生徒会室にて(しかし生徒会役員は暴王ただ1人)
「いやーーーやっぱあたしって天才だよねっ!! くぅ~オレンジジュース美味いッ!!」
腰に手を当てて缶タイプのオレンジジュースをイッキ飲み。まるでオッサンのようなリアクションをしながら、いつもの自画自賛を清蘭は欠かさないでいた。
別に自暴自棄になっている訳ではないが、生徒会室の机の上には既に6つも空になったオレンジジュースが散乱しており、年季の入った机の風格を見るも無残に台無しにしていた。嬉しくて酒もといオレンジジュースの進みが良くなっていて。
「き、清蘭ちゃん。そんなに飲むと近くなっちゃうよ?」
「しまった……差し入れにバレンシア直送のオレンジジュースなんて持ってくるべきではなかったか……」
「お姉ちゃん……ワタシもそれ思ったよ……」
そんな清蘭を窘めたり、逆に自分の行為を懺悔しそうになっているのは生徒会役員。
ではなく、今日の昼休みに生徒会室に呼ばれた非生徒会役員、音唯留、エデン、エルミカの3名であった。
普段は生徒会役員しか入ることの許されない生徒会室。それはあの"4傑"ですらも許されることはない。では何故そんな生徒会室に音唯留達3人がいるのか、理由はただ1つ、生徒会長が甘粕清蘭という秀麗樹学園史上他に見ない邪知暴虐の王だったからだ。
彼女が一度権力を振りかざせば、最早誰も逆らうことが出来ない。学園生1人1人の成績すらも自由自在に決めてしまえるという学園長を超えた権力を持つ清蘭は、その権力を大いに濫用し、3人を生徒会室に呼び寄せていたのだった。
「うめっ、うめっ……!バレンシア直送オレンジジュースッ!! 飲まずにはいられないッ!! いやーこの味を知っちゃうと、もうコンビニのオレンジジュースなんかじゃ我慢出来なくなるね! エデン、これ毎日あたしの家に送ってよ!」
「か、構いませんが……音唯留先輩も仰ったように、飲み過ぎると近くなりますよ?」
「そうデスよ清蘭先輩。後で後悔することになっても知りませんデスよ?」
「いーのいーの! ぷっはぁー! これで7本目ェ! おっ、7本の空き缶が揃ったじゃん! これは何か呼び出せそう! 出でよなんか神々しい龍! そしてあたしの願いを叶えたまへーってね! グハハハハハハハ!!」
「清蘭ちゃん……」
清蘭の喜びように、3人は手がつけられそうになかった。オレンジジュースで酔っているように見えるのは、プラシーボ効果の賜物ではあるが。
これほどまでに清蘭が喜んでいるのは、今朝方の全校集会での演説(?)が主な理由だ。"倫人様ロス"の真っ只中にあった生徒達に叱咤激励をし、前を向かせることが出来たこと。
それは、倫人の代わりに皆に希望や輝きを与えられたことに他ならなくて。そして、それがたまらなく清蘭は嬉しかったのだった。
「あっ、そーだ! シロさんも呼ぼーっと!」
「えぇ!? 白千代さんもですか!?」
「白千代先輩は流石にこの学園の生徒ではないですし、マズいと思いますが……」
「清蘭先輩考え直して下さいデス!」
「何言ってんの~! だって今日は祝勝会らよ~!? 記念すべき勝利を【12345!】の皆で祝わないでろうするのよ~!」
酔ってしまった清蘭は、普段よりも我儘で強情になっていた。
携帯電話を取り出し、白千代との接触を試みる清蘭。対し、3人はそれぞれ音唯留とエルミカが身体にしがみつき、エデンは的確に清蘭の延髄に当て身を打ち込み続けるが、残念ながらどれも効果はいまひとつのようだ。
3人の必死の抵抗が続く中、生徒会室には"ココア"での電話の着信音が響き続けて──
「もしもし~どうしたの~?」
と、遂に白千代の声が聞こえてしまっていた。
「あ~もしもしシロすぁーん!? あたしだよあたしーっ!!」
「わ~あたしあたし詐欺だ~。なんちゃって~どうしたの~?」
「今ねぇー祝勝会らってんのー! シロさんも参加して欲しいらぁーって思って!」
「なるほど~何の祝勝会か知らないけど~楽しそうだから参加するね~。ビデオ通話にするね~」
「ビデオ通話かぁー、まぁ良いや! それじゃ見える位置に置いとくしー!」
本人が意図したかどうかはさておき、白千代の提案のおかげで本人がここに来るということはなくなった。安堵の溜息を3人は漏らしつつ、作戦終了ということで自らの席に戻っていた。
「それじゃ改めて、あたしの完全勝利を祝して乾杯ーっ!!」
「乾杯デース!」
「乾杯~」
「か、乾杯……?」
「とりあえず、乾杯で……」
無邪気なエルミカ、マイペースな白千代の2人はすっかりと清蘭の調子に合わせ、控えめな音唯留と真面目なエデンは未だに校則違反が不安で浮かない顔をしていた。
「いやーそいでさー、やっぱりあたしって天才だと思うんだよ~! 全校生徒を勇気づけたんらしさ~! そうらよねえシロさん!?」
「うんうん~ボクも清蘭ちゃんは天才だと思うよ~」
今朝の全校集会のことを嬉々として話す清蘭に、マイペースに相槌を打つ白千代。かれこれ同じ内容を3回もされているのに、あぁして返事をし続けられるのは流石は年上の包容力と見るべきか。
そんな白千代の長所を見習いつつも、音唯留が気にかけていたのは机の上に広がる空き缶の数。その総数、26本。とても1人の人間が20分程度で飲む本数とは思えなかった。
清蘭の酒は止まることがなく、最早暴飲の域に達していた。親友として清蘭の健康が心配な音唯留はどうにかして止めたいと、何か方法がないかと探っていた。逆に尿意が来てくれないかと期待するも、清蘭のビックリな身体は未だに近くならなかった。
「そーだ! 倫人にも伝えて上げよーっと! あたしの武勇伝デンデデンデン!!」
「……!」
清蘭の更なるはっちゃけ具合に、音唯留は言葉を失う。
口から魂が抜けるような心地に襲われ呆然とする音唯留とエデンを尻目に、清蘭は着々と倫人への電話を進める。
一度白千代との通話を切り、エルミカの携帯から白千代とのビデオ通話を再開させると、後は倫人本人を呼び出すだけ。
「あいつってばどんな顔しやがるのかなー!? あたしがあんたが居なくても悲しんでるヤツらを元気づけたって知ったら、絶対悔しがるだろうなー! ねぇ今どんな気持ち? ねぇ今どんな気持ちって煽ってやろっと〜〜!!」
倫人への挑発を想像してゲス笑いをする清蘭。居酒屋で悪酔いして絡んでくるタチの悪いオッサンのような状態になりつつ、''ココア''で倫人のアカウントを押して通話をしようとした……その時。
「んらぁ〜?」
清蘭が間の抜けた驚きの声を放つ。
それは、逆になったから、であった。
自分が倫人に電話を掛けるのではなく。
倫人の方から、自分に電話を掛けてきていたのだから。