識を取り戻したエルミカだったが、最推しのロリィやまさかのアリスにびっくり仰天。目を飛び出して舌を巻きながら猛烈な速度で後ずさりをし、結果的に清蘭達の所に戻っていたのだった。

 

「ふふ、あなた達とこうして会うのは二度目ね」

 

 と、アリスの言葉で1人騒がしかったエルミカもようやく場の雰囲気に気づいて黙り込み、真剣な眼差しを彼女に向ける。いや、向けざるを得なかった。

 次にアリスが何を言うのか、ともすれば清蘭は一触即発な雰囲気すらも漂わせ、場の雰囲気が張り詰めていく──が。


「オォォォォオオオオォイッッッ!!! ロリィジュースまだかァァァァッッッ!!?」


「ロリィちゃん大丈夫……ってあれ?」


「おわ、何だこの状況?」


 と、角を曲がってやって来た何者か達が、その空気をぶち壊していた。


「あら。リュー、かなでとおる、部屋で待ってれば良かったのに」


 その3人の名前らしきものを呟きつつ、アリスは振り返ってにこやかな笑みを向けている。

 きょとんとする清蘭だったが、清蘭以外の皆はその3人を見て驚きに固まっていた。いや、アリスが私()と言った時点で、ロリィ以外にもメンバーがいることに気づくべきだった。

 遂に、清蘭達は邂逅していた。

 "日本一のアイドル"である【アポカリプス】に次ぐ人気と実力。故に、彼らがいなければその頂点に居座っていたであろう、5人の少女達


 ──【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】──そのメンバー全員と。

 

「我慢出来ねえッッつの!! オレはもう喉からっからでオアシス求めてんだからなァァ!!」


 獅子を思わせるド派手な紅色のロングヘアーに、たくましい腹筋が映える褐色肌。"オレ"という一人称がこの上なくよく似合う【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】一の脳筋もとい肉体派──マッス・リュー


「良かった、ロリィちゃん買いに行ってくれたまま戻って来なくて……何かあったらどうしようって思ってたよ」


 音唯瑠と同じく漆塗りのような大和撫子を彷彿させる黒の長髪、加えて話し声ですらも染み入るような優しい声はその歌声の美しさを表すかのような穏やかな少女──音無おとなしかなで

 

「っていうかさー、この状況一体何なんだ? 何なんだよこいつら? アリスかロリィの知り合いか?」

 

 ブロンド、いや白髪に近いセミロングヘアをかきつつ、ものぐさそうに話す──不知火しらぬいとおる。ボーイッシュな印象を抱かせながらも、その豊満な胸は彼女が女性であることを主張していた。

 そんな彼女からの質問により、後から合流した面々の意識が清蘭達に向けられる。

 当然アリス以外にこの中で面識があるはずもなく訝し気に見つめ、また改めて清蘭達の存在に気づいたロリィも興味津々にしていた。


「ロリィは知りません! あなた方は一体どちら様ですか?」


「ふっふーん! 耳かっぽじって聞きなさい! あたし達は【(イッ)(ツサ)(ンシ)(ャイ)(ンゴ)(ー!)】、これから"日本一のアイドル"になるスッゴイ美少女アイドル達よ!!」


「……あァ? 聞いたこともねェグループだな。ってかそこのアホ面、てめェ今なんつった?」


「"日本一のアイドル"になるって言ったの!! 人の話はちゃんと聞いてなさいよこのモブゴリラ!!」


「てめェ誰がゴリラだコラァァァァッッッ!!! この伝説のスーパーアホ面カスアマがァァァッッッ!!!」


「あんた今、このあたしのことなんつったァ!? 良い度胸じゃない……あんたはこのあたしが直々にブチのめすッッッ!!」


「あーもー落ち着けってリュー! 奏、お前も押さえろっ!」


「えっ。遠慮します。危ないですから」


「"君子危うきに近寄らず"かよ!? ろ、ロリィ手伝ってくれ~!」


「はーい! リューさん落ち着いて下さいぃ~!」


「って、こっちも清蘭ちゃんを止めなきゃダメですよ!」


「確かに~清蘭ちゃんストップ~」


「こうなった時の清蘭先輩を止めるのは至難の業デスーーーっ!!」


 これも宿命なのか、出会うや否や争い始めてしまう【(イッ)(ツサ)(ンシ)(ャイ)(ンゴ)(ー!)】と【Cutie(キューティ) Poison(ポイズン)】(というか主に清蘭とリュー)。

 売り言葉に買い言葉でお互いの逆鱗に触れ合った清蘭とリューの取っ組み合いの喧嘩……にならないよう必死に食い止める他の面々。それでもブチ切れた2人は制止など全く意に介さず、互いにアイドルとしての大切な武器である顔面に1発ブチ込んでやろうと、最低の拳を繰り出そうとしていた。


「~~~♪」


 しかしその拳を。

 いや……全員の時間を、何かが瞬時にして止めた。

 耳を通り抜け、身体の隅々にまで渡り行くような静かな旋律。歌声。

 それは、まさに音唯瑠のそれかと思ったが……違っていた。何故なら、その歌声に音唯留本人も(・・・・・・)きょとんとしていた(・・・・・・・・・)からで。

 歌声のした方を皆で見ると、そこには胸に手を添えて高らかに且つ穏やかに歌声を奏でる少女、奏の姿があった。その歌声は、音唯留にも匹敵し得るものであった。


「……あ、皆さん落ち着いたみたいですよ」


「ありがとう、奏。流石よ」


 奏はアリスの指示で歌声を発していたようで、彼女から称賛の言葉を送られつつ頭を撫でられていた。その最中、奏が頬を赤らめてまるで恋する少女のような表情を浮かべていたことに、アリスは気づいているのかいないのか。

 ともかく、荒れていた場が沈静したのを見ると、アリスは再び口を開く。


「リュー。次のライブ、あなたは出なくて(・・・・・・・・)良いわよ(・・・・)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] CutiePoisonの面々は12345!の面々の上位互換的存在なんですね。 アリスは魅力で、ロリィは愛くるしさで、リューは強さで、奏は声で、透は女性らしさで
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ